胃癌の原因はHelicobacter pylori(H. pylori)感染症であり,その除菌治療は胃癌発症を抑制することが多くのコホート研究,ランダム化比較試験,メタ解析から明らかになっている.しかし除菌後も完全には胃癌が抑制されず除菌後に発生する除菌後胃癌が問題となっている.除菌後胃癌は男性,高齢,萎縮および腸上皮化生高度,地図状発赤出現などが高リスク因子であり,表層を異型の乏しい組織,内視鏡的に胃炎様所見が覆うことから判別が難しくなる.また除菌後胃癌の多くは分化型だが未分化型は進行例が多く注意が必要である.除菌10年以降は萎縮軽度から中等度例で未分化型胃癌の発症率上昇が認められ,除菌後経過観察がないことがリスク因子となる.今後,胃粘膜のメチル化異常の程度や胃炎の京都分類第3版などを用いた除菌後胃癌の早期発見・治療への対策が必要である.
経口胆道鏡(peroral cholangioscopy:POCS)には,親子式経口胆道鏡と直接経口胆道鏡がある.現在は親子式経口胆道鏡が主流であり,直接経口胆道鏡は経鼻内視鏡などの細径内視鏡を用いるが,技術的な問題などから対象は限定的である.親子式経口胆道鏡の子ファイバーとして,本邦では画質に優れるCHF-B290と操作性,洗浄性能に優れるSpyGlassTMDSが汎用されている.
診断における経口胆道鏡の有用性は,胆管狭窄における良悪性の鑑別と胆管癌の進展度評価であり,治療における経口胆道鏡の有用性は,治療困難な胆管結石の採石である.しかしながら,診断・治療,いずれにおいても使用できるデバイスの性能や種類が限られており,現行のデバイスの改良や新たなデバイスの誕生,さらにはそれらを使用するスコープそのものの改良が必要である.
経口胆道鏡の新たな進歩として,画像強調内視鏡や人工知能診断が出てきており,今後さらなる発展が期待される.
【背景・目的】近年90歳以上の総胆管結石症例は増加傾向にあるが,内視鏡治療の有効性や安全性についてはほとんど検討されていない.そこで90歳以上の超高齢者における内視鏡治療の有効性,安全性について検討することを目的とした.
【方法】2015年4月1日から2022年3月31日までに当院および糸魚川総合病院において内視鏡治療を試みた超高齢者の総胆管結石症例86例を対象とし,結石除去群(56例)と胆管ステント留置群(30例)において偶発症や胆管炎の再発率などを後方視的に比較検討した.
【結果】早期偶発症は結石除去群で3例(5.3%),胆管ステント留置群で1例(3.3%)であり,安全性は同等であった.胆管炎の再発率はそれぞれ6例(10.7%),13例(43.3%)であり,胆管ステント留置群で有意に高率であり(p=0.001),そのうち2例(6.6%)が胆管炎で死亡した.
【結論】超高齢者の総胆管結石症例においても内視鏡治療が可能な症例では,胆管ステント留置にとどめず,完全結石除去まで試みた方がよい.
症例は72歳男性.ダビガトラン内服開始1年後に心窩部痛,胸やけを自覚した.上部消化管内視鏡検査で,中部,下部食道に白色の膜様付着物を伴う剝離性食道炎を認め,ダビガトラン起因性食道炎(dabigatran-induced esophagitis:DIE)と診断した.ダビガトランを中止し2カ月後には,食道炎は改善していたが下部食道に2/3周性の進行食道癌を認め,食道癌によるダビガトランの停留を契機にDIEが発症したと考えられた.DIEと食道癌の合併例は少なく,DIEの発生機序を理解する上で貴重であると考え,文献的考察を加えて報告する.DIEを認めた場合には食道癌など停留をきたす所見に注意して内視鏡の再検査を行うことが重要である.
47歳女性,血便精査の大腸内視鏡検査でS状結腸に粘膜下腫瘤(submucosal tumor:SMT)様隆起に連なる潰瘍病変を認め,HE染色で低分化腺癌と診断された.画像上,S状結腸以外にも骨盤内に多数腫瘤を認め,腫瘍マーカーはCA125が高値であった.免疫染色でCK7(+),CK20(-),Pax-8(+)と判明し,婦人科癌の転移と診断した.審査腹腔鏡を行い,卵巣に異常を伴わない腹膜播種の所見であったため,腹膜癌(高異型度漿液性腺癌)と診断した.化学療法3コース後にdebulking surgeryを実施したところ,卵巣に同様の腺癌を認め,卵巣癌の診断に至った.骨盤内腫瘤を伴う大腸腫瘍では免疫染色を考慮することが有用である.
60歳男性.近医の大腸内視鏡検査でS状結腸に隆起性病変を指摘されたため当院に紹介され受診した.S状結腸にある15mmのⅠsp型大腸腫瘍に対してEMRを施行したところ,創部から拍動性出血があった.複数のクリップで創部を縫縮するもクリップの隙間から漏出性出血が持続した.創部にクリップが連なっていたことでクリップ法の追加ができず,また出血点を同定できなかったことから止血鉗子による電気凝固止血法も困難と考えた.そこで生体適合性合成ペプチドゲル ピュアスタットⓇを塗布することにより止血を得ることができた.クリップ法だけで止血が困難なEMR後出血症例に対して,ピュアスタットⓇによる止血剤の併用は,安全で有用な手段として選択肢となる可能性がある.
症例は66歳男性.腹部超音波検査で膵管拡張を指摘され,当院を受診し,磁気共鳴胆管膵管撮影(Magnetic Resonance cholangiopancreatography:MRCP)で主膵管拡張を認めた.ERCPで主乳頭からの腹側膵管造影では主膵管との交通はなく,副乳頭からの背側膵管造影では膵頭部の副膵管の限局的な狭窄と尾側膵管の拡張を認めた.ソナゾイド造影下EUSでは,膵頭部に長径11mmの乏血性腫瘤を認めた.膵管癒合不全を背景とした副膵管領域膵癌が疑われ,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理診断は副膵管領域原発膵癌であった.通常副膵管領域膵癌は主膵管拡張を呈しにくいが,本症例は膵管癒合不全により早期に尾側膵管拡張をきたし,膵癌の早期診断に至った.
近年,高齢化により非ステロイド性消炎鎮痛薬(Non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)や抗血栓薬の投与が増加し大腸憩室出血の頻度は増加傾向にある.大腸憩室出血に対する内視鏡的止血術は従来よりクリップ法が中心であったが,徐々に結紮法が広まってきている.結紮法は憩室をフード内に吸引翻転し憩室頸部を結紮することで止血を行う方法であり,従来のクリップ法に比べて再出血が少なく有用な止血法である.結紮法にはゴムバンドを使用する内視鏡的バンド結紮術(Endoscopic Band Ligation:EBL)法と留置スネアを使用する内視鏡的留置スネア結紮術(Endoscopic Detachable Snare Ligation:EDSL)法があり,本稿ではEBL法およびEDSL法の手技の概要を解説する.
金属ステントを用いた胆道ドレナージの問題には十二指腸内容物の逆流によるステント機能不全があり,その対策として逆流防止弁(anti-reflux valve,ARV)付き金属ステント(anti-reflux metal stent,ARMS)が開発された.現在までに数多くのARMSが報告されているが,一般的な金属ステントに対する優位性は十分に示されておらず,今後も更なる研究・開発が必須である.ARMSの留置法は通常の金属ステントと大きく変わらないが,ARMSの展開時にARVを確実に十二指腸内に露出させるためステントの金属部分が乳頭を横断するように留置することが重要である.ARMS閉塞時も通常の金属ステントと同様にステント交換を試行するが,抜去に難渋する場合にはstent-in-stent法によるステントの追加留置や,経消化管・経皮的アプローチなど他のドレナージ法による対処を考慮する.
【背景・目的】急性胆管炎を有する術後再建腸管(surgically altered anatomy:SAA)症例に対するショートタイプシングルバルーン内視鏡(short-type single- balloon enteroscopy:short SBE)下ERCPの成績について評価した.
【方法】2011年9月から2022年4月までの期間の成績を解析した.治療開始を24時間以内と以降に分けて比較した.主要評価項目を入院期間(length of stay:LOS)とした.
【結果】56例に24時間以内,58例は24時間以降に治療を行った.手技成功率と偶発症は87.7%と4.4%であった.Grade Ⅲの急性胆管炎と全身性炎症反応症候群症例により24時間以内に治療を行った.LOSと退院までの日数は早期治療介入群において有意に短かった.多変量解析では,24時間以内の治療がLOSの短縮に影響していた.重症胆管炎と悪性胆道狭窄症例はLOSの延長に影響していた.
【結論】急性胆管炎を有するSAA症例に対するshort SBE下ERCPは有効かつ安全に施行できた.早期治療介入は早期に全身状態を改善し,LOS短縮に寄与すると考えられた.
【背景と目的】大腸癌研究会の大腸癌治療ガイドライン 2)では,大腸T1癌のリンパ節転移のリスク因子として,脈管侵襲,低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌等の組織型に加え,簇出,粘膜下層の浸潤距離(SM浸潤度)が推奨されている.本研究では,内視鏡切除された大腸T1癌におけるリンパ節転移のリスクを評価するためにリアルワールドデータを用いてノモグラムを開発した.
【方法】大腸T1癌4,673人のリンパ節転移リスクについて解析した.全コホートを開発コホートと検証コホートに分割した.ノモグラムは開発コホートの多変量モデルから導き出し,検証コホートデータセットを用いて内部妥当性の検証を行った.
【結果】SM浸潤度,簇出,脈管侵襲,組織型,部位,性別の6つのリスク因子が開発コホートで同定され,ノモグラムに組み込まれた.ノモグラムの検量線は,開発コホート,検証コホートの両方において良好な一致を示した.予測の正確さを示すC統計量は0.784(95%信頼区間,0.757-0.811)であり,大腸癌研究会ガイドライン(0.751)やNCCNガイドライン(0.691)よりも有意に高かった(p<0.0001).検証コホートでは,C統計量もノモグラム予測(0.790;95%信頼区間,0.751-0.829)の方がNCCN(0.726;p<0.0001)よりも有意に高かった.
【結論】このノモグラムによって大腸T1癌内視鏡切除後の適切な治療の意思決定が期待される.