視機刺激と前庭性刺激を同時に負荷した場合, 眼振は, たがいに抑制または促進される. 著者は, 健康成人において, 視機刺激と迷路に対する温度刺激を, 同時に負荷した場合にあらわれる眼振の様態について検討した.
検査方法は, 被検者を仰臥位で30°前屈頭位とし, 眼前約85cmにおかれた視性円筒を注視させる. 視機刺激負荷には, 視性円筒 (直径150cm, 高さ80cm, 表面に巾5cmの黒線条12本をはりつけてある) を用いた. 視性円筒は手動で回転させ, 回転速度は, 36°/sec, 60°/secの二通りを主として用いた. 温度刺激負荷には, 永水, 10℃, 15℃, 20℃の種々の異つた注水温度を用い, 注水量20cc, 注水時間10秒の条件で外耳道に注水した. 眼振の記録には, 電気眼振計を用いた.
視機, 温度両刺激負荷の組合わせは, つぎのごとくである.
1温度刺激を加え, ついで視機刺激した場合
a両刺激による眼振の急速相が同方向に向う場合
b両刺激による眼振の急速相が反対方向に向う場合
2視機刺激を加え, ついで温度刺激した場合
a両刺激による眼振の急速相が同方向に向う場合
b両刺激による眼振の急速相が反対方向に向う場合
以上の方法によつて, 温度, 視機両刺激の同時負荷を健康成人30名に対して行なつた結果, つぎの成績をえた.
1両刺激による眼振の急速相が同方向に向う場合, 温度刺激の影響が活発な時期は, 解発される眼振の眼振数, 緩除相眼球速度の増加が認められる.
2両刺激による眼振の急速相が反対方向に向う場合, 温度刺激の影響が活発な時期は, 解発される眼振の眼振数, 緩除相眼球速度の減少が認められる. また, 眼振経過によつて, つぎの三つの型が分けられる. 眼振が, (i) 温度性眼振方向に向う型, (ii) 温度性眼振方向と視性眼振方向に向う眼振が, 不規則にあらわれる眼振方向の不定の型, (iii) 視性眼振方向に向う形である.
以上の成績は, 温度刺激したのち, 視機刺激を負荷しても, 視機刺激したのち, 温度刺激を負荷しても, ほぼ同様である.
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