(目的) 従来よりメニエール病の病態を内耳の自己免疫あるいは浮腫と考え, その治療法としてステロイドの全身投与もしくは中耳腔投与が行われてきた. 今回我々は薬物投与経路として内リンパ嚢に注目し, 難治性メニエール病患者の内リンパ嚢内腔へ高濃度ステロイドの局所投与を試みた.
(対象・方法) 難治性メニエール病20例に対して, 内リンパ嚢高濃度ステロイド挿入術 (endolymphatic sac drainage & steroid-instillation surgery: EDSS) を施行した. 本術式では嚢内腔に水溶性プレドニゾロン塊を挿入溶解させ, デキサメタゾン加ゼルスポンジを挿入留置し, フィブリン糊にて被覆固定した.
(結果) 術後観察期間17-32カ月で, 20例中15例 (75%) にめまい発作消失, 再発5例についても改善~軽度改善傾向を示した. 術前術側CPを示した一側メニエール病11例中5例 (45%) にCP陰性化が認められた. 聴力成績に関しては20例中12例 (60%) に10dB以上の聴力改善が認められ, さらに20例中9例 (45%) では術前6カ月の変動幅以上に改善した. また聴力改善12例中, 術前グリセロールテスト陽性例および疑陽・陰性例はいずれも6例ずつであった. 耳鳴の気になり方については20例中15例 (75%) で改善した. 術前グリセロールテスト陽性10例中7例 (70%) が術後陰性化した.
(考察) 難治性メニエール病患者の内リンパ嚢内腔に高濃度ステロイドを局所投与することで, 長期的にも良い成績を得ることができた. とくに術前聴力70dB以上の高度進行例7例含む対象群に対する本法の良好な聴力改善成績は, 他の保存的ステロイド治療もしくは内リンパ嚢手術治療に例を見ない. その理由としては, 内リンパ嚢の開放拡大とともに高濃度ステロイドの内リンパ嚢内直接投与の相乗効果の可能性が考えられた.
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