日本耳鼻咽喉科学会会報
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116 巻, 7 号
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総説
  • ―人工網膜による視覚の再生―
    小柳 光正
    2013 年 116 巻 7 号 p. 759-766
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    網膜の疾病により失明した患者の視覚を再生するために, 人工視覚の実現を目指して三次元積層型人工網膜チップの開発を行った. また, 開発したチップを実際にウサギの眼に埋め込んで脳誘発電位 (EEP: Electrically Evoked Potential) を観測することにより視覚の再生を確認した. 三次元積層型人工網膜チップを用いた人工視覚では, 眼球内に埋め込んだ人工網膜チップにより光情報を受光し, 網膜の出力細胞に電気刺激を与えて視覚を再生する. 三次元積層型人工網膜チップでは, チップの構造を人の網膜と同じ三次元積層構造とすることで, 高開口率, 高感度, 高解像度の実現が可能となる. また, 眼球運動による視点移動にも対応できるので, 患者に高いQOLを提供できる. チップを眼球内に埋め込んだ後の刺激電流パルスのパラメータの調整は, 眼球外からの無線通信によって行う. 無線通信は, 電力供給にも用いるコイルを使って行う. 電力供給のための高周波信号に, パラメータ調整用のデータを重畳させて送信する. 試作した人工網膜チップを用いて, チップに入射する光信号の強度に比例して, チップからの出力である網膜刺激電流パルスの周波数が変化することを確認した. このような人工網膜チップを電力供給用フレキシブルケーブルに搭載し, 樹脂封止を行うことにより, 眼球への埋め込みが可能な人工網膜モジュールを作製した. 人工網膜チップが搭載されているフレキシブルケーブルの裏面には, 網膜の出力細胞を電流刺激するための刺激電極アレイが形成されている. このような人工網膜モジュールをウサギの眼に埋め込んで, 網膜の出力細胞を電流パルスで直接刺激した時の脳視覚野における誘発電位を観測し, 脳の視覚野に視覚を発生させることができることを確認した.
  • 藤井 正人
    2013 年 116 巻 7 号 p. 767-778
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    頭頸部癌に対する薬物療法はCDDP登場以来, 集学的治療の中で大きな役割を持つようになってきている. 進行癌に対する生存期間の延長を目指した多くの臨床試験によって薬物療法に関するさまざまなエビデンスが得られている. その中でも, 放射線療法との同時併用をする化学放射線療法は標準治療の一つとなっている. 化学放射線療法のレジメンとしてCDDP単独併用は海外の標準となっているが, わが国では十分なデータはない. しかし, 多施設共同研究によってわが国でもレジメンの標準化, 術後化学放射線療法の検討などが行われている. 一方, 導入化学療法に関しては生存への上乗せ効果を証明するデータが少なく, その有用性に関しては疑問視されてきたが, 近年, 強力な多剤併用療法によって導入化学療法が再び注目されている. 進行頭頸部癌の治療効果については生存期間延長のみならず遠隔転移抑制効果や機能温存などでも評価され, その中で薬物治療は重要性を増している. 効果的な薬剤に関しても, プラチナ製剤を中心として, 5-FUやタキサンが併用され, さらに今後は分子標的薬剤も臨床応用が期待されている. 頭頸部癌の集学的治療における薬物治療の進歩について, 化学放射線療法, 導入化学療法を中心にこれまでのさまざまな報告を検討し, 分子標的薬剤も含めた今後の薬物療法について述べる.
原著
  • 山本 哲夫, 朝倉 光司, 白崎 英明, 氷見 徹夫
    2013 年 116 巻 7 号 p. 779-788
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    【目的】札幌周辺や北欧ではシラカバ花粉アレルギーが多く, 交差反応性のため, 果物や野菜に対する口腔咽頭過敏症を有する例が多い. 一方, 原因食物に関しては, リンゴなどの果物は北欧も札幌周辺も多いが, ナッツ類は北欧では多いものの, 日本では少ない. また国内でも, 地域により一部差があり, 花粉飛散や食習慣の差による可能性がある. 今回, 一般成人を対象に, 各食物の摂取歴と過敏症の頻度を調査した.【方法】対象は20歳から67歳の339例で, アンケート用紙を用い, 33種の果物, 野菜, ナッツ類の摂取歴と過敏症の有無を質問した.【結果】摂取歴はブラジルナッツが最も少なく30.1%で, ザクロ80.2%, ヘーゼルナッツ80.8%の順に少なかった. 北海道内の居住歴が20年以上の例は20年未満の例よりプラムの摂取歴が多く, ビワとイチジクとザクロの摂取歴が少なかった. 食物過敏症は53例 (15.6%) があると答えた. 口腔咽頭過敏症が最も多く46例 (13.6%) で, モモ (21例, 6.2%), サクランボ (19例, 5.6%), リンゴ (17例, 5.0%) が多かった. バラ科果物に対する口腔咽頭過敏症は7.7%が有しており, 北海道内の居住歴が20年以上の例では11.0%で, 20年未満の例 (4.2%) よりも多かった. ヘーゼルナッツやブラジルナッツは摂取歴, 過敏症とも少なかった.【結論】食物摂取歴と過敏症に関するアンケート調査を行ったところ, 両者ともナッツ類は少なく, 北海道内の居住歴によって摂取歴や過敏症の頻度に差のある食物があった.
  • 高橋 里沙, 大淵 豊明, 寳地 信介, 竹内 頌子, 大久保 淳一, 池嵜 祥司, 鈴木 秀明
    2013 年 116 巻 7 号 p. 789-792
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS) において, 鼻腔抵抗はその病態と密接に関与している. 今回われわれはOSASに対する鼻中隔矯正術および粘膜下下鼻甲介骨切除術の効果について検討した.
    対象は, 鼻中隔彎曲症と肥厚性鼻炎による鼻閉を伴い, 内視鏡下鼻中隔矯正術と両側粘膜下下鼻甲介骨切除術を施行したOSAS患者9例 (男性8例, 女性1例; 平均年齢53.2歳) である. 術前後に終夜睡眠ポリグラフ検査と鼻腔通気度検査を行い, (1)無呼吸・低呼吸指数 (AHI), (2)最長無呼吸時間, (3)平均無呼吸時間, (4)最低血中酸素飽和度, (5)平均血中酸素飽和度, (6)血中酸素飽和度低下指数, (7)覚醒反応指数, (8)睡眠時間に対するいびき時間の割合の8つの無呼吸指標, および(9)鼻腔通気度について比較検討した.
    その結果, 術前に比して術後に, AHIの有意な低下 (27.6±5.3/時 vs. 20.7±5.5/時; p=0.033), 平均血中酸素飽和度の有意な上昇 (95.1±0.7% vs. 96.0±0.7%; p=0.023), および覚醒反応指数の有意な低下 (30.5±3.3/時 vs. 21.2±5.3/時; p=0.028) が認められた. また, 鼻腔通気度V (P100) は吸気呼気ともに有意に改善した (吸気: 474.4±49.0cm3/s vs. 842.7±50.2cm3/s; p=0.002, 呼気: 467.3±57.3cm3/s vs. 866.0±80.6cm3/s; p=0.004). 他の項目については変化がなく, また術前後のbody mass indexにも変化はみられなかった.
    以上より, 鼻中隔矯正術と両側粘膜下下鼻甲介骨切除術は, 鼻閉を伴うOSAS患者の睡眠時呼吸動態を改善させることが示された. このような鼻内手術の効果はOSASの治療に積極的に応用されるべきであると考えられた.
  • ―CTおよび超音波検査の有用性―
    佐藤 伸也, 橘 正剛, 横井 忠郎, 山下 弘幸
    2013 年 116 巻 7 号 p. 793-801
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    【目的】今回, われわれは右側の非反回下喉頭神経 (NRILN) の術前診断においてのCTと超音波検査 (US) の有用性について検討した.
    【対象と方法】対象は2006年4月から2012年4月までにやましたクリニックで甲状腺手術を施行し, 術中に右下喉頭神経を確認した1,561例. 術前に頸胸部CTを1,086例に, 腕頭動脈分岐部確認目的の頸部USを140例に施行し, 右NRILNの診断におけるCTとUSの有用性について検討した.
    【結果】1,561例中11例に右NRILNを認めた (0.71%). CT施行1,086例中10例に右鎖骨下動脈起始異常を認め, 右NRILNを術前に予測することができた. CTの右NRILNの検出能は, 感度100%, 特異度100%, 陽性的中率100%, 陰性的中率100%であった. 頸部US施行140例中116例 (82.9%) で腕頭動脈分岐部を確認することができ, 右NRILNではないことを術前に予測できたが, 24例では腕頭動脈分岐部を確認できず, その24例中1例のみが実際に右NRILNであった. USでの右NRILNの検出能は感度100%, 特異度83.5%, 陽性的中率4.2%, 陰性的中率100%であった.
    【結語】CTは右NRILNの存在を正確に診断できていた. USは‘右下喉頭神経が正常な走行であること’ を82.9%という高い率で予測できる点で有用な検査であった.
  • 永野 広海, 井内 寛之, 吉福 孝介, 森園 健介, 黒野 祐一
    2013 年 116 巻 7 号 p. 802-807
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    慢性活動性Epstein-Barr (以下EB ) ウイルス感染症 (chronic active Epstein-Barr virus infection; 以下CAEBV) は, EBウイルスの再活性化によるさまざまな病態の総称であり, 単なる感染症ではなくEBウイルス関連リンパ増殖症 (EBV-LPD) である. 症例は44歳の女性. 難治性の咽頭痛を主訴に複数の医療機関を受診し, 診断が確定しないため当科紹介となる. 右の口蓋扁桃と梨状陥凹に白苔を伴う潰瘍性病変と肝機能異常を認めた. EBウイルスの抗体価の上昇, EBウイルスDNAの上昇, 病理組織学的検査より口腔咽頭病変の原因はCAEBVによるものと診断した. 点滴および経口ステロイドの使用により潰瘍性病変の進行は停止し, 肝機能異常の改善, EBウイルスDNAの減少を認めた. CAEBVは, EBウイルスによるリンパ増殖性疾患としてとらえられており予後は不良であるため, 今後は血液内科での化学療法を予定した. 本症例を経験し難治性の口腔咽頭病変ではCAEBVも鑑別する必要があると考えた.
最終講義
  • 渡辺 行雄
    2013 年 116 巻 7 号 p. 808-817
    発行日: 2013/07/20
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    私は1971年に新潟大学耳鼻咽喉科学教室に入局, 1979年に富山医科薬科大学 (現富山大学) に移動, 1993年に前任の水越鉄理名誉教授 (故人) の後任として耳鼻咽喉科学教室教授に就任, 2012年3月に退任した. この間, 耳鼻咽喉科診療全般に従事するとともに, めまい・平衡障害の研究と臨床に専念した.
    私のこの領域との関係は, 眼振分析の情報処理から始まった. PDP12という当時としては画期的な実験室用分析コンピュータを使用し, アセンブリ言語で分析プログラムを開発した. 私は, コンピュータプログラミングが性に合って, 初期はめまい臨床ではなくソフト開発に没頭した. また, 眼振などのアナログ情報処理ばかりではなく, 当時の厚生省メニエール病研究班の疫学調査データ解析を担当した.
    これらの研究は, 富山医科薬科大学にて, より上位機のPDP11を使用して大きく発展した. 具体的には, 平衡機能検査の自動分析システムの構築と眼振・眼球運動の分析 (温度刺激, 回転刺激検査 (VOR), 視標追跡, 視運動眼振, およびこれらの刺激との関連), 重心動揺記録の各種分析, 電気性身体動揺検査システムの開発等々である.
    これらの研究活動とともにめまい臨床に携わっていたが, 当初はあまり興味を持つことができなかった. これは, めまい, 特に難治例に対する治療方法が明確でなかったことによる. しかし, メニエール病に対する浸透圧利尿剤, BPPVへの頭位治療, めまいの漢方治療, 前庭機能障害後遺症の平衡訓練, 難治性メニエール病に対する中耳加圧治療などを経験, 開発して治療選択肢が広がるにつれ, ライフワークとしてめまい診療に取り組むようになった. 特に中耳加圧治療は, 私が本邦で初めて導入し, また, 米国製の医療機器に対し本邦独自の変法を考案, 開発したもので, 私の退任直前の仕事として充実感をもって当たることができた.
    本稿では, 私がめまいとともに歩んだ40年についての退任記念講演会の講演内容を概説した.
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