適正な濃度と量のエタノールを粘膜下へ注入することにより肉眼的に極めて効果的な局所粘膜の収縮減量効果が引き起こされることは,すでに前の論文で報告した通りである.本研究はさらに上記のような粘膜の収縮機転を理解するために,エタノール注入後の局所粘膜の経時的変化を組織学的に検討した.
実験動物にはモルモットを用いた.実験群としては2μlの70%エタノールを左側口蓋弓粘膜に.対照としては同一個体の右側口蓋弓粘膜に生理食塩水を注入した.注入後経時的に,すなわち1日,3日,5日,8日,10日,30日,50日および90日後に,肉眼的観察とともに両側の口蓋弓粘膜組織を採取し,常法に従いパラフィン切片を作製,HE染色を施し,光学顕微鏡観察に供した.
エタノール注入1日後では,注入部を中心に局所粘膜組織の高度な凝固変性がみられたが,その損傷は口蓋弓粘膜に限局していた.組織の変性壊死像は注入3日後にピークを迎えたが,それ以降は上皮細胞や線維芽細胞の再生が活発になり,粘膜組織は迅速に修復方向へ向かった.10日後には粘膜組織の線維化の促進に伴い,明らかな口蓋弓粘膜の瘢痕収縮がみられた.30日以降は活発な細胞増殖を伴う再生活動は下火となるが,粘膜下層全体ではより一層緻密な線維性結合織の増加をみて,粘膜れ収縮はより強固なものと考えられた.90日後までの全観察期間を通して,組織細胞の悪性変化所見は皆無であった.
以上の結果から,エタノール注入による口蓋弓粘膜の瘢痕収縮減量効果は速やかな粘膜上皮の再生や粘膜下層の線維化によって発現され,また組織学的悪影響をほとんど及ぼさないことから,エタノール局注法の高い安全性が示されたものと推測される.
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