日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 9 号
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総説
  • 北原 糺
    2014 年 117 巻 9 号 p. 1165-1172
    発行日: 2014/09/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     1970年代に報告された耳音響放射は, 蝸牛における非線形性と外有毛細胞を中心とする能動運動に由来する音響反応と考えられている. 音響刺激のない場合でも内耳由来と考えられる自発性耳音響放射が検出され, 当初耳鳴との関係が注目された. 結局その関連性は耳鳴患者のごく一部に過ぎないとされたが, これを機に耳鳴を音響生理学的に捉えて他覚化することで, 耳鳴の発生機序, 責任部位の解明, 動物実験との比較, 薬物の効果判定, 新治療法の開発, 詐病としての耳鳴の発見などに新しい期待が出てきた.
     1990年代以降は, PET (positron emission tomography), MEG (magneto-encephalography), fMRI (functional MRI) 等の脳機能画像解析検査の普及により, 耳鳴を自覚する脳内賦活化部位の研究が進んだ. これら耳鳴の画像的他覚化の結果を踏まえて, 反復経頭蓋磁気刺激法と呼ばれる非侵襲的脳刺激による治療が検討されるようになった.
     最近, 血中の神経栄養因子 BDNF (brain-derived neurotrophic factor) 値が耳鳴の程度と関連があるか検討された. 耳鳴の程度を血中バイオ・マーカーによって他覚化しようとする試みであり, 興味深い分野である.
     耳鳴動物モデルを用いた研究では, 動物が耳鳴, つまり外部音なしで音を感じた時にとる行動を, 明確に把握する必要がある. われわれのグループは, 防音室内に音刺激装置と足底電気刺激装置を併せ持つ逃避行動実験装置を設け, 新たなサリチル酸耳鳴動物行動実験系を確立した. さらにわれわれのグループは, サリチル酸耳鳴動物行動実験系を使用して, サルチル酸投与ラットのらせん神経節における侵害受容体 TRPV1 (transient receptor potential cation channel super family V-1) の発現上昇が, サリチル酸耳鳴の発生機構に深く関与していることを証明した.
     「耳鳴りの他覚的評価」とは, 耳鳴という通常第三者が聞くことも見ることもできない現象を, 電気生理学的のみならず, 動物行動学的, 分子生物学的なアプローチにより基礎研究的に他覚化し, 臨床検査として他覚化された諸成果とともに, 耳鳴全容の解明, 新しい治療法の発見を可能にする研究分野と考える.
  • ―診断のポイント―
    牧山 清, 松崎 洋海, 平井 良治
    2014 年 117 巻 9 号 p. 1173-1178
    発行日: 2014/09/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     機能性疾患とは解剖学的あるいは病理学的な異常がないにもかかわらず臓器や器官などの働きが低下する疾患を指す. しかし, 国内外では喉頭ファイバー検査上で器質的な異常がなく, かつ運動麻痺がない疾患群を臨床的な意味での機能性発声障害と呼ぶことが定着している. 本稿では狭義の機能性発声障害, 変声障害, 心因性発声障害, 痙攣性発声障害, 喉頭振戦症について診断のポイントを述べる.
原著
  • 橋本 研, 渡邊 健一, 安達 美佳, 川瀬 哲明, 小林 俊光
    2014 年 117 巻 9 号 p. 1179-1187
    発行日: 2014/09/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     はじめに: 外耳道真珠腫 (EACC) はまれな疾患であり, 発症機序をはじめ不明な点が多い. 過去に EACC と血液透析との関連について述べた報告は渉猟し得た範囲では後藤ら (1992), 山本ら (1999) のみである.
     対象と方法: ①当科外来で診察した慢性腎不全を基礎疾患にもつ EACC 7例を対象としその特徴を検討した. ②さらに血液透析患者76例の両側外耳道を調査し, 質問票を用いて危険因子について検討した.
     結果: ①7症例 (ⅰ) の平均年齢は68.4歳, 両側発症は5例のため患耳は12耳で, 発症部位は11耳が下壁または後下壁であった. 5例 (ⅱ) が血液透析患者であった. ②観察可能であった70例中2例 (ⅲ) に EACC の診断をした. 血液透析を行っている EACC 群7例 (ⅱ+ⅲ) と非 EACC 群68例の比較を行ったが, 性差, 年齢, 透析年数, 糖尿病の合併, 喫煙歴, 頻回の耳掃除, 皮膚疾患の合併, 補聴器・イヤフォンの使用について, いずれも有意差を認めなかった.
     考察: 慢性腎不全を基礎疾患にもつ EACC 全9例 (ⅰ+ⅲ) 中6例が両側発症であり, かつ下壁あるいは後下壁にほとんどの病変が存在しており, 共通の病態が背景にあり起因していることが推測された. 全9症例の平均年齢は66.7歳と比較的高齢であり, 加齢の影響をうかがわせた. 血液透析患者の EACC 罹患率は非常に高く, EACC と血液透析あるいは慢性腎不全との何らかの関連を強く示唆するものであったが, その病態および機序については明らかにはなっていない.
  • 上田 哲平, 鵜久森 徹, 富所 雄一, 山田 啓之, 脇坂 浩之, 暁 清文
    2014 年 117 巻 9 号 p. 1188-1193
    発行日: 2014/09/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     耳下腺癌症例に対する治療成績を明らかにし, 臨床病理学的検討を行った.
     1987年1月から2011年11月の間に当科で初回治療を施行した耳下腺癌50例につき検討した. 内訳は男性36例, 女性14例で, 年齢中央値は57歳 (16~83歳) であった. TNM 分類は, T1/2/3/4=4/11/9/26例, N0/1/2=36/3/11例, M0/1=46/4例で, 臨床病期は stage I/II/III/IV=4/10/7/29例であった. 病理組織型は粘表皮癌が16例 (32%) と最多であり, 悪性度分類では高悪性度群が26例 (52%) と半数以上を占めた.
     根治手術例42例での5年粗生存率は72.1%, 5年疾患特異的生存率は74.0%であった. 再発を12例に認め, 初回再発部位の内訳は局所2例, 頸部リンパ節3例, 遠隔5例, 頸部リンパ節と遠隔が2例であった. 50例全体での死因の内訳は局所死11例, 頸部リンパ節転移死3例, 遠隔転移死3例, 他癌死1例, 他病死1例で, 生存が31例であった. 単変量解析による予後不良因子はT4, N (+), stage IV, 顔面神経麻痺, 高悪性, 腫瘍径4cm以上であった.
     予後の改善のためには予後不良症例に対しての術後治療を考慮する必要があると考えられた. また遠隔転移の制御も課題であると考えられた.
  • 柴田 博史, 久世 文也, 林 寿光, 西堀 丈純, 青木 光広, 水田 啓介, 加藤 史門, 安藤 健一, 伊藤 八次
    2014 年 117 巻 9 号 p. 1194-1199
    発行日: 2014/09/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     副甲状腺嚢胞からの出血はまれな現象である. 背側に後咽頭腔があり解剖学的に疎な構造であるため, 出血が拡がると気道緊急の原因となるなど, 時に重篤な状態となる. 今回, 50歳の女性で, 副甲状腺嚢胞から発生した特発性頸部出血の1症例を経験した. 後咽頭腔の画像所見は初診時に出血を疑った. 手術, 検査所見から非機能性の副甲状腺嚢胞出血と, 後咽頭腔の浮腫が起きていたと診断した. 運動時の頸部捻転が出血の誘因となった可能性がある. 浮腫の原因は嚢胞の圧迫, 静脈, リンパ系の滞留, 動脈塞栓後の影響が考えられるが, 気道緊急に至った例は過去に報告がなくまれな症例である.
  • ―乳児期に ABR90dBnHL 無反応であった児の聴力経過より―
    片岡 祐子, 福島 邦博, 菅谷 明子, 前田 幸英, 西﨑 和則
    2014 年 117 巻 9 号 p. 1200-1204
    発行日: 2014/09/20
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     近年新生児聴覚スクリーニングの普及により, 難聴児の多くは生後数カ月のうちに診断され, 療育を開始している. 一方, 特別児童扶養手当に関してはオージオメーターによる検査が可能となるまで受給されず, 診断から受給までの間に年単位の時間差が生じているのが現状である. われわれは, 生後12カ月までに ABR を実施し, 両耳 90dBnHL で無反応であった児の聴力経過の検討を行った. その結果, 聴覚障害単独の児では特別児童扶養手当に該当するか否かは1歳時点で可能であるが, 等級の判定は1歳で慎重な判断が必要であること, また重複障害をもつ児は検査を繰り返し慎重に診断する必要があるが特別児童扶養手当の判定は可能であると判断した.
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