「背景・目的」種々の膵疾患によりleft-sided portal hypertensionの病態を呈した場合,消化器静脈瘤を合併することがある.しかし,この病態についての血行動態も含めた臨床的特徴に関してはあまり検討されていない.今回我々は,膵疾患に伴う胃食道静脈瘤を経験したため,血行動態を含めた臨床的特徴について検討した.「方法」1993年から2003年8月まで当科にて診療を受けた急性膵炎を除く膵疾患症例105例のうち,上部消化管内視鏡検査にてF1以上の胃静脈瘤が認められた6症例を対象とした.膵疾患の診断には,腹部CT,MRI,ERCPなどの画像診断に加え,膵液吸引細胞診や擦過細胞診,またはEUS-FNAなどの病理学的診断も行った.また,静脈瘤血行動態の解析は,3D-CTを含む造影CT,または腹部血管造影にて行った.「結果」6症例いずれも膵疾患(慢性膵炎1例,膵癌4例,転移性膵腫瘍1例)のために脾静脈が閉塞しており,脾門部から閉塞部位の間で局所的に門脈系静脈圧の充進状態にあったものと考えられた.また,全症例で胃静脈瘤は胃噴門部ないし弩窪部から胃体部全体にかけて広範囲に存在する特徴を有していた.これは,高まった脾静脈圧の緩衝経路としての,短胃静脈から胃冠状静脈を介し門脈本幹へ流入する経路,および短胃静脈から胃大網静脈を介し門脈本幹へ流入する経路の2経路により胃静脈瘤が形成されたためと考えられた.また,肝硬変症を合併していた1例と幽門側胃切除の既往がある1例では経過観察中に食道胃静脈瘤の破裂が認められた.「結論」膵疾患に伴う局所性門脈圧充進症に伴った胃静脈瘤の内視鏡的特徴として,胃噴門部ないし宥薩部から胃体部全体におよぶ広範な胃静脈瘤であることが挙げられた.また,このような静脈瘤は,血行動態的に静脈瘤出血の危険性は必ずしも高くない可能性があるが,肝硬変などにより門脈圧充進状態が合併している場合は,静脈瘤出血の危険性を考える必要がある.
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