日本消化器内視鏡学会雑誌
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53 巻, 11 号
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総説
  • 丹羽 寛文
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3473-3493
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    内視鏡検査は診断,治療のみならず,研究上にも重要な資料を提供する.その土台となるのは,内視鏡所見の正確な把握,認識,解釈である.内視鏡検査は形と色の微妙な違いを捉え,それに何らかの解釈を加えて判断を進めるので,検者の注意力,主観の入る余地が大きい.ヒトの視覚は一定の認知パターンの元に対象をみて,それに沿ってかなり柔軟に対処して対象を把握するが,視野にある物は無意味な集合でなく,積極的に意味を見つける方向で認識し,それに沿って,何かにまとめてみている.早期胃癌IIcの内視鏡像の把握などでは,既存の知識との照合が無意識に行われ,多数の症例の経験があれば,その認識は容易であるが,経験の無い人には診断出来ない.
    ある形を知覚するときは,その部分は他の領域とは分離して見え,この領域を図といい,背景となるのが地である.図は一定のまとまりと形を持ち,地はまとまりあるいは形が無い.対象を見て図を認知するには文化的背景,学習事項,関心,期待等々が反映し,同じものをみても見えるものが違ってくる.これには当然ながら過去の経験,身構え,期待等々が関連する.内視鏡検査ではよく見ることが強調されるが,よく見るとは,どの情報を選択して見るかが関連し,予想,既習の学習などが影響する.
    内視鏡像は二次元の画像であるが,周知のごとく早期胃癌では,とくに皺襞先端の中断,やせ,こん棒状の膨らみなどが決め手になる.いずれも立体としての所見であるが,われわれは特に意識せずにこれらを正しく判定している.4型進行癌のごとく病変が非常に広いと,病変の存在は分かりにくく,周囲とは突然の変化があった方が分かりやすい.内視鏡の視野角は非常に広く,近いものは大きく,遠いものは極めて小さく見える.距離によるこの違いを考慮しないと判断を誤る.
    さらに錯視が大きな誤りをもたらす.このため反転法で胃体中・上部を見た時は錯視も加わって病変の位置,大きさの判定を誤り易い.また視方向による見え方の違いもある.たとえば斜め方向と正面視では所見の表れ方に大きい違いがある.
    色とは光によって呼び起こされた感覚で,光そのものではない.物の色は特定の照明条件のもとで表れ,光源が異なれば見える色は変わってくる.電子スコープでの色調,光沢感とファイバースコープのそれとは違うが,実際には,ヒトの目は順応の為この違いをあまり意識せず,同じ様に認識している.さらに色の感覚は周辺の色にも影響され,赤は前進し浮き上がり,青色は後退し遠くに見える.病変の深さの判定に注意を要する点である.さらにヒトの注意力,観察力には限界があって,しかも疲労による低下がある.また人の視覚記憶は極めて不正確で,しかも見た時の暗示が強く働き,視覚の記憶も極めて頼りない.内視鏡の観察力を高め診断精度を上げるには,画像記録を十分行って,あとから再検討できるだけの記録を残し,それについて再検討する必要がある.特に写真記録の検討は,診断学の将来の発展,疾患の進展,経過,その相互の関連を追求するのに欠かせない.なお内視鏡検査には意外に盲点がある.視覚記憶の曖昧さの認識と共に,人の注意力,観察力には疲労による限界があることも知っておく必要がある.
  • 平田 一郎
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3494-3509
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    近年,カプセル内視鏡(CE),バルーン内視鏡(BE),CT-enterography,MRIなど診断機器の進歩により,小腸炎症性疾患の診断と治療も今までにない前進が見られるようになった.
    CEは,小腸炎症性疾患の重症度(ルイス・スコアなど),治療への反応性や治療の妥当性などを評価することによりその治療方針の決定に有用である.CEはNSAID起因性小腸粘膜傷害の評価のみならず,欧米では小腸クローン病に対する診断においても,その有用性が報告されている.すなわち,小腸クローン病における潰瘍性病変の検出率は,CEの方が小腸X線造影検査や他の検査に比して高いと言われている.但し,本邦ではクローン病に対してCEは承認されていない.
    BEは,主として小腸疾患の確定診断や治療目的(止血,バルーン拡張術など)に用いられるが,OGIBの顕性活動性出血例や小腸クローン病のmucosal healingの診断にも有用である.さらに,クローン病の小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術も手術回避に一定の効果をあげている.
    ただし,狭窄例や瘻孔形成例の診断に対するCEやBEの有用性は低く,むしろ小腸X線造影検査の方が優れていると思われる.CT-enterographyやMRIはこれを補完し,かつ腸壁の炎症評価にも寄与すると考えられるが検査法の一層の改良が必要である.
    本稿ではこれら検査法の有用性と限界について文献レビューを中心に現状やトピックスを紹介し,あわせて症例の画像を提示する.
原著
  • 木村 公一, 古川 善也, 山崎 総一郎, 香川 幸一, 坂野 文香, 桒田 幸央, 花ノ木 睦巳, 久留島 仁, 松本 能里 ...
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3510-3517
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    【目的】ENBD留置での胆汁細胞診の回数別・疾患別の検討を行った.また,陽性率が95% 以上となる回数を検討した.【対象・方法】対象は,2004年5月から2009年2月にENBDを留置し悪性と診断した133例.【結果】細胞診回数中央値は3回(範囲2-9回).陽性は73例で感度は54.9%.初回のみの検査の感度は31.6%(42/133)であった.疾患別には,胆管癌が膵癌に比べ有意に感度が高かった(66.7% vs 42.9%)(p=0.03).陽性73例中70例(97.2%)が6回目以内で陽性を検出した.疾患別には,胆管癌と膵癌において何れも6回目に陽性率は95% 以上となった(胆管癌:96.2%,膵癌:95.2%).【結論】ENBD留置での胆汁細胞診は,繰り返しできる事で正診率が向上しており,膵癌に比し胆管癌で有用性が高い.95% 以上の陽性率を得る為には,最低6回の検査が望ましい.
症例
  • 菅野 仁士, 山下 直行, 柿沼 大輔, 住吉 宏樹, 小澤 俊文, 内田 英二
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3518-3522
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.下部消化管内視鏡検査食インテスクリア®を摂食後嘔吐が始まり,吐血も出現したため当科紹介.入院時内視鏡所見では食道胃接合部直上に深い裂創および出血を認めた.胸部CT検査では縦隔気腫像を認め,特発性食道破裂と診断した.保存的治療を行い,第17病日に施行した食道透視で縦隔への造影剤の漏出は認めなかったため,経口摂取を開始し第27病日に退院した.下部消化管内視鏡検査前処置によって発生した特発性食道破裂の1例を報告する.
  • 藤原 靖弘, 村木 基子, 木幡 幸恵, 杉森 聖司, 山上 博一, 谷川 徹也, 渡辺 憲治, 渡辺 俊雄, 富永 和作, 荒川 哲男
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3523-3528
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は31歳,女性,6年前より嚥下困難・食物のつまり感を自覚し,他院で内視鏡など検査するも異常を指摘されなかった.症状が徐々に増悪するため紹介受診.上部消化管内視鏡検査では食道胃接合部に一致して著明な狭窄を認めたが,明らかな腫瘍や粘膜不整を認めず,超音波内視鏡では主に粘膜層の肥厚を認めた.食道生検にて食道粘膜内に著明な好酸球浸潤とmicroabscess形成を認め,好酸球性食道炎と診断した.フルチカゾン嚥下療法により症状および内視鏡像・組織学的改善を認めた.好酸球性食道炎は本邦では稀な疾患であるが,典型的な症状と特徴的な内視鏡像より食道生検を施行することが早期診断に重要である.
  • 原田 拓, 山野 泰穂, 吉川 健二郎, 木村 友昭, 高木 亮, 阿部 太郎, 徳竹 康二郎, 奥宮 雅代, 中岡 宙子, 関 仁史, 菅 ...
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3529-3535
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    65歳,男性.2007年10月に左腎細胞癌にて根治術を施行,以後再発なく経過していた.2009年7月にスクリーニング目的で施行された上部消化管内視鏡検査で胃体中部後壁に山田III型のポリープ様病変を認め,内視鏡所見からは過形成性または炎症性ポリープなどの非腫瘍性病変が示唆された.診断的治療目的にEMRを施行したところ,切除標本の病理組織所見では粘膜固有層深部に限局して淡明な細胞質を有する腫瘍細胞を認め腎細胞癌の胃転移と診断した.腎細胞癌の胃転移は稀であり,内視鏡的に切除した1例を経験したので報告する.
  • 笹島 順平, 柳川 伸幸, 山崎 まどか, 板橋 健太郎, 嘉島 伸, 富永 素矢, 後藤 充, 岡本 美穂, 斎藤 義徳, 折居 裕
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3536-3541
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は72歳女性.胆石,総胆管結石にて入院.内視鏡的乳頭切除術を行い,排石後に内視鏡的経鼻胆管ドレナージチューブ(ENBD)を留置した.その後チューブが逸脱,傍乳頭憩室に刺入し,後腹膜穿孔を来たした.絶飲食と抗生剤投与で手術せずに保存的に改善しえた.ENBDは黄疸例,結石破砕例等に対し有用な治療手技であるが,その合併症の報告はほとんどない.本症例はきわめてまれな合併症と思われたため,報告した.
  • 高橋 俊介, 明石 哲郎, 淀江 賢太郎, 山田 真梨子, 松尾 享, 吉村 大輔, 落合 利彰, 土田 治, 壁村 哲平
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3542-3547
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は長期臥床の70歳男性.嘔吐後の発熱を主訴に紹介入院となる.精査にて肺炎の他,上腸間膜動脈症候群が認められ,絶食・胃管ドレナージ施行した.肺炎軽快後,胃管を十二指腸水平部へ進めて造影剤を注入したところ通過障害を認めた.栄養状態,嚥下機能低下を考慮し,一期的にJett PEGを施行,その後紹介元へ転院となった.Jett PEG後68日目胃瘻孔の発赤を主訴に当院へ紹介の際,75日目に透視下で造影剤注入を行ったところ,上腸間膜動脈症候群は軽快していたため胃瘻チューブに交換した.その後経過良好であった.上腸間膜動脈症候群を有する長期臥床患者において,同治療法は安全で有用なものであると思われた.
  • 甲賀 啓介, 三鬼 慶太, 永田 健, 甲賀 新, 植村 彰夫, 小瀬 嗣子, 新崎 信一郎, 西田 勉, 飯島 英樹, 辻井 正彦
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3548-3554
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    67歳女性,主訴は右下腹部痛.大腸内視鏡検査で盲腸から横行結腸にびらん・潰瘍を伴う暗青色浮腫状粘膜を認め,生検病理組織で粘膜固有層内に拡張した小血管と周囲に膠原線維の増生を認めた.腹部CT検査では同部位に腸管壁の全周性肥厚及び腸間膜付着側に血管走行に沿った線状石灰化像を認め,以上より特発性腸間膜静脈硬化症と診断した.絶食・TPN加療後,経口摂取開始時よりメサラジン内服を開始し,以後腹痛の再燃を認めなかった.1年後の大腸内視鏡検査で浮腫性変化やびらん・潰瘍は著明に改善していた.本症の治療に一定の見解はないが,今回メサラジン投与にて長期経過を追えた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 中村 文彦, 松浦 良徳, 須田 浩晃, 服部 克哉, 樋口 良太, 剛崎 寛徳, 冨岡 英則, 佐藤 茂樹, 松林 純, 黒田 雅彦
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3555-3565
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代の女性.大腸がん検診で便潜血反応を指摘され,下部消化管内視鏡を施行した.S状結腸下部から直腸S状部(以下RS)上部にかけて約10cmにわたる不均一な顆粒状隆起が集簇したIIa型の全周性絨毛腫瘍を認めた.
    外科的治療の方針としたが,本人の都合により約1カ月半の期間があいた.その後の同検査で,病変は一部結節隆起を形成し腸管狭窄を伴っていた.
    腹腔鏡補助下S状結腸切除術,2群リンパ節郭清術を行い,切除標本は病理組織学的に1群リンパ節(241番)転移を伴うSM浸潤癌を伴っていた.
    UFT/UZELによる術後化学療法を半年間行ったが,その後も再発を認めていない.
新しい手技・処置具・機器
手技の解説
  • 中村 正直, 後藤 秀実
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3568-3575
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    カプセル内視鏡検査(CE)は,他の内視鏡と異なり内視鏡検査自体は容易に施行が可能であるが読影には時間と労力を要する.2011年5月現在,本邦において臨床導入されているCEは,ギブン・イメージング社のPillCam SBとオリンパスメディカル社のEndo Capsuleである.読影に関しては2社で用いるソフトの機能は異なるものの,それらの機能をフルに活用し自分に合った読影法を身につけることにより安定した読影ができる.PillCam SBでは,プレビュー,レビュー,レポートといった3段階で行うとスムーズで正確な読影ができる.レビューでは2画面表示であれば15倍速,4画面では20-25倍速が適量と思われる.Endo Capsuleでは,オーバービュー機能,セレクトモード,スキップモードを生かした読影法が適している.今後CEの読影は自動診断に向け診断精度を高めるソフトの開発が進むと思われるが,読影者としては,それらを最終判定できる読影能力を磨いておくことが重要である.
資料
  • 熊谷 洋一, 川田 研郎, 山崎 繁, 飯田 道夫, 落合 高徳, 門馬 久美子, 小田島 肇, 河内 洋, 根本 哲生, 河野 辰幸, 田 ...
    2011 年 53 巻 11 号 p. 3576-3585
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    Endocytoscopy system(ECS)は細胞レベルまで観察が可能な超拡大内視鏡(接触型光学顕微鏡)として2003年に開発され臨床応用した.ECSは特に食道扁平上皮癌症例において内視鏡検査中リアルタイムに高画質な細胞,核の情報が得られる.
    現在ECSはプローブタイプ,一体型,一眼式連続拡大型と3種類が開発されている.
    プローブ型は1,100倍,450倍の2種類があり,一体型は80倍の拡大内視鏡に450倍のECSが内蔵されている.連続拡大型はH260Zと同様ハンドレバーで連続して380倍まで拡大が可能である.
    ECSによる食道扁平上皮癌の観察では“核密度の上昇”,“核異型”が同時に観察された場合組織学的に悪性と診断してよく,84% の症例で“生検診断省略可能”と判断されている.
    本論文では各ECSの特徴と開発の経緯,また食道悪性腫瘍に関するECS観察の原理と成績を文献的考察を含め報告する.
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