人工知能(artificial intelligence:AI)の進化は著しく,ソフトウェアを取り巻く環境は劇的に変化している.医療機器分野においても,疾病の診断や治療を目的としたAI開発が盛んに行われており,消化器内視鏡領域では,内視鏡診断支援を中心とした様々なAIを用いた医療機器の研究開発が行われている.すでに複数のAIを用いて開発されたプログラム医療機器が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の審査を経て薬事承認を取得しており,今後はさらに承認品目の増加が期待される.本稿では,消化器内視鏡領域におけるAIを用いたプログラム医療機器を中心として,医療機器分野における薬事承認審査の現状について解説する.
本邦では内視鏡検査は広く行われ,器質的疾患の診断に大きく貢献している.一方,機能性疾患に関しては,内視鏡検査の役割は器質的疾患の除外にとどまっているのが現状である.近年,食道運動異常症の代表的疾患であるアカラシアに関しては,新たな内視鏡所見(“Esophageal Rosette”,“Gingko-Leaf sign”,“Champagne Glass sign”,“Pinstripe Pattern”)が報告され,内視鏡検査によりアカラシアを強く疑うことが可能になってきている.食道体部運動異常を有する疾患に関しても,嚥下障害を認め,内視鏡検査においてらせん状収縮波,多発同期性収縮波,食道の狭小化(伸展不良)を認める場合には,食道運動異常症を有する可能性がある.内視鏡的に体部運動異常を見るためには食道中部でのスコープを固定し食道を観察することが重要である.アカラシア診断のgold standardはHigh-Resolution Manometry(HRM)であるが,HRMによる診断も絶対的なものではない.嚥下障害を有する患者に対しては,常に食道運動異常症を念頭に置き,内視鏡,食道造影,HRMによる総合的な評価をし,診断することが重要である.
【目的】胃腫瘍に対するESDの周術期に誤嚥性肺炎(Aspiration Pneumonia;AP)を発症した症例を検討し,そのリスク因子を明らかにした.
【方法】2014年から2017年までに当院で胃腫瘍に対するESDを施行した393例422病変を対象に,ESDの周術期にAPを起こした15例(A群)と起こさなかった378例(B群)について,背景と経過を後ろ向きに比較検討した.
【結果】A群で噴門開大所見のある症例が有意に多かった.年齢や既往歴,治療時間や抗生剤予防投与,オーバーチューブ使用の有無では差を認めなかった.肺炎で治療を中断した症例はなく,入院期間にも有意差はなかった.
【結論】胃ESD周術期のAPのリスク因子は噴門開大所見であった.上記リスクを有する症例では周術期のAP発症に注意した治療環境の工夫が必要である.
症例は80代女性の胃瘻造設患者.栄養剤投与後に二度嘔吐したため胃瘻チューブを解放したところ,血液成分の流出が確認され老健施設から搬送となった.EGDにより,食道に多発する空気封入を伴った血腫を認めた.すでに自壊した血腫も存在し内視鏡との接触でも容易に破裂したが,止血処置が不要の静脈性出血であった.腹部CT検査では門脈内にガス像を確認した.翌日施行したEGDでは血腫はほぼ自壊していた.第3病日から胃瘻使用を再開し,第4病日のCT検査で門脈ガスの消失を確認した.第5病日のEGDで血腫の消失を確認し,第6病日で退院となった.第19病日に行ったEGDでは食道に異常所見を認めなかった.
症例は82歳男性.既往歴に食道癌に対し下部食道および噴門側胃切除(ダブルトラクト再建),他に右腎癌・膀胱癌手術歴あり.吐血を主訴に当院を受診した.心電図で下壁誘導ST上昇,前壁誘導ST低下を認め,ST上昇型心筋梗塞の診断となったが,吐血が続くため内視鏡的止血術を先行した.空腸残胃吻合部の空腸側に潰瘍を認め,露出血管にクリップをかけ止血した.次に経皮的冠動脈インターベンションを施行.右冠動脈#4AVの完全閉塞を認め,#4AVを拡張すると内視鏡止血クリップ付近から造影剤が消化管へ流れ出たため,潰瘍の露出血管が#4AVであると判断し,#4AVを閉塞するようにカバードステントを留置し止血した.吻合部潰瘍が右冠動脈に穿通した,非常に稀有な症例と考えられた.
幽門腺腺腫は高齢者の胃体上部から体中部に発生する幽門腺への分化を呈する比較的まれな腫瘍である.症例は78歳男性で上部消化管内視鏡で胃体中部前壁に,境界明瞭な陥凹を伴う粘膜下腫瘍様病変を認めた.陥凹内部には粘液に覆われる大小不同・形状不均一な絨毛状・乳頭状構造を呈する隆起を認めた.内視鏡的粘膜下層剝離術を施行し,病理組織学的に,内反性増殖を示した幽門腺腺腫と診断した.幽門腺腺腫は胃底腺型胃癌と同一のスペクトラムにある低異型度胃型腫瘍の一つとされる.自験例は特異な内視鏡像を呈し,病変の成り立ちと病理組織学的な細胞分化を検討する上で有用な症例であると考える.
症例は53歳の男性で歩行中に失神した.入院後に凝血塊を伴う血便があり,大腸内視鏡で横行結腸脾彎曲部に周囲に発赤を伴う径20mmの大きな粘膜下腫瘍様の隆起があった.腹部~骨盤造影CTで脾動脈瘤を伴う膵仮性囊胞が横行結腸を圧排していた.同日夜に,突然の腹痛と多量の血便があった.転院後のCTで腸管内への造影剤の漏出を認めたため,緊急手術が施行された.病理組織学的検査で脾動脈瘤を伴う膵仮性囊胞が結腸に穿通していた.過去の報告で膵仮性囊胞結腸瘻の典型像は瘻孔形成である.ただ,完全に瘻孔が形成されていない穿通例では,本症例のような拍動を伴わない粘膜下腫瘍様隆起を呈することがあり注意が必要と考える.
術後再建腸管(Billroth Ⅰ法を除く)を有する胆膵疾患に対するバルーン式内視鏡を用いた胆膵内視鏡治療は,2016年に保険収載されて以来,第一選択の治療法として普及してきている.しかしながら,技術的に困難なことも多く,手技完遂率も施設間で様々であり,未だ手技の標準化に至っていないのが現状である.本稿では,バルーン式内視鏡(特にダブルバルーン内視鏡)を用いた胆膵内視鏡治療のコツと困難症例や偶発症に対するトラブルシューティングについて概説する.
大腸内視鏡の普及により大腸腫瘍の発見および内視鏡治療の機会は増加している.発見した病変に対する治療法は,病変のサイズや位置,組織型などに応じて様々な方法が選択される.径20mm以下の腫瘍性病変であればスネアを用いた切除が安全かつ有効であり,外来で施行されることも多い.一方,径20mmを超える病変や粘膜下層の線維化等によるnon-lifting sign陽性粘膜内病変,粘膜下層軽度浸潤癌を疑う病変に対しては,ESDを選択する場合が多いと考える.しかし,ESDには手技の難易度や処置時間,コストの問題などが存在する.本稿では,EMRとESDの中間的手技であるhybrid ESDについて手技の概要からコツまで解説し,さらに新規デバイスであるSOUTENⓇのメリットと使い方についても概説する.
【背景】大腸憩室症と大腸腫瘍はリスク因子が共通するため,欧米では両者の関連性が報告されている.しかしながら,アジアでは十分に検討されていない.今回,われわれは本邦における大腸腫瘍と大腸憩室症の関連性を多施設研究で評価した.
【方法】2016年1月から2017年12月までの2年間に,3施設で下部消化管内視鏡検査と上部消化管内視鏡検査を受けた5,633人の患者を登録し,大腸腫瘍と大腸憩室の関連性およびリスク因子について調査した.
【結果】大腸憩室症例1,799例(31.9%)(平均年齢70.0歳,男性64.0%)に対して非憩室症例3,834例(66.0歳,男性52.9%)であった.大腸腫瘍の有病率はそれぞれ46.6%と44.2%だった.(P=0.090).早期結腸癌の予測因子を検討したところ,年齢(OR 1.02,95%CI 1.01-1.04,P=0.010),緩下剤(OR 1.76,95%CI 1.17-2.64,P=0.007),胃腫瘍(OR 2.16,95%CI 1.23-3.81,P=0.008),および大腸憩室(OR 1.64,95%CI 1.16-2.31,P=0.005)であった.左側結腸の早期結腸癌は,右側大腸憩室と有意に相関した(RR 2.50,P=0.001).
【結論】大腸憩室症を有する患者は,非憩室症例に比して早期大腸癌をより多く認めた.大腸憩室症の存在は,大腸癌を検出する上で,大腸内視鏡検査の重要な指標となる可能性があると考えた.(臨床試験登録:UMIN000038985)
【背景】従来法のEMR(conventional EMR:CEMR)は大きな良性ポリープに対する標準的な方法である.本研究では20-40mmの無茎もしくは平坦なポリープに対する水浸下EMR(underwater EMR:UEMR)のCEMRに対する優位性を検証した.
【方法】20-40mmの無茎または扁平なポリープはCEMRまたはUEMRで治療する2群に無作為に振り分けられた.一次評価項目は治療後6カ月以上経過後の局所再発率で,肉眼的および組織学的に確認された.二次評価項目として一括切除率,R0切除率,分割切除切片数,治療時間,合併症が評価された.
【結果】再発率は両群で有意差がなかった(UEMR 15.1%:CEMR 24.6%,P=.253).30mmから40mmの病変ではUEMR群での再発率は6.3%で,CEMR群の42.9%に比較し有意に低かった(P=.031).UEMR群で一括切除率は33.3%,CEMR群で18.4%(P=.045),R0切除率はそれぞれ32.1%,15.8%(P=.025)であった.UEMR群では分割回数が有意に少なく,治療時間も短かった(8分:14分,P=.000).両群での合併症に差はなかった.
【結論】大きな大腸病変に対して,UEMRはCEMRよりも一括切除,R0切除,治療時間の面で優れており,とくに30-40mmの病変では再発率の少ないUEMRを考慮すべきである.