日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
107 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 畑村 洋太郎
    2004 年 107 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2004/01/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    筆者はここ十数年の間,東京女子医科大学の石井哲夫教授,高山幹子教授,東京大学の加我君孝教授とチームを組んで耳に関する共同研究を続けてきた.その主なものは鼓膜や内耳膜の力学特性の測定,メスによる切開の力学現象の解明,耳からの滲出液の粘度測定,膿出しポンプの開発,注射針の挿抜力の測定,人工音声発生器の開発,脳内埋込電極の開発とそれによる音声信号の脳内伝達の実測,などである.この他にもさまざまな專門領域の医学者と共同研究を行い,医工融合について多くの知見を得た.
    共同研究をすると,当然のことながら考えていることが違うので,ことばが通じない,考え方も違う,価値の置き方が違う,さらにやり方も違う,ということに遭遇する.しかし患者がいて,その人の求めることを実現するには医学者も工学者も協力してこれらの差異を克服しようと努力する.その場合,両者はそれぞれの領域の起源が異なることを認識し,認め合った上で患者のためにすべての活動を行うことが大切である.そしてこのような活動をする人を養成するには医学と工学が融合した一つの領域を作り,そこがルーツだと感じる人材を育てることが必要である.なぜなら入間には“刷り込み現象”があるからである.
  • 熊井 良彦, 鮫島 靖浩, 湯本 英二
    2004 年 107 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2004/01/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    1994年5月より2002年2月までの7年間に,当院呼吸器内科において嚥下性肺炎またはその疑いの診断を受け当科において咽頭X線検査(videofuorography ofthe pharynx.以下VFと略),を施行した61症例を対象として,それらのビデオ画像を嚥下研究会X線透視検査チャートによる評価をもとに解析し誤嚥の病態について検討した,疾患の内訳では,脳血管障害,神経筋疾患が上位を占めるが,なかでも消化管悪性腫瘍術後が16例と全体の25%を占め最も多いのが特徴であった.透視検査にて誤嚥を検出できた38症例(全体の61%)の誤嚥の分類では下降期型誤嚥(下降後誤嚥も含む)が20例で最も多く,また程度では程度1が22例と最も多かった.透視検査にて誤嚥を検出できなかった23例の疾患の中では,消化管疾患が全体の約半数の13例で最も多かった.さらにこれらの食道期の所見では9例には,胃食道逆流を示唆する所見が得られた.程度1から3までに該当するクリアランス不良な症例が,全体の半数を占める12例に上った.VFにて,誤嚥を検出できない症例には,クリアランスの不良な症例が含まれ,その原因として,口腔,咽頭内容物を夜間に誤嚥することだけでなく,胃食道逆流現象も大きな割合を占めることが示唆された.
  • 桂 弘和, 辻 恒治郎, 武藤 俊彦, 寺田 友紀, 佐伯 暢生, 阪上 雅史
    2004 年 107 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2004/01/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    対側耳が高度難聴である一側聴耳(only hearing ear)の場合,手術操作に特に慎重を要する.それは鼓室形成術には感音性難聴の危険性が少しながらも存在し,難聴が生じた場合,日常生活において大きなハンディキャップとなりうるためである.今回我々は,1999年4月から2003年3月までの4年間に兵庫医科大学耳鼻咽喉科で手術を行つた,一側聴耳12例について,(1)対側聾の原因,(2)聴力改善成績補聴器装用,(3)手術方法•聴力改善成績,(4)術前検出菌,(5)鼓膜閉鎖耳漏停止について検討を行った.日本耳科学会2000年案による聴力改善成功率は,気骨導差15dB以内9例(75%),術後気導聴力30dB以内4例(33.3%),気導改善15dB以上6例(50%)であり,全体では10例(83.3%)の改善率であった.また術前に補聴器を装用していた8例中4例が補聴器なしで日常生活が送れるようになった.only hearing carの手術では.熟練した術者が耳小骨付近の操作を最小限にとどめながら手術し,聴力改善がなければ補聴器を装用する方針がよいと思われた.特に高度混合難聴のリスクの高い症例は,術前の患者説明で,聴力が極端に悪化した場合は人工内耳の可能性がある旨を伝えることか必要と考えられた.
  • 外来症例と入院症例の比較検討
    長谷 川武, 竹腰 英樹, 菊地 茂, 飯沼 壽孝
    2004 年 107 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2004/01/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    鼻出血は日常臨床で数多く遭遇する疾患であり,その多くは簡単な圧迫や焼灼により止血は比較的容易である.しかし少数ではあるが止血困難で入院加療を要する症例を経験する.鼻出血の疫学的報告はいくつか存在するが,同一施設で外来症例と入院症例を比較検討したものは現在まで報告されていない,今回我々は,最近4年間に当科において入院を要した鼻出血症例103例と.最近1年間に入院せず外来加療を行った337例を検討した.性差,年齢,季節,出血部位,受診時血圧について外来症例,入院症例で比較検討したところ,入院を要する症例は冬に多く,その中に内服加療を受けていない境界域高血圧症例が多く認められた.境界域高血圧症例は冬に血圧上昇があり鼻出血症状を呈するものと推察した.1回でも鼻出血により入院を要した境界域高血圧症例の場合,冬に再発する可能性があるため厳重な管理が必要であると考えられた.
  • 呉 孟達, 田口 亜以子, 車 哲成, 木村 勝, 稲福 繁
    2004 年 107 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2004/01/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    適正な濃度と量のエタノールを粘膜下へ注入することにより肉眼的に極めて効果的な局所粘膜の収縮減量効果が引き起こされることは,すでに前の論文で報告した通りである.本研究はさらに上記のような粘膜の収縮機転を理解するために,エタノール注入後の局所粘膜の経時的変化を組織学的に検討した.
    実験動物にはモルモットを用いた.実験群としては2μlの70%エタノールを左側口蓋弓粘膜に.対照としては同一個体の右側口蓋弓粘膜に生理食塩水を注入した.注入後経時的に,すなわち1日,3日,5日,8日,10日,30日,50日および90日後に,肉眼的観察とともに両側の口蓋弓粘膜組織を採取し,常法に従いパラフィン切片を作製,HE染色を施し,光学顕微鏡観察に供した.
    エタノール注入1日後では,注入部を中心に局所粘膜組織の高度な凝固変性がみられたが,その損傷は口蓋弓粘膜に限局していた.組織の変性壊死像は注入3日後にピークを迎えたが,それ以降は上皮細胞や線維芽細胞の再生が活発になり,粘膜組織は迅速に修復方向へ向かった.10日後には粘膜組織の線維化の促進に伴い,明らかな口蓋弓粘膜の瘢痕収縮がみられた.30日以降は活発な細胞増殖を伴う再生活動は下火となるが,粘膜下層全体ではより一層緻密な線維性結合織の増加をみて,粘膜れ収縮はより強固なものと考えられた.90日後までの全観察期間を通して,組織細胞の悪性変化所見は皆無であった.
    以上の結果から,エタノール注入による口蓋弓粘膜の瘢痕収縮減量効果は速やかな粘膜上皮の再生や粘膜下層の線維化によって発現され,また組織学的悪影響をほとんど及ぼさないことから,エタノール局注法の高い安全性が示されたものと推測される.
feedback
Top