サイトケラチン(以下CKと略す)は中間径フィラメントに属する細胞骨格蛋白の一つで,細胞,組織の形態保持を担うものとされている.蝸牛におけるCKの機能的意義の解明には,CK局在の検討が重要と考えられるが,これまでの報告は蝸牛の一部のみの検討がほとんどで,回転間の差異を検討したものはほとんどない.そこでモルモット蝸牛におけるCK局在の回転差を免疫組織化学的に光顕および電顕にて観察し,CKの機能的意義を考察した.
プライエル反射正常のモルモットを用い,光顕的観察にはHeidenhain-SuSa液にて固定,三塩化酢酸で脱灰,セロイジン包埋した標本を用いた.脱セロイジン後,6種の抗CK抗体を用いたABC法による免疫染色を行い,蝸牛回転間におけるCK局在の差異を観察した.電顕的観察では,Zamboni液にて固定しPAP法を用いた前包埋法により,回転間の差異を観察した.
蝸牛におけるCKの局在はコルチ器支持細胞,外ラセン溝細胞,ラセン隆起細胞,歯間細胞,ライスネル膜に認められ,内外有毛細胞,血管条には認められなかった.回転間の変化として,コルチ器では上方回転ほど柱細胞,ダイテルス細胞のCK発現の増強が認められ,ヘンゼン細胞によるCK陽性域も増加した.一方蝸牛管外側壁では外ラセン溝細胞の分布に一致しCK陽性域が下方回転ほど増加した.これらより,モルモット蝸牛回転間においてCK局在の差異の存在が明らかになった.上方回転におけるコルチ器のCKの増加は,CKが柔軟な弾性のある構造を与え,コルチ器の形態保持と周波数弁別に関与していると考えられた.
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