食道扁平上皮癌に対して内視鏡治療後に非治癒切除(pT1a-MM/T1b-SM)となった際には,リンパ節転移のリスクがあるが,pT1a-MMかつ脈管侵襲陰性では低い転移リスクから推奨治療が決定されておらず,実臨床では90%以上の患者で追加治療が行われていない.一方で,pT1a-MMかつ脈管侵襲陽性もしくはpT1b-SMでは追加治療(手術療法/化学放射線療法)が推奨されている.近年,非治癒切除後追加治療を行わない場合の転移再発リスク層別化,cT1bN0M0癌に対する内視鏡治療+選択的化学放射線療法の有用性の検証など新たな知見が報告されている.また,非治癒切除後の死亡の多くが他病死であることから,病理学的因子以外の予後関連因子の報告も増えている.今後は,他病死を加味した高齢内視鏡治療非治癒切除患者への適切な治療選択システムの確立,リンパ節転移・転移再発を予測する新たなバイオマーカーの確立などさらなる発展が期待される.
家族性大腸腺腫症において大腸切除をせずに大腸癌を予防する研究について,アスピリンで大腸癌を予防する化学予防研究と,大腸ポリープを内視鏡的に積極的摘除を行う治療法を中心に紹介した.低用量アスピリンの8カ月間投与による二重盲検試験において大腸ポリープの増大を予防する効果が示され,現在は,2年間の長期投与試験が進行中である.
大腸ポリープを内視鏡的に積極的に摘除し,大腸癌予防をめざす研究も多施設研究で安全性と5年間の進行癌予防効果が示され,2022年度から本治療(intensive downstaging polypectomy;IDP)が保険収載された.大腸切除をすることなくIDPにより大腸癌が予防できるかどうかを明らかにするため,長期追跡のためのレジストリが準備中である.
適切な内視鏡介入および低用量アスピリンによる化学予防により家族性大腸腺腫症患者に対する腸管手術が回避できる時代が近づいてきている.
人間ドックでのスクリーニングEGDで発見された,無症状の食道アニサキス症の2例を報告する.
症例は42歳と55歳の男性で,特に自覚症状なく人間ドックのスクリーニング検査としてEGDを受検した.ともに食道扁平上皮円柱上皮接合部近傍に細長い白色調の虫体が発見され,穿入部は各々Barrett上皮部,扁平上皮部であった.生検鉗子により摘除し,術後特変なく経過した.
消化管アニサキス症は大部分が胃にみられ,残りの大半を小腸が占め,大腸,食道は稀である.食道アニサキス症に関する無症状例の報告は文献的にはほとんどないものの,健診の場などでは診断されていることが予想され,虫体摘除のみならず食事・調理指導が対応として重要と考えられる.
症例は81歳男性.十二指腸乳頭部癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術の既往がある.発熱と心窩部痛を主訴に当院を受診し,血液検査,画像検査で肝膿瘍と診断された.CTで膿瘍近傍の胆管内に魚骨を示唆する線状の高吸収を認めた.抗菌薬投与および経皮経肝膿瘍ドレナージを行い,肝膿瘍が改善した後にバルーン内視鏡を用いて魚骨を除去した.合併症は認めず,治療後約1年が経過するが肝膿瘍の再発なく,経過は良好である.膵頭十二指腸切除術後の胆管内への異物の迷入は稀である.有症状例に対しては感染制御や再発防止のため異物除去が望ましい.バルーン内視鏡を用いた異物除去は低侵襲かつ手技成功率も高く,有用な治療法と考えられる.
症例1は65歳 男性.腹部膨満と嘔吐を主訴に来院し,腹部CTで小腸イレウスを認めた.経鼻イレウスチューブ留置したが改善が乏しく,経時的なCT撮像で閉塞起点の移動を認め,食餌性イレウスを疑った.保存的加療困難のため腹腔鏡にて用手的に異物を肛門側へ移動させ大腸内視鏡で回収した.内容はシイタケであった.症例2は77歳 男性.腹部膨満と嘔吐を主訴に来院し,腹部CTで小腸イレウスを認めた.本症例は臨床経過より食餌性イレウスを疑い,大腸内視鏡を施行した.回腸末端にコンニャク塊を認め摘除した.この2例には,腸管に器質的な狭窄は認めず,歯牙欠損であるが義歯を使用していないという共通点があった.食餌性イレウスの診断には,詳細な問診やCT撮像が有用であると考えられた.
症例は74歳女性.慢性下痢,腹痛を主訴に近医を受診し,大腸内視鏡検査で虚血性腸炎が疑われた.症状が改善しないため3カ月後に当科を紹介受診した.大腸内視鏡検査で盲腸~下行結腸に広範な潰瘍を伴う浮腫状/顆粒状粘膜を認め,虚血性腸炎を鑑別に挙げたが,S状結腸の縦走潰瘍やランソプラゾール(lansoprazole:LPZ)の内服歴,臨床症状よりcollagenous colitis(CC)を疑い,生検組織より確定診断した.LPZ中止後7日目より下痢症状は軽快し,内視鏡像でも潰瘍所見は消失,56日目には組織学的にも改善を確認した.広範な潰瘍所見を伴うCCは非常に稀であるが,内視鏡所見として虚血性腸炎との鑑別を要する症例があり注意が必要である.
内視鏡切除後潰瘍の周在性が3/4周以上になると予想される病変の場合は,ER後狭窄のリスクが高いため,ケナコルトⓇ(Triamcinolone Acetonide:TA)局注などの狭窄予防を行う必要がある.狭窄した場合には,内視鏡的バルーン拡張術(Endoscopic balloon dilatation:EBD)を行うが,穿孔予防のため通常12-15mmバルーンを用い,30秒で1気圧ずつ,合計4分で8気圧までゆっくり加圧する.高度狭窄では,10-12mmバルーンを用いる.EBDにより穿孔した場合は絶食,抗生剤投与を行い,保存的治療で改善しなければ外科的ドレナージを検討する.
内視鏡機器の進歩や術者の意識の向上により虫垂開口部近傍に腫瘍性病変が発見されることが散見される.近年,大腸領域においてもESDは高い一括切除率が得られ一般的な治療となっており,使用デバイスやESD戦略を工夫することで難易度の高い症例も切除が可能となってきている.虫垂開口部近傍はその解剖学的構造からESD難易度の高い部位とされており,高頻度の線維化や薄い筋層などにより術中穿孔のリスクも高い.したがって,手技の習熟はもちろん内視鏡治療適応についても事前にしっかりと判断する必要がある.また,虫垂開口部近傍病変の内視鏡治療後に虫垂炎を発症することがあり,その特徴についても理解が求められる.本稿では虫垂開口部内伸展例を含めた虫垂開口部近傍病変の内視鏡治療適応とその治療についてESDを中心に述べた.今後も新たな治療法の発展により安全性・有効性の向上が期待される.
膵癌をはじめとする多くの膵疾患は予後不良であり,診断法の進歩にもかかわらず前癌病変のリスク層別化や膵囊胞の鑑別は困難なことが多い.診断に苦慮する膵疾患として,膵管内乳頭粘液性腫瘍,粘液性囊胞性腫瘍,漿液性囊胞腺腫,仮性囊胞,貯留囊胞,さらにはSolid pseudopapillary neoplasmsや膵神経内分泌腫瘍などの固形腫瘍の囊胞変性が存在する.膵癌で多くみられるKRAS遺伝子変異の検出にこれまでERCPで得られた純膵液が用いられてきたが,近年では,比較的低侵襲なEUSやEGDで得られる十二指腸液や,EUS-FNAで採取した膵囊胞液が分子生物学的解析に用いられるようになっている.また,単一および複数マーカーの検出には,高感度な先進的解析法が用いられる様になり,十二指腸液サンプルを用いて,膵悪性腫瘍の早期発見や前がん腫瘍のリスク層別化を単一マーカーで高感度に行うことが可能とする報告があり,また,複数のマーカーを同時に検出する技術の進歩により,囊胞性膵腫瘍の鑑別も可能となってきた.注意点としては,臨床ガイドラインではEUS-FNAによる膵囊胞液,ERCPによる膵液サンプリングはそれぞれ実臨床では推奨されておらず,経験豊富な施設で行うように記載され,十二指腸液のサンプリングはガイドラインに記載されていないことである.検体の取り扱いの改善やマーカーの組み合わせにより,近い将来,膵液検体を用いた分子マーカーが実臨床で使用されるようになるかもしれない.
【目的】悪性胃排出路閉塞に対する超音波内視鏡下胃空腸吻合術,腹腔鏡下胃空腸吻合術,十二指腸ステント留置術の成績を比較検討する.
【方法】2012年から2020年の期間で,超音波内視鏡下胃空腸吻合術,腹腔鏡下胃空腸吻合術,ステント留置術が行われた症例を対象とし,後ろ向きに治療成績を比較検討した.治療成績は技術的成功率・臨床奏効率,術後30日以内の合併症率・死亡率,術前後のgastric outlet obstruction score(GOO score)などとした.
【結果】114例の患者(超音波内視鏡下胃空腸吻合術30例,腹腔鏡下胃空腸吻合術35例,ステント留置術49例)を対象とした.技術的成功率は各々93.3%,100%,100%(p=0.058),臨床奏効率は各々93.3%,80%,87.8%(p=0.058)であった.処置時間は有意に腹腔鏡下胃空腸吻合術が長かった.超音波内視鏡下胃空腸吻合術のグループでは有意に在院期間が短く(各々1.5日,7日,5日),閉塞再発率/要再処置率が低かった(各々3.3%/3.3%,17.1%/17.1%,36.7%/26.5%).1カ月後のGOO scoreは超音波内視鏡下胃空腸吻合術のグループで最も高値であった(各々3,3,2).
【結論】超音波内視鏡下胃空腸吻合術は腹腔鏡下胃空腸吻合術やステント留置術よりも臨床成績は良好であった.超音波内視鏡下胃空腸吻合術に熟練した内視鏡医がいる場合は,悪性胃排出路閉塞に対する治療法として本法はベストな選択肢になり得ると考えられた.