直径5mmのゴム円盤を用いた内視鏡的胃潰瘍面積測定法のヒト生体胃内における測定誤差について検討を行った.健康成人の胃内に潰瘍モデル(20mm乃至30mmのゴム円盤)を経内視鏡的に鉗子を用いて挿入し,この面積を円盤法により測定した.その測定誤差は3.12±1.96%であった.また胃潰瘍患者の内視鏡検査時に円盤法による写真撮影を異なった距離で2回以上行った124病変の計349回の測定値について検討した.各距離で撮影した面積の平均値を真の面積値と仮定し,各測定値と真の面積との比較検討では,2.9±4.0%の誤差率であった.以上より,本法の臨床的応用が充分可能であることが再確認された.つぎに,この測定法を臨床例に応用し,各種治療法による胃潰瘍面積の縮小速度について比較検討した.入院治療では,治療開始後2週目で初回潰瘍面積の平均29%の大きさに縮小したが,外来例では同時期に平均49%の縮小であり,入院治療は外来治療に比し,治療開始後早期より著明な潰瘍面積縮小が認められた.制酸剤,Histamine H2受容体拮抗剤(以下H2 blockerと略す),粘膜保護剤のそれぞれ単独にて治療を行った外来例については,H
2 blocker治療例において最も潰瘍の縮小が速やかであった.また,従来より潰瘍治癒促進作用はないとされている制酸剤少量(偽薬量)投与でも,入院下であれば,治療開始後2週目で治療前の面積の24%に縮小し,入院という心身の安静が潰瘍の縮小に多大な影響を与える事が再認識された.更に制酸剤や抗コリン剤などの従来の潰瘍治療薬でも,入院下であれば,H
2 blockerの外来治療に劣らず,むしろ治療開始早期においては,潰瘍面積縮小は速やかであった.以上の事より,心身の安静下における潰瘍の自然治癒力は極めて大きく,従って潰瘍治療に際して早期の入院ないし安静加療は決して無視できない治療法である.しかしながら,極めて頻度の多い疾患であり,また,同一人にしばしば治癒再発をくり返す潰瘍症に対し,再発ごとに入院治療せしむる事は,本人は勿論,社会的に見ても大きな損失である.結局,潰瘍治療の目標は正常の社会的活動生活からの脱落期間をできるだけ短かくし,社会的正常生活の継続の中での治癒を自然治癒力に近づける,あるいは凌駕せしめる事であると考える事ができる.H
2 blockerは従来の薬剤に比して一歩これに近づいたものであるといえよう.
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