日本耳鼻咽喉科学会会報
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103 巻, 10 号
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  • 黒田 努, 福田 諭, 千田 英二, 柏村 正明, 松村 道哉, 大渡 隆一郎, 犬山 征夫, 佐藤 信清
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1135-1140
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    過表に自発耳音響放射(SOAE)が誘発耳音響放射(TEOAE)に与える影響について報告されているが,加齢,性別,聴力などの要因が考慮されていなかったものが多い.今回我々は,SOAEがTEOAEに与える影響について以下のように対象を設定し,検討した.
    対象は19歳から24歳(平均21,4歳)の女性78耳で,純音聴力検査での1k,2k,4kHzの平均聴力が15dB以内のものとした.測定にはILO88を用いた.TEOAEは80dBクリック音刺激で260回加算して測定し,SOAEは100回以上加算して,周辺のノイズレベルより3dB以上高い明瞭なピークを持つもので,再現性のあるものをありと判断した.SOAEの有無で2群に分け,TEOAEのReproducibility,Echo powerを比較した.
    SOAEあり,なし共に39耳で,SOAEがある群とない群における1k,2k,4kHzの聴力について有意差は見られず,各指標に対する聴力差が与える影響は除外できるものと考えた.
    TEOAEについては,Whole reproducibility, Total Echo Powerの両者とも危険率1%以下でSOREありの群が有意に高値を示し,従来の報告と同様の結果となった.周波数帯域別のReproducibility, Echo Powerについても1kHzから4kHzにおいてSOAEありの群が有意に高値を示した.またSOAEの数で群分けし,各指標を比較したとにろSOAEの数の多い群ほどWhole reproducibility,Total Echo Powerの各値が高値を示す傾向が見られた.
    今回の検討でSOAEの存在がTEOAEに有意な影響を及ぼすという結果が得られた,現在TEOAEの臨床応用が進められているが,SOAEの存在の影響についても考慮する必要があると思われる.
  • 荻野 智, 飯野 ゆき子, 中本 吉紀, 村上 嘉彦, 鳥山 稔
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1141-1149
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    原発性聴器癌では,耳漏や顔面神経麻痺に加えて感音難聴•めまいといった内耳症状が高頻度に出現する.しかしその側頭骨病理は,1例報告が散見されるのみで,癌の浸潤経路あるいは内耳の形態学的変化に関して詳細に検討した報告は少ない.そにで我々は,帝京大学医学部耳鼻咽喉科研究室の側頭骨病理標本の中で,原発性聴器癌と診断された5症例の側頭骨標本を用い,内耳への癌の浸潤様式に加え,その内耳の病理組織学的変化を検討した.対象は1976年9月より1996年6月までに,原発性聴器癌にて死亡し,剖検を施行した症例5例5耳(年齢:39~73歳,男3例,女2例)であり,今回は対象症例の患側のみを対象とした.剖検所見では,1例を除いた4例の症例に腫瘍の頭蓋内浸潤を認めた.側頭骨病理標本では,癌の浸潤部位,内耳への癌の浸潤様式,蝸牛,前庭,半規管の病理学的変化の3点を主眼において,光学顕微鏡下で観察した.その結果,側頭骨においては様々な治療にもかかわらず,1例を除く全例に腫瘍の残存が認められた.腫瘍が認められた4例では,外耳,中耳,内耳道のいずれにも腫癌細胞が浸潤し,周囲には感染と壊死組織が混在していた.内耳への癌の浸潤は内耳道経由が主であり,中耳より蝸牛内へ癌が直接浸潤しているのはまれであった.この原因として内耳骨包が防御壁となっていると考えられた.また,全例に高度の内耳変性が観察されたが,これは髄膜から内耳道内へ浸潤した癌が内耳道内血管を圧迫あるいは浸潤することによって生じた内耳の循環障害が原因と考えられた.
  • 全摘例の検討から
    松塚 崇, 松浦 秀博, 長谷川 泰久, 中山 敏, 藤本 保志, 寺田 聡広, 奥村 耕司, Hideyuki Takeuchi, Nob ...
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1150-1154
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    甲状腺乳頭癌の全摘例66例(年齢24∼73歳•平均51歳,男11例,女56例)を対象に,対側腺内転移の分布を主病巣の大きさ,および占居部位との関連から検討した.最も大きな病巣を主病巣とし,その最大径を計測した.ついで,その占居部位を甲状腺外科検討会の甲状腺癌取扱い規約に準じて,腺葉の上•中•下(1亜部位)あるいは,上中,中下及び全体(2亜部位以上)として分類した.
    対側腺葉の占拠部位を上•中•下•上中•上下•中下•上中下と同様に分け,組織型が同じで,それぞれ独立した病巣を対側腺内転移とし,その分布をみた.対側腺内転移の頻度は67%(44/66)であった.1亜部位を占める主病巣(A)と2亜部位以上を占める主病巣(B)の別にみると,転移率はそれぞれ64%(14/22),68%(30/44)で,差がなかった.
    転移陽性例について,腺内転移が4つの亜部位占拠様式(上,上中,上下,上中下)のいずれかで上まで分布する例は61%(27/44),AとBの別には,それぞれ,29%(4/14),76%(23/30)で,両者の間に有意差があった(p=0.003).さらにAの亜部位別では,上のとき0%(0/2),中のとき22%(2/9),下のとき67%(2/3),またBの亜部位別では,上中のとき82%(9/11),中下のとき56%(5/9),全体のとき90%(9/10)であった.なお上下に分布して中にはない飛び石転移は全体で7%(3/44)であった.主病巣の大きさ(平均)はA:21mm, B:36mmであった.
    以上,甲状腺乳頭癌における対側腺内転移は,主病巣の大きさにかかわらず発生するが,その分布は主病巣が大きくなるほど対側上を占拠する率が高くなることを明らかにした.
  • 萩野 仁志
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1155-1160
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    日常臨床にてよく患者が訴える症状に咽喉頭異常感がある.器質的疾患や炎症などを否定してもなお残る咽喉頭異常感症がなぜ生じるか,いまだ定説がないが,本論文では本症の原因を探ることを目的として本症が中高年女性に多いことに注目し,同様に骨粗鬆症が中高年女性に多く見られるので骨量の低下と本症に因果関係がないかを調べた.
    対象は1992年2月から1996年までの4年間に東海大学耳鼻咽喉科,伊勢原協同病院耳鼻咽喉科,はぎの耳鼻咽喉科を受診した咽喉頭異常感症患者29名と,対照群は研究協力に同意したボランティア27名である.咽喉頭異常感症の診断基準はBradleyの提唱したprimary globus pharyngeusおよび,日本における咽喉頭異常感症研究会が提唱する治療指針を参考に診断を行った.
    患者群,対照群全員に手部背掌単純撮影を行いX線フイルムからマイクロデンシトメトリー法により第2中手骨の骨密度,その他の骨萎縮度を反映する複数の指標を比較分析した。最も重要な骨密度の指標と言われているΣGS/Dをはじめ,GSminおよびGSmaxの値が全症例の検討で対照群に比較して統計学的に有意な低下を示した.43歳以下および44歳以上で未閉経の女性においても同様の結果が得られた。男性においてはGSminが対照群に比較して統計学的に有意な低下を示した.咽喉頭異常感症の患者において,女性においては閉経前の女性でも有意に骨量が減少していることが判明し,男性でも骨量が減少している傾向があることが判明したため,咽喉頭異常感症の患者においては女性の閉経後におけるエストロゲン欠乏など他の要因で発症する骨粗鬆症を否定した上でも骨量低下を来す可能性が示された.
  • 随伴陰性変動を用いた電気味覚検査
    中村 浩, 東 博二, 川本 亮, 伊東 明彦, 磯野 道夫, 村田 清高
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1161-1168
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    事象関連電位の1つである随伴陰性変動(CNV)は警告刺激S1に対して後続する命令刺激S2の出現を予期することにより発生する.我々はこの特徴を利用し,警告刺激S1に電気味覚刺激を用い,他覚的味覚検査としての有用性について検討した.
    対象50例100側にCNVを用い味覚検査を行い,5例5側のスケールアウトを除く50例95側でCNV閾値が測定できた.測定できたCNV閾値と従来の方法で測定した自覚閾値との相関関係を調べたところ,相関係数0.961と両閾値間に非常に高い相関関係がみられた.CNV閾値の再現性をみるために,自覚閾値正常者5例5側で,日を改めて3回測定した.各被験者において測定できたCNV閾値の差は4dB以下であった.味覚異常者である顔面神経麻痺患者の経過を追えた4症例において,自覚閾値とCNV閾値を比較した.各4症例でそれぞれの自覚閾値とCNV閾値の差は2dB以下であった.これらのことから,CNV閾値の信頼性について満足のいく結果であった.
    次に,味覚障害の詐病検査として,その有用性を検討するために味覚の模擬実験を施行した.被験者はCNVに対して知識をもっている医師3名(知識群)と全く知識を持っていない3名(無知識群),計6名とした.各被験者において,模擬閾値と自覚閾値との差は2dB以下,CNV閾値との差は4dB以下であった.また知識群と無知識群との比較においても,模擬閾値は自覚,CNV閾値に非常に近い値であった.
    以上の結果から,CNVを用いた味覚検査は有用であり,他覚的味覚検査の一つとして十分利用可能であることがわかった.また詐病の診断においても,その有用性が示唆された.
  • 尾谷 良博, 桑原 大輔, 堤 康一朗
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1169-1176
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    様々な癌細胞がFas受容体(Fas)を介するアポトーシスヘの抵抗性を獲得することによって免疫機構の監視から逃れる可能性が示されている.本研究の目的は頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)細胞のFasを介するアポトーシスヘの感受性を調べることであった.われわれは,抗Fasモノクローナル抗体(CHll)でHNSCC細胞株を処理し細胞死を観察した.検討した3つのHNSCC細胞株はすべてFas蛋白を発現しFas-ligand mRNAは発現していなかった.CHllはこれらの3HNSCC細胞株に対して細胞死を誘導しなかった(CHll抵抗性).アクチノマイシンD(ActD)による処理がCHll抵抗性形質をCHll感受性へと変換したことから,このCHll誘導性アポトーシスヘの抵抗性はRNA合成に依存していたことが示唆された.ウエスタンブロット解析ではActD処理細胞と未処理細胞ではBcl-2の発現に差は認めなかった.一方,Bcl-XL発現はActD処理細胞で大幅に減少したことから,検討したCHll抵抗性HNSCC細胞におけるFasからのアポトーシス誘導シグナル伝達はBcl-XLが抑制し得る段階で制御されている可能性が推測された.
  • 中澤 詠子, 楠 正恵, 飯田 善幸, 西谷 全弘, 安藤 一郎
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1177-1185
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    頭頸部腫瘍の化学療法で最も多く使用されているのがCF療法(CDDP+5FU)であるが,このregimenに耐性となった場合,次なる治療が今後の課題である.そこで,CDDP耐性細胞株を用いて固形癌のin vitroモデルシステムである多細胞スフェロイド(MTS)を作製し,これを用いてpaclitaxelの抗腫瘍効果の評価を行った.
    使用した細胞は,喉頭癌由来の扁平上皮癌株であるHEp-2細胞および口腔底癌由来の低分化型扁平上皮癌株であるKB細胞,ならびに各々のシスプラチン耐性細胞で,これを単層培養細胞とLiquid overlay culture techniqueにて作製したMTSにおいて薬剤効果の比較検討を行った.使用した薬剤はCDDPとpaclitax-elである.殺細胞効果はclonogenic assayを用いて,対照とのコロニー形成率の比較にて効果判定を行った.CDDP耐性株の単層培養細胞は,親株に比較してHEp-2細胞株では15倍,KB細胞では10倍の耐性であるのが確認された.pa-clitaxelは用量および時間依存性に殺細胞効果の上昇が認められた.特に,24時間以上の処理では,HEp-2細胞において単層培養細胞,MTSともに,0.085μg/ml(1×10-7M/L)の低濃度でも生存率10%未満の高い殺細胞効果を認めた.KB細胞では,HEp-2細胞に比べてpaclitaxelの効果が若干劣り,耐性株において生存率10%未満の高い殺細胞効果を得るのに,単層培養細胞ではHEp-2細胞と変わりなかったが,多細胞スフェロイドでは0.085μg/ml(1×10-7M/L)以上の濃度で72時間の長い作用時間を必要とした.
    今後,頭頚部扁平上皮癌におけるシスプラチン耐性癌に対して,paclitaxelの抗腫瘍効果が期待される.
  • 服部 康介, 渡辺 昭司, 中村 正, 加藤 功
    2000 年 103 巻 10 号 p. 1186-1194
    発行日: 2000/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    前庭動眼反射系(以下VORと略す)には長期間続く視覚入力の変化に対し,その特性を変化させて頭部運動時に指標の網膜像のずれを防ぐ機構があり,これを適応現象という.今回我々は9名の健康成人を対象とし,視覚-前庭矛盾による適応刺激を30分間与えてVORの特性を変化させ,その変化が他の最大角速度や周波数のVORに影響を及ぼすか否かにつき検討を加えた.適応刺激は,周波数0.3Hz,振幅30°で網膜上の視機刺激のずれ速度を2倍にする試行(×2刺激)と,網膜上の視機刺激のずれ速度をなくす試行(×0刺激)を行った.×2刺激では,適応朝激と同じ刺激速度条件で刺激前後に有意な利得の増加がみられ,また周波数0.4Hz,振幅30°,周波数0.1Hz,振幅60°,周波数0.2Hz,振幅60°への適応現象の移行がみられた.周波数0.3Hz,振幅30°×0刺激では同じ刺激速度条件で有意な利得の低下がみられ,周波数0.1Hz,振幅60°,周波数0.2Hz,振幅60°への適応現象の移行がみられた.以上より視機刺激の網膜像のずれ速度の大きい刺激のほうが,小さい刺激よりVOR利得が大きく変化することが示唆された.高周波数領域での適応現象は低周波数領域に比べて起きにくいが,一度起こるとVORの利得変化率はより大きいことが報告されている(チャンネル説).今回の結果で利得増加の影響は適恋した周波数と異なる周波数に移行することがわかり,また頭部回転の最大角速度の速いほうに強く,視覚-前庭動眼反射系の適応現象に角速度選択性があり,特に×2刺激で速い角速度にVOR利得の変化が移行することがわかった.さらに×2刺激は比較的早期より利得の変化が始まることがわかった.
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