当教室で1968年から1978年の間に経験した早期胃癌138例,早期胃癌類似進行癌45例について,深達度診断,分類上の問題点,癌の所属腺域別特徴の面から検討を加え,つぎのような結論をえた. (1) 早期胃癌類似進行癌の深達度診断において,癌がpmより深く浸潤しているか否かを決定する特異的診断指標はなく,今まで使われている深達度診断指標もsm浸潤の有無を示すものでしかない.しかし,既存の深達度診断指標の量的差異と多彩性とを総合的に判断すれば,72.5%の深達度診断正診率がえられる. (2) 早期胃癌IIa+IIc型,IIc+IIa型症例の肉眼分類と内視鏡分類とを対比した結果,その分類上のくいちがいの原因として,病巣が小さいこと,IIc辺縁の隆起が癌であるか否かの判定が困難であることがあげられた.前者の問題は,メジャー鉗子の使用,後者は直視下生検法の併用により是正されると考える. (3) 早期胃癌の所属腺域別頻度は,幽門腺領域の癌が76.8%ともっとも多く,ついで境界腺領域の癌13.8%,胃底線領域の癌9.4%であった.胃底腺領域においては13例中13例(100%)とそのすべてが未分化型癌であり,幽門腺領域においては106例中87例(82.1%)と大部分が分化型癌であった.慢性胃炎のうち,萎縮性変化の少ない症例に未分化型癌が多く,萎縮性変化の進んだ症例に分化型癌が多いことから,粘膜の萎縮と発癌(とくに分化型癌)の間に深い関連があることが示唆された. さらに,微小胃癌44病変について,主として内視鏡診断の面から検討を行った.その結果,内視鏡による存在診断は79.5%に正しく行われており,存在診断不能例はなんらかの合併症を有する副病変として術後に発見されたものであった.また,内視鏡的に診断可能な微小胃癌の病巣長径は4mmであった. 内視鏡による質的診断は85.7%に正しくおこなわれ,直視下生検を併用することにより,その正診率は向上した.直視下生検の癌陽性率は94.3%と良好であった. 今後,微小胃癌診断の進歩のために,拡大内視鏡の改良,色素内視鏡検査法の応用が必要であると考えた.
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