日本消化器内視鏡学会雑誌
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54 巻, 4 号
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総説
  • 田中 直英, 森山 光彦
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1435-1442
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    現在,肝硬変・肝細胞癌の原因として,C型肝炎,B型肝炎の他に,非アルコール性脂肪性肝炎(Non Alcoholic Steato-Hepatitis:NASH)の存在がクローズアップされてきている.NASHの診断には,アルコール性肝障害を引き起こすほどのアルコールの摂取のないこと,さらに肝生検で,肝細胞の大滴性脂肪化,炎症性細胞浸潤,肝細胞の風船様腫大,マロリー小体,アルコール性肝障害様の線維化などの病理的所見がそろうことが重要であるとされている.NASHは,脂肪肝を基盤にして,フリーラジカルや各種炎症性サイトカインなどが加わり,上記の病理的所見を生じ,病態として,肝硬変,さらに肝細胞癌へと進展していく.そのため,NASHの腹腔鏡像は,その病期において異なる様相を呈する.
    NASHの初期の肝表面像は,表面平滑で,辺縁の鈍化,一部陥凹を認め,白色紋理がみられる.やや進展すると陥凹が多く認められ,また細かい区域化が生じ,進展するものと思われる.初期においては,リンパ小水疱や赤色紋理などは,みられない.しかし炎症が強くなると赤色紋理もみられるようになる.肝硬変に進展すると2~3mm程度の小結節を呈するようになり,一部に黄色斑が観察されることもある.また進展とともに,徐々にリンパ小水疱等を生じるようになる.しかし,溝状陥凹などの他の疾患でみられるような所見は,みられない.
    NASHは,肝表面像をみることにより,進展の程度を含め,より的確に診断ができるものと思われる.
原著
  • 河野 孝一朗, 名和田 義高, 濱田 晃市, 田島 浩子, 西野 徳之, 中澤 敏弘, 十林 賢児
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1443-1450
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    ESD時のMallory-Weiss tearについて検討した.ESD自験例207例中の7例(3.4%)にMallloy-Weiss tearを認めた.そのうち,それぞれ1例(14.3%)で裂創部の穿孔と裂創が病変に及ぶことによる治療断念例を認めた.7例全例で内視鏡の押し込み操作を行っていた.危険因子として,BMI 18.5未満の低BMIがオッズ比2.5で有意だった.ESD時のMallory-Weiss tearの発症は稀ではなく,ESDに大きな支障をきたす恐れがある.リスクの高い患者では特に内視鏡の強い押し込み操作を控えるなど予防処置が必要だと考えられた.
症例
  • 岩佐 勉, 中村 和彦, 麻生 暁, 村尾 寛之, 井星 陽一郎, 荻野 治栄, 秋穂 裕唯, 伊原 栄吉, 伊藤 鉄英, 高柳 涼一
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1451-1456
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.嚥下困難を主訴に来院した.食道下部に長径1cmの狭窄を認め,超音波内視鏡検査で全周性の粘膜肥厚を認めること,狭窄症状を幼少時より認めていることから先天性食道狭窄症と診断した.内視鏡的バルーン拡張術で治療を行ったところ著明な改善を認めた.先天性食道狭窄症は稀な疾患であり,多くは乳児期,幼児期に診断・治療されるが,成人となって診断される事もあり嚥下障害のある患者の鑑別疾患として認識する必要がある.
  • 伊藤 錬磨, 金子 佳史, 中西 宏佳, 辻 国広, 吉田 尚弘, 冨永 桂, 辻 重継, 竹村 健一, 山田 真也, 土山 寿志
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1457-1463
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は60歳男性.ニガクリタケを摂取した30分後に嘔吐,腹痛が出現し来院.第2病日に症状は一旦軽快したが,第3病日に嘔吐,腹痛,黒色便を認めた.第4病日の上部消化管内視鏡検査にて上十二指腸角から十二指腸下行部にかけ連続性,全周性に発赤,浮腫,びらん,出血を認めた.保存的加療にて症状は経時的に軽快した.第9病日の内視鏡検査では十二指腸下行部に出血はみられず,顆粒状粘膜や線状潰瘍を認めた.第18病日に症状軽快し退院.退院後の内視鏡検査では線状潰瘍瘢痕を残すのみであった.キノコ中毒における消化管病変の報告は少なく,またその経時的変化を内視鏡的に追えた自験例は貴重であると考えられた.
  • 友田 健, 今川 敦, 森藤 由記, 榊原 一郎, 藤本 剛, 平良 明彦, 柘野 浩史, 藤木 茂篤, 三宅 孝佳, 吉野 正
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1464-1469
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は77歳男性.検診での便潜血陽性に対する精査のため当院を受診した.下部消化管内視鏡検査で直腸に15mm大の平坦な白色調粘膜下腫瘍を認め,生検にて濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)が疑われた.超音波内視鏡検査で病変は粘膜下層内にとどまっていると判断.全身検索後An Arbor病期分類IE期の直腸原発FLと考え,確定診断および局所切除目的に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した.病理組織学的にはFLと診断.病変は粘膜下にとどまっており,追加治療は行わなかった.現在,術後4年経過しているが再発無く経過している.
  • 古田 陽輝, 江口 洋之, 多田 修治, 山口 祐二, 杉原 一明, 泉 和寛, 吉田 健一, 上原 正義, 山本 謙一郎, 金光 敬一郎
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1470-1476
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は84歳男性.S状結腸癌による腸閉塞に対して,人工肛門造設術を施行した.その後二期的に高位前方切除術を施行したが人工肛門は閉鎖しなかった.術後9カ月に人工肛門閉鎖を検討した際に吻合部の完全閉塞を認め,内視鏡的切開・拡張術を施行した.合併症として腸管穿孔が危惧されたが,治療時に十二指腸ゾンデを使用し,閉塞部の口側腸管を描出することで口側と肛門側腸管の直線化が得られた.フレックスナイフにて閉塞部を切開し,その後に内視鏡的バルーン拡張術を行った.良好な開存が得られたため人工肛門閉鎖術を行い,術後の排便は良好であった.大腸術後吻合部完全閉塞に対して内視鏡的切開・拡張術を安全に行えた症例を報告した.
  • 田畑 拓久, 小泉 浩一, 桑田 剛, 藤原 崇, 江頭 秀人, 藤原 純子, 稲葉 良彦, 荒川 丈夫, 門馬 久美子, 江川 直人
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1477-1484
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,女性.全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)に対して長期間のステロイド治療が行われていた.血便を主訴に来院し,大腸内視鏡検査で急性出血性直腸潰瘍と診断された.長期臥床,慢性腎不全,糖尿病,宿便など複数の要因が発症に関与し,通常の止血処置では止血困難であったが,無水エタノール・エトキシスクレロール併用局注法にて止血し得た.難治性の出血性直腸潰瘍では直腸静脈叢の存在を考慮した治療戦略が重要であり,無水エタノール・エトキシスクレロール併用局注法は有効な治療法になりうると考えられた.
  • 平松 慎介, 木岡 清英, 丸山 紘嗣, 末包 剛久, 山崎 智朗, 中井 隆志, 佐野 弘治, 川崎 靖子, 根引 浩子, 佐藤 博之
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1485-1489
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.近医の腹部エコーで腹水を指摘された.腹水の原因となり得るような既往歴はなく,血液検査で炎症反応とCA125の上昇(107.8U/ml)を,画像検査で少量~中等量の腹水を認めるのみであった.腹水中のadenosine deaminase(ADA)が81.7IU/l,CA125が241U/mlと上昇していたが,悪性細胞は認めなかった.
    QuantiFERON®TB-2Gの結果から結核性腹膜炎を疑い,腹腔鏡検査にて確定診断に至った.原因不明の腹水の原因として本疾患を鑑別することが重要であり,その診断に腹腔鏡が有用と考えられた.
注目の画像
手技の解説
  • 糸井 隆夫, 祖父尼 淳, 糸川 文英
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1492-1497
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    内視鏡的乳頭切開術(EST)とラージバルーンを用いた大結石除去術について解説した.ESTは小切開以上中切開未満を基本とし,ラージバルーンは胆管径と結石径から適切なバルーン径を決定する.巨大結石の積み上げ症例が良い適応であるが,出血傾向を有する例や明らかな狭窄を有する症例は除外すべきである.バルーンのインフレーションおよびデフレーションは緩徐に行い,痛みによる体動や乳頭部から下部胆管のくびれが高い圧をかけても残るような場合には無理な加圧は避ける.またデフレーション時には出血の有無を確認し,出血が見られるようであれば直ちにインフレートして数分間圧迫止血を行う.十分な胆管開口が得られれば比較的大きな結石でもバルーンや通常バスケットによる除石が可能である.しかし,巨大結石や硬い結石,そして積み上げ結石などでは予期せぬバスケット嵌頓等も起こりうるため,機械式砕石具を用いた除石が安全かつ確実と考えられる.
資料
  • 小林 正明, 成澤 林太郎, 佐藤 祐一, 竹内 学, 青柳 豊
    2012 年 54 巻 4 号 p. 1498-1505
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    【背景】早期胃癌に対する内視鏡治療の問題点として異時性多発癌の発生がある.今回,長期の経過観察をもとに,その発生リスクが永続的であるか否かについて検討した.
    【方法】早期胃癌に対して内視鏡治療(EMR,ESD)を受けた234例を遡及的に検討した.経過観察期間は3.0-19.6年(中央値5.0年)で,40例に対し10年以上の経過観察を行った.また内視鏡治療後に発見された異時性病変が,治療前の内視鏡写真で認識可能であるか検討した.
    【結果】30例(12.8%)に36個の異時性多発癌が認められた.治療から発見までの中央値は3.2年,最長9.7年であった.36個中8個(22.2%)は,内視鏡治療前の記録で存在が確認できた.異時性多発癌の累積発生率は10年を超えると上昇がみられなかった.
    【結論】内視鏡治療後に残された胃粘膜は,異時性多発癌が好発する環境にあるとされてきたが,それは単に同時性多発胃癌が潜在しただけであるかもしれない.異時性多発癌の発生リスクは10年を超えて永続するものではないと予想される.
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