症例は72歳の男性.1993年当院にて直腸癌のために低位前方切除術を施行し,その後毎年大腸内視鏡検査を行ってきた.1997年7月2日にも大腸内視鏡検査を行い,検査中は特に異常を訴えることはなかった.同日深夜より発熱を認めたが,腹部症状の自覚はなかった.末梢血中の白血球数の増加,血小板数の減少,CRPの上昇がみられ,入院治療とした.なお,腹部に圧痛はなく,平坦軟であった.腹部造影CTにて上腸間膜静脈内の血栓の存在が疑われ,腹部血管造影により同静脈の不完全閉塞を確認した.以上の所見より上腸間膜静脈血栓症(SMVT)と診断し,末梢静脈からの血栓溶解療法を開始したところ,血栓の縮小と症状の改善が得られた.SMVTは稀な疾患であり,これまで大腸内視鏡検査に伴う偶発症として報告されたものは見当たらない.腹部手術の既往のある症例で,大腸内視鏡検査後に発熱や腹部症状を呈した場合には,本症も鑑別疾患の1つに挙げて対処する必要がある.
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