日本耳鼻咽喉科学会会報
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76 巻, 9 号
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  • 鈴木 昌也, 今井 昭雄, 小島 健二, 北見 治
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1045-1054
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    扁桃の免疫学上の位置づけという基礎的な問題は,扁摘の時期をいつに置くかという,臨床的な問題と密接な関係をもつている.
    扁桃が,胸腺やファブリシウス嚢と同じような中枢性リンパ組織か,脾やリンパ節と同様な末梢性リンパ組織であるかを解明するために,中枢性リンパ組織は抗原の認識をし,抗体の産生を末梢リンパ組織に指令するが,それ自身は抗体の産生を行なわないという性質を用いて,扁桃局所における抗体の産生を証明することによつて,扁桃が末梢性リンパ組織としての位置にあることを論述せんとしたものである.
    実験方法:家兎を用いて次の二つの実験を行なつた.
    1. Jerneの抗体プラク法
    家兎を若年期群(生下時胸腺摘出を行なつたもの,および対照群)と成熟家兎群とに分け,羊赤血球を抗原として,扁桃,リンパ節,脾に対して,Jerneの抗体プラク法を行なった.
    2. 3H標識胸腺の移植による細胞移行実験
    同腹仔を用いた.腹腔内に3H-Thymidineを注射して胸線を標識し,これを正常仔の胸腺と相互に移しかえて,胸腺と末梢リンパ臓器の間に細胞移行の有無をオートラジオグラフィで検討した.
    実験結果並に考按:
    (1) IgM抗体産生細胞は,若年期群,成熟群ともに,扁桃,脾,リンパ節のいずれについても,全例に証明された.
    (2) IgG抗体産生細胞は,扁桃,リソパ節には,証明出来ない例もあるが,脾では全例に認められた.
    (3) 若年期では,IgG抗体産生細胞は証明出来ない例が多かつた.
    (4) 3H標識胸線細胞は,扁桃,脾,リソパ節に移行するが,腹腔内に3H-Thymidineを注射した家兎に移植された胸腺には,3H標識細胞の移行は認められなかつた.
    IgG抗体産生細胞の認明が出来ない例があつたのは,感作方法が静注であること,幼若家兎では,感作回数をふやすと,生下時胸腺摘出による免疫不全から死亡する例が多かつたことなどが,原因と考えられる.
    扁桃には,IgM,IgG抗体産生細胞が存在することや,抗原に対する反応の仕方が類似していることなど,脾,リンパ節との近似性が考えられる.扁桃と脾,リンパ節間にみられる多少の差は,解剖学的な位置の差,すなわち,外界と直接,接しているか否かによるものと推定し,扁桃は局所免疫能を有する末梢性リンパ臓器と位置づけをした.
  • 山中 泰輝, Paul Bach-y-Rita
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1055-1059
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    この研究は前庭性眼振の全体的および部分的動揺をrise time courseから,その機序について解明しようと企てたものである.
    猫がフローセンで麻酔され,水平半規管脚部の骨壁に小窓が耳内法によつて開窓された.眼球が除去され,鞏膜とともに両側の外直筋がRCA-5734ストレインゲージ•チューブに結び付けられた.高位脊髄切断をされ,フローセン麻酔が中断された.前庭刺激は圧迫によった.反応はAmpex SR-300 tape recorderに記録され,あとでオッシロベーバに転記された.
    筋収縮におけるrise timeと前部であるhalf rise time(1)と後部であるhalf rise time (2)のtime courseが眼振の緩徐相と急速相において計測された.眼振列が便宜上,3期に分けられた,第1期は slow rise timeが延長しないときで,第2期はslow rise timeが漸次,延長しているときで,第3期はphase lagが消失したときである.さらに第2期をslowとfast rise time courseの変化よりA,B,Cの3部に分けた.
    全体的にslow half rise time (2)の変化はconstantに延長する.slow half rise time(1)の変化は強い動揺を示した,すなわち,第1期と第2A,B期においてslow half rise time(2)はslow rise timeのconstantな変化に関与し,slow half rise time(1)は部分的な変動に関与する.しかしながら,第2C期において.slow half rise time (2)はslow rise timeの部分的な動揺に関係し,第3期になるとslow half rise time(1)と(2)はともに,slow rise timeの部分的な動揺に関与する,他方fast half rise zime(2)は第1期と第2期においてfast rise timeの延長に関係し,fast rise time(1)は部分的な動搖に関係し,延長を示さない.第3期では両方のfast half rise timeは部分的な動揺に開与してくる.
    この事実よりrise time courseにおける全体的な動揺はtonic activityによるものであり,部分的な動揺はkinetic activityをくよるものであると結論した.
  • 海野 徳二, 打越 進, 川堀 真一, 富山 俊一
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1060-1066
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1. 研究目的:鼻腔通気度の表境には種々の方法が用いられているが,すべての点で満足出きるものはない.近年試みられている有効面積による表現は未だ広く銅いられているわけではなく,これは基礎的実験や,その妥当性の検討を欠くためである.我々は果してこの方法が理論例こも正しく,またどの程度まで実用化されるものかを確かめるべく,模型実験と人体による測定を行つた.
    2. 実験法:有効面積の表現には門の直径を用いた.基礎実験として直径20mmのビュール管の2個所に円い孔をあけた円板を挿入して抵抗とし,これらの抵抗前後の圧差を測定して,直径の変化による抵抗や圧差への影響をしらべ,流量と2つの圧差の関係,抵抗と直経との関係などを検討した.人体の測定には17名の成人男子を用い,抵抗を負荷した鼻用マスクを通して呼吸させ,マスク-咽頭圧,マスク-大気圧を測定し,基礎実験と適合するか否かを検討した.またトランスジューサーや記録計も種々のものを用いて比較した.人体鼻呼吸時の圧流量同時測定も行い,拠物線の関係を確認し,有効面積による表現との比較を行った.
    3. 結果:基礎実験では2個の円い孔の抵抗によつて生ずるそれぞれの圧差は,流量を変化させても直線の関孫を示し,座標軸と作る角度は抵抗が変らぬ限り一定していること,抵抗が僅かに変化しても鋭敏に角度を変えることが確認された.また抵抗と孔の直径の4乗が反比例することが証明された.人体による測定でも流量が約1l/秒までの範囲では,鼻の抵抗と孔のつくる抵抗とは等価と考えることが分り,圧一流量曲線から求められた0.5l/秒時の抵抗と,有効面積を示す直径の約4乗とが反比例の関係にあることも示された.測定する2変数が両方とも圧差で,異系統の変数測定ではないために位相差の問題がなくなり,トランスジューサーや記録計に各種のものが使用可能なことが確認された.圧一流量曲線測定の欠点も分析し,それと比較した際の有効面積による表現の利点を述べ,臨床面での実用化の可能性を強調した.
  • 輪状咽頭筋切断術および咽頭弁形成術
    平野 実, 三橋 重信, 国武 博道
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1067-1072
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    正常者の嚥下時の筋電図をみると,輪状咽頭筋は安静時にも弱い緊張を呈し,食物が食道入口部を通過するときのみ弛緩して,その後は極めて強い収縮を行なう.麻痺性嚥下障害の中には,咽頭内圧を高める筋は麻痺しているのに,輪状咽頭筋は正常のことがある、この場合,輪状咽頭筋ににる抵抗を除くと嚥下障害が緩解され得る.我々は,この様な症例を経験した.
    53才男子,約2年前Wallenberg症候群に罹患,内科的治療を受けていたが嚥下が全く不能である.レ線検査では嚥下第二期の喉頭挙上時にバリウムが下咽頭に貯溜して食道に入らず,喉頭下降時に気管内に流入する.筋電図では口蓋帆挙筋,中咽頭収縮筋,内喉頭筋が麻痺しているのに輪状咽頭筋は正常である.この例に輸状咽頭筋切断術を施したところ嚥下ができるようになり,更に咽頭弁手術を行なつたところ,嚥下はなお容易となった.
  • 加藤 友康
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1073-1094
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:蛋白同化ステロイドは臨床上頻用されており,その副作用中,女性の音声障害の予後はきわめて不良である.しかしこの医原性疾患は,まだよく知られていない面が多いので,ここに改めて取り上げ充分なる検討を必要とする研究課題と考えた.
    研究方法:音声障害の臨床症例検討(女性24症例),人屍体喉頭の光顕下および1,000倍拡大の声帯筋筋線維の直径の太さの検討(13症例),および,SMA雌性白色マウス25匹の同様な検索を行つた.
    結果:(1) あらゆる年令層の女性に起りうる.局所的肉眼的所見では,異常を示さない例が多かつた.今後,薬剤使用前後の音声検査は必須の条件である.中でも呼気持続時間の測定値は全例短縮の傾向を示し参考となる.(2) 1週100mg投与として1ヵ月400mg以上の投与で発症したものが24例中22例(83%)あり,また生理不順開始から,おそくとも,2週間以内に声の障害を伴う例が過半数を示したので,その投与量や月経異常との相関々係にも注意すべき事を再認した.(3) 人屍体喉頭の声帯筋々線維の直径は,性ホルモン大量投与3例,13~18μ,中等量投与1例,13~14μ,少量投与2例9~12μ,に対し,対照群の女性4例のそれは,10~13μ,男性3例15~17μ,の間であつた.(4) 大量投与群ほどその肥大の仕方のバラツキの大なる傾向を示した.(5) 動物実験結果では,3週間の蛋白同化ステロイド投与群5匹(1回1mg,1週2回法で20日目に検索,総量6mg),4週間群5匹(同様操作27日目,8mg),5週間群5匹(同様操作34日目,10mg),8週間群5匹(同様,55日目,32mg)の結果は,それぞれ順にその平均値直径,8.7μ,8.8μ,9.6μ,9.9μ,対照群5週間5匹(1週2回法,落花生油使用)のそれは7.7μでその5週間目同志の間にはに5%の危険率で有意の差を認めた.(6) 音声学的には筋緊張の異常による発声機能不全と考え,今後治療はその筋緊張を高める方向で検討されるべきであろうと推論した.
  • 鼻アレルギー患者鼻粘膜中のIgE containing cells
    石川 哮, 宮下 久夫, 島田 哲男
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1095-1099
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    目的:鼻粘膜局所におけるIgE formationの観察は,抗原抗体反応直接の場における抗体産生がうかゞえるという点は興味あることである.螢光抗体法によつて鼻アレルギー患者鼻粘膜内のIgE分布を観察することを目的とし,各種対照観察を加えて報告する.
    実験方法:ブタクサに感受性のある鼻アレルギー患者及び非アレルギー者鼻粘膜生検材料の凍結切片を,Fluorescein isothiocyanateを標識した,抗人IgE,G,A,M,Dの各々で染色し,螢光顕微鏡下で観察した.同方法により,手術乃至剖検症例更には猿の各臓器組織について観察した結果を対照とした.
    結果:アレルギー患者,非アレルギー者からの鼻粘膜内IgE産生細胞の数には差を認めなかつた.上皮細胞,基底膜にはIgEを全く認めなかつた.人及び猿の臓器組織内IgE産生細胞は,扁桃,リンパ節,腸管粘膜に比較的多く認め,これらに比較して,鼻粘膜を含めた気道粘膜にはIgE産生細胞が少ないという結果を得た.
  • 高橋 妙子
    1973 年 76 巻 9 号 p. 1100-1116
    発行日: 1973/09/20
    公開日: 2008/12/16
    ジャーナル フリー
    1 目的:鼻咽腔は上気道の一部として鼻腔と咽•喉頭の中間に位置し,鼻腔からの気流及び両者の炎症の影響を最もうけやすく臨床的には重要な意義を有する部位であるにかゝわらず,耳鼻科に於ては他上気道の多くの研究に比し殆どかえりみられていない.堀口はこの部の特殊性に関心を向け,特にその炎症に於ける診断と治癒の判定を共同研究者と共に種々の方向より解明してきた.この部の粘膜の組織学的検索については生検を臨床上行いがたいので,わたくしは今回出生直後より85才までの剖検例から得た軟口蓋背面の鼻咽腔粘膜の上皮ならびに固有層に現われる加令的変化を,炎症,リンパ組織,又混合腺に出現するoncocyteに就いて病理組織学的検索を行なつた.
    2 実験法:検索材料は東京医科歯科大学病理学教室に深存されていた剖検例より非選択的に選んだ200例から切除した口蓋垂から後鼻孔にいたる部分を含む軟口蓋の正中部組織片である.通法に従つてパラフィン包埋となした後に,軟口蓋正中部にあたる部分を約1mmの範囲に4μ前後の矢状断方向の階段切片を作製し,ヘマトキシリン•エオヂン染色を主とし時によりP.A.S染色およびメテナミン銀染色も用いた.
    3 結果:1) 軟口蓋背面の鼻咽腔粘膜には気道から種々なる化学的物理的感染性の刺激が反復作用し,そのために多列線毛円柱上皮に種々なる化生を起こし易い.2) 多列線毛円柱上皮は大きな浸透性をもち,上皮下に炎症性反応を起こし易く,気道からの感作に適した粘膜構造をもつている.3) リンパ様組織は上皮下あるいは導管周囲に生後2ヶ月頃より発達し,それ以後85才まで56%位に存在した.リンパ様組織内にはしばしば異型細網細胞の軽い増殖がみられ,この部のリンパ様組織が細網肉腫の発生母組織となりうる可能性を派唆していた.4) 軟口蓋の混合腺の導管部には1才4ヶ月頃からoncocyteの出現がみられ,41才以上では100%に認められ,60才以上では著しい増殖を示すようになつた.この場合のoncocyYeの発生は,この部の混合腺に出生後間もない時期から85才まで現われ,反復性分泌液停滞に関連した組織障害と修復に誘発された化生による可能性を示唆せしめた.
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