身体動揺に関する重心動揺計検査の意義と有効な指標を明らかにするため,正常者106名において,諸種のパラメータにつき統計学的に基礎的な検討を行い,また56名の眩暈症例について正常者との比較検討を行った.
1) 正常者の連続5回の検査結果では,各パラメータとも1回目の検査値が大きく,2回目と3回目以降との高い相関が示された.したがって1回目の検査値は捨て,2回目ないし3回目の検査値をとるべきと結論された.
2) 正常者のパラメータについては,REC AREAがRMS及びSD AREAと,身長がMYと,LNGがMXとそれぞれ高い相関を示した.
3) 正常者の日間変動は,MX, MYを除いて開眼時に比べて閉眼時が大で,各パラメータはそれぞれ一応安定しているものの,開閉眼比の日間変動は大であった.
4) SN比については,開眼時はLNG/TIME, LNG, MY, SDXが大で,閉眼時ではLNG/TIME, LNG, RMS, SD AREA, MY, SDYが大であった.また閉眼時にSN比が大きくなるパラメータがあることから,検査値は開眼時,閉眼時別に考慮する必要がある.
5) 三元配置分散分析によると,困子内では,個体と開閉眼はすべてのパラメータに,日間変動はLNG/TIME, LNG, MXに有意差を認め,因子間では,個体と開閉眼ではすべてのパラメータに,個体と日間変動ではMX, MYに有意差を認めたが,開閉眼と日間変動ではすべてのパラメータに有意差は認められなかった.
6) 正常者群の動揺型については,開眼,閉眼時とも求心型,びまん型,前後型が大部分を占め,各年代による差はなかった.眩暈症例群では正常者群と比べて,閉眼時でびまん型が多かった.
7) 正常者群を開眼時,閉眼時の各パラメータにつき年代別にみると,19歳以下,20歳から69歳,70歳以上の3つの年代群に分けられた.各パラメータについて,開眼時,閉眼時,開閉眼比の正常値の棄却限界を算出した.
8) 典型的眩暈4症例群の日間変動について正常者と比較したところ,開眼時,閉眼時で差を認め,また病態差も一応区別できた.しかし,開閉眼比では正常者との差および病態差は検出できなかった.
9) 正常者棄却限界値にもとづく検討では,中枢性眩暈,末梢性眩暈発作時において陽性率が高く,特に前者で著しかった.また,開眼時,閉眼時で陽性率に差を認めなかった.なお開閉眼比は各眩暈症例群とも多数が棄却限界内にあった.
10) 臨床的には,MX, MYを除くパラメータが良い指標と言える.なお開閉眼比は有用でないと判明した.
以上より,重心動揺計による検査のみでは眩暈患者の病巣診断は困難で,補助診断の一つとして行われるべきだと結論された.
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