背景: 唾液腺導管癌 (SDC) はその罹患率の低さゆえに多数症例による臨床像の検討が不十分なままで, 補助全身療法を含め有効な治療法の標準化がいまだ困難である.
目的: SDCの予後因子の解析と治療標的候補分子の発現の評価
方法: 1996年から2010年までの15年間に慶應義塾大学耳鼻咽喉科で初回治療を行ったSDC16症例を対象に, 臨床統計学的および免疫組織化学的検討を行った.
結果: 全体の無病3年生存率は29.2%, 疾患特異的3年生存率は72.7%であった. 年齢, 性別, T分類, N分類, Stage分類, 原発部位, 多型腺腫由来の有無の各臨床病理学的因子の影響を検討した結果, 単変量解析ではDFSにおいて年齢, T分類, Stage分類に有意差が認められ, 多変量解析により年齢とT分類が本疾患の独立予後因子と考えられた. HER-2, エストロゲン受容体 (ER), プロゲステロン受容体 (PR), アンドロゲン受容体 (AR) およびMIB-1 (index>20%) の発現陽性率は各々50%, 6%, 13%, 100%, 69%で, 各分子の発現と予後との相関は認められなかった.
結語: 遠隔転移が生存率向上の最大の障壁であるSDCにおいて, 高い陽性率を示すHER-2とARは全身療法の治療標的候補になり得る. 各々の陽性症例に対する抗HER-2療法や抗アンドロゲン療法の有効性を評価するためには, 今後多施設共同研究体制の構築が不可欠である.
抄録全体を表示