従来消化器内視鏡を介した様々な感染事故が報告され,近年欧米やわが国の学会より感染防止のためのガイドラインが作成・改訂されてきた.内視鏡機器の再生処理は標準予防策に従い,スコープは1回使用毎に高水準消毒を行い,内視鏡処置具は滅菌ないしディスポーザブル処置具を用いる.内視鏡従事者は内視鏡室が被検者の体液や血液が飛び交う不潔な環境下にあることをよく認識し,患者間の感染防止だけでなく自分自身への感染予防にも配慮して常に個人用防護具を着用して内視鏡診療に当たる.また,内視鏡従事者自身が汚染源にならないように,「清潔」と「不潔」の区別をいつも意識して行動するように努める.感染症対策を適切に実行するためには内視鏡室の責任医師が感染管理のリーダーとなり,内視鏡機器の再生処理がガイドラインを遵守してできる体制を積極的に整えるとともに,スタッフへの啓発と教育を継続して行う必要がある.
胃癌死や大腸癌死を減少させるために精度に加え受容性の高い消化器内視鏡診療が必要である.内視鏡診療の精度や受容性を高めるためには安定した鎮静・鎮痛が求められる.そのためにはミダゾラム,プロポフォール,デクスメデトミジン塩酸などの代表的な薬品の特徴をよく理解して,施設の状況を考慮しながら検査・治療に合わせてその薬品を使いこなし,検査・治療に必要な鎮静レベルを得られるようにすることである.内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)で示されたクリニカルクエスチョンとステートメントを参照しながら日本で使用される薬品を中心に,薬品のアレルギー,有害作用,安全性を含めて内視鏡診療における安心で安全な鎮静・鎮痛法について概説する.
EBV関連胃癌とEBV非関連の一般型早期胃癌との併存例を経験したので報告する.76歳男性.1カ月間ほど続く心窩部痛を主訴に当院を受診された.上部消化管内視鏡検査にて胃体上部小彎から後壁にかけて広範囲の3型腫瘍と胃前庭部前壁に0-Ⅱc病変を認めた.生検にて3型腫瘍からはリンパ球と形質細胞が高度浸潤した低分化腺癌を認め,0-Ⅱc病変からは一般型腺癌の診断が得られ胃全摘出術を施行した.両病変に対しEpstein-Barr virus encoded RNA in situ hybridization(EBER-ISH)を施行したところ,3型腫瘍はEBV陽性,0-Ⅱc病変はEBV陰性であった.多発胃癌においてEBV関連胃癌の存在率は単発胃癌よりも高く,その存在を念頭において診療にあたることが重要である.
症例は62歳男性.嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CT検査と上部消化管内視鏡検査にて後腹膜領域に6cm大の腫瘤性病変とそれに伴う十二指腸狭窄を認めた.十二指腸狭窄を合併した後腹膜血腫と診断し,保存的治療を開始した.後日の造影CT検査で後下膵十二指腸動脈の仮性瘤が疑われたが,血腫の増大はなく保存的加療を継続した.第21病日に血腫はわずかに縮小していたが,十二指腸狭窄が残存していたため内視鏡的バルーン拡張術を施行し,経口摂取を開始した後は経過良好で第34病日に軽快退院した.後腹膜血腫による十二指腸狭窄はまれな病態であり診断に難渋することも多いが,本例においては画像所見にて診断可能であった.保存的に改善しない例の多くは手術が選択されているが,本例においては内視鏡的バルーン拡張術が奏効し手術を回避し得た.
67歳,女性.齲歯によりイブプロフェンを服用し4日後に貧血をきたした.上下部消化管内視鏡検査で異常所見は無く,病歴や画像検査で腸管狭窄所見を認めなかったため小腸カプセル内視鏡検査(CE)を施行した.遠位回腸に潰瘍を伴う狭窄を認めカプセルは停滞し2日後に腸閉塞を発症した.イレウス管を挿入し2日後にカプセルは狭窄部を通過し腸閉塞は軽快した.イブプロフェン中止後のバルーン内視鏡所見にて潰瘍は治癒しておりNSAIDs起因性小腸潰瘍と診断した.NSAIDsは短期間の投与でも急性に浮腫性狭窄をきたすことがあり,NSAIDs服用症例に対するCEの適応については服用期間に関わらず慎重に判断すべきである.
症例は73歳男性.便秘・腹痛・腹部膨満感を主訴に近医受診.腹部レントゲンにてS状結腸軸捻転症の疑いで当院紹介受診となる.来院時の診察・採血・画像所見にて腸管壊死・穿孔の所見がないことを確認し,内視鏡的整復術を選択した.大腸スコープを絞扼部より深部のS状結腸ループ内に進め脱気した.次に下行結腸へ進めたが,多量の便で視野不良となるため送気を要し,ガスがS状結腸ループ内に再度貯留し整復が困難だった.そこで脱気用に2本目のスコープを挿入し,ループ内の脱気を行ったところ整復し得た.今回,2本の内視鏡を挿入することで内視鏡的整復術をなし得たS状結腸軸捻転症の1例を経験したので報告する.
Liquid-based cytology(LBC)法は,子宮頸部細胞診を中心に導入され,その他尿や腹水などの液状検体や乳腺,甲状腺腫瘍に対する穿刺検体の細胞診にも広く汎用されている.近年では,膵腫瘍におけるEUS-FNA検体に対するLBC法の有用性も多数報告されている.本稿では,EUS-FNA検体におけるLBC法の有用性および実際の手技の方法について概説する.
【背景と目的】この研究は,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)に対して,はさみ型ナイフを使用した内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)とOver-the-scope-clip(OTSC)を使用した予防的潰瘍閉鎖の安全性と実現可能性を評価することを目的とした.
【方法】2009年1月から2019年7月の間に10mmを超えるSNADETに対するESDを受けた患者を遡及的に検討した.ESDは針型ナイフ(フラッシュナイフ-ESD)またははさみ型ナイフ(クラッチカッター-ESD)のいずれかを使用して施行した.ESD後粘膜欠損は,従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,またはOTSCのいずれか3つの方法により予防的に閉鎖した.
【結果】フラッシュナイフ-ESDとクラッチカッター-ESD(それぞれ37人と47人の症例)にて合計84病変を切除し,ESD後の粘膜欠損閉鎖は,従来クリップ13病変,腹腔鏡下閉鎖13病変,OTSC56病変で行った.R0切除率は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に高かった(それぞれ97.9%対83.8%,P=0.040).術中穿孔率は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に低かった(それぞれ0%対13.5%,P=0.014).従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,およびOTSCの完全閉鎖率は,それぞれ76.9%,92.3%,および98.2%であった(P=0.021).遅延穿孔率はそれぞれ15.4%,7.7%,1.8%であった(P=0.092).
【結論】はさみ型ナイフを使用したESDおよび予防的OTSC閉鎖は,SNADETの低侵襲治療として安全に施行可能であった.
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy:EP)診療ガイドライン」を作成した.EPは近年普及している十二指腸乳頭部腫瘍に対する治療法の一つである.この分野におけるエビデンスはレベルの低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,適応と術者の条件,術前・術中準備と手技,早期偶発症,治療成績と遺残・再発,経過観察と晩期偶発症の5つの項目に分け,現時点での指針とした.
【背景】超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS)は標準化されつつあるが,その安全性については十分に解明されていない.そのため,EUS-CDSにおける有害事象とステントの開存性に関連する因子を明らかにすることを目的とした.
【対象と方法】2003年9月から2017年7月までの間にEUS-CDSを連続して受けた患者を対象とし,手技/臨床的成功率,有害事象,ステント閉塞につき遡及的に分析した.
【結果】9名の患者は穿刺前に処置が中止となり,142名の患者がEUS-CDSを受けた.手技成功率は96.5%(137/142),臨床的成功率は98.5%(135/137)であった.有害事象発生率は20.4%(29/142)であった.腹膜炎の危険因子として,プラスチックステント(PS)は,カバー金属ステント(CSEMS)と比較して有意に高いオッズ比を示した(OR,4.31;P=0.030).CSEMS症例はPS症例よりも有意に長い開存期間を示した(329日 vs 89日;HR,0.35;P<0.001).早期ステント閉塞(14日以内)の危険因子として,ステントの遠位端を口側に向けることは,有意に高いオッズ比を示した(OR,43.47;P<0.001).斜視型EUSを施行した症例では,直視型EUSを施行した症例よりも有意に高い頻度で十二指腸の二重貫通が発生した(7.0対0.0%;P=0.024).
【結語】PS使用とステントの遠位端が口側に向いた状態は,腹膜炎と早期ステント閉塞の危険因子であった.腹膜炎と早期ステント閉塞の予防には,CSEMS使用とその遠位端を肛門側に向けることが適切であると思われた.