超音波内視鏡(EUS:endoscopic ultrasound)下胆道ドレナージは,ERCPが施行困難な症例の有用な代替え加療方法として,近年多くの報告を認める.EUSガイド下順行性治療(AG:antegrade treatment)は,EUS下胆道ドレナージの中の一つの方法であり,その特徴として乳頭部・胆管開口部まで内視鏡を挿入することなく,消化管と胆管の間に形成した一過性の瘻孔から順行性に胆道病変に対して処置を行うものである.今回はEUS-AGについて,胆道病変を悪性胆道閉塞,胆管結石,良性胆管狭窄に分類し,それぞれの疾患における現状についてevidenceを交えながら概説する.
背景・目的:H. pylori慢性胃炎では胃粘膜内にリンパ濾胞が存在し,内視鏡では小円形黄白色斑として観察されている.この小円形黄白色斑の除菌後の経時的変化について後方視的に検討した.
対象・方法:除菌前に小円形黄白色斑が観察された慢性胃炎35例を対象に除菌成功後定期的に内視鏡検査を行い,内視鏡像の変化を検討した(平均観察期間:58±31カ月).
結果:1)小円形黄白色斑は除菌後に徐々に縮小し,一部では辺縁部ないし内部に白色調の増強した構造体を認め,その後白色調の強い小白斑を経て不明瞭化した.2)観察期間内に小円形黄白色斑の不明瞭化を74%,縮小を23%,不変を3%に認め,小円形黄白色斑の累積不明瞭化率は2年46%,4年67%,6年88%であった.
結論:H. pylori慢性胃炎胃粘膜に観察される小円形黄白色斑は除菌後時間の経過とともに縮小・不明瞭化した.
症例は74歳女性.進行性核上性麻痺にて嚥下障害を生じ,約1年前に経皮内視鏡的胃瘻造設術が施行された.今回,経管栄養の滴下不良と胃瘻瘻孔周囲の発赤・熱感を主訴に当院を受診した.上部消化管内視鏡では胃内に胃瘻内部バンパーを認めず,バンパー埋没症候群と考えられた.埋没した胃瘻内部バンパーは腹部単純CT・EUSにて完全に胃壁外に脱落していることが確認され,胃瘻外部バンパーからのガイドワイヤーの胃内挿入も不可能であった.外科的手術が検討されたが,鮒田式胃壁固定術を応用することで簡便で安全な用手的胃瘻抜去を実現したため,これを報告する.
症例は64歳,女性.甲状腺癌と診断.PET検査で甲状腺癌と下行結腸に異常集積を認め,大腸内視鏡検査を施行.下行結腸に25mm大の有茎性腺腫を認め,粘膜切除術を施行.以後,腹部違和感が持続.4カ月後,血便を主訴に来院され,大腸内視鏡検査を施行.直腸に全周性の粘膜粗造とびらん,血管透見像の消失を認めた.生検病理組織検査では,炎症細胞浸潤とcryptitisを認め,直腸型潰瘍性大腸炎と診断した.本症例は,潰瘍性大腸炎の発症過程が観察された貴重な症例であり,報告する.
74歳男性.総胆管結石に対して内視鏡的乳頭括約筋切開術,胆道結石除去術施行され,胆嚢結石に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)が行われた.9カ月後に近医より肝機能障害で紹介され画像検査にて総胆管内に迷入したクリップの存在を疑い内視鏡的逆行性胆管造影を施行した.総胆管内に結石形成を伴わないクリップを確認しバスケット鉗子にて摘出した.本邦での胆嚢摘出術後クリップ迷入65例の報告を検討するとLCやLCから開腹移行し胆嚢摘出術を受けた症例では26.6%で術中術後合併症を伴い,クリップ迷入のリスク因子であることが分かった.迷入症例では胆管狭窄を伴い胆管切除が必要になることもあるため,クリップを使用した胆嚢摘出術で術中術後合併症を起こした症例では術後のフォローが必要と思われた.
膵上皮内癌の術後,3年目と6年目に残膵癌を認め,残膵全摘術を施行した2例を経験した.2例とも初回診断は上皮内癌でR0手術であったが,短期間に残膵癌を認め,上皮内癌の再発よりも多中心性発癌の可能性が示唆された.今後,早期診断された膵癌の切除例に対しては,EUSを含む残膵観察を十分考慮した経過観察法の検討が必要である.
術後再建腸管を有する胆膵疾患に対するERCPは,バルーン内視鏡の開発により可能となった.しかし手技の標準化はなされておらず,複雑な分岐を伴う再建術式(膵頭十二指腸切除後Child変法,胃切除後Billroth-Ⅱ法,胃切除後および胃温存Roux-en-Y法)に対し,試行錯誤しながら,目的部位への到達を目指して挿入を試みているのが現状である.われわれは,空腸空腸吻合部での挿入方向の判別方法として“吻合部の縫合線”を利用し,高い目的部位到達率を得ている(95.6%[347/363]).正確な挿入方向の判別によって,術者のストレス軽減に加え,挿入時間の短縮や安全で確実な手技遂行の達成が期待される.
近年の技術革新によって内視鏡技術の進歩は著しく,1,000倍の倍率によってリアルタイムに組織を観察しうる“optical biopsy”の時代に突入しつつある.筆者は2014年より共焦点内視鏡による消化管診断について研究を行ってきた.まず最初に,共焦点内視鏡に不可欠と考えられていたfluoresceinの静脈投与ではなく,ごく少量の滴下にてほぼ同等の画像を得ることに成功し,これを“fluorescein dripping method”として報告した.
胃においては共焦点内視鏡所見は非常に多彩で,未だ診断学は確立されていないが,胃癌の組織型類推は比較的容易に可能であり,生検の代替法として十分成立すると考える.現行の通常観察・拡大観察では鑑別が困難な十二指腸上皮性腫瘍の鑑別において,筆者は極めて有用な“ABC-C classification”を提唱している.今後は,欧米で盛んに行われはじめている共焦点内視鏡を用いた分子イメージングの研究に期待が寄せられる.
【目的】上部消化管出血患者に対して予後予測におけるスコアの有用性が報告されているが,内視鏡治療の適応において,これらのスコアの有用性は十分に評価されていない.われわれは,日本人における上部消化管出血患者の,内視鏡治療の必要性のために,予測スコアの有用性を検討し,新たなスコアモデルを構築した.
【方法】吐下血を主訴に受診し,緊急内視鏡検査を行った上部消化管出血患者の212例を対象とした.内視鏡治療,手術,IVRをアウトカムとし,初めに,Glasgow-Blatchford score(GBS)とClinical Rockall score(CRS)とAIMS65のROC曲線下面積(AUC)の比較を行った.次に,上部消化管出血に関連する因子についてロジスティック回帰分析を行い,その回帰係数より新たなスコアモデルを作成した.最後に,新予測スコアと既存の予測スコアにおける有用性の評価を行った.
【結果】治療を必要としたのは109例(51.4%)であった.AUCはGBSが0.75[95% CI 0.69-0.81],CRSが0.53[0.46-0.61],AIMS65が0.52[0.44-0.60]で,GBSが治療必要性の予測においてCRSやAIMS65より優れていた.ロジスティック回帰分析の結果,収縮期血圧<100mgHg,失神,吐血,ヘモグロビン<10g/dL,尿素窒素≧22.4mg/dL,eGFR≦60ml/min/1.73m2,抗血小板剤内服の7つが有意な因子であった.これらの因子に基づいて作られた新予測スコアのAUCは0.85[0.80-0.90]で,治療適応の予測において,既存のスコアより優れていた.
【結論】日本人の上部消化管出血患者における治療適応を予測するために新スコアは既存のスコアより優れていた.
【背景・目的】現在までに大腸内視鏡検診のランダム化比較試験は完了しておらず,現在行われている試験では75歳以上の受診者は除外されている.本研究では,70~74歳,75~79歳の高齢者に対する大腸内視鏡検診の結腸直腸癌(CRC)予防に及ぼす効果と安全性を明らかにすることを目的とした.
【研究デザイン】米国で行われた大規模な人口ベースの前向き研究である.観察データを用いて,大腸内視鏡検診の有無による2群を比較した.
【対象と評価方法】CRCの平均的なリスクがあり,過去5年間に大腸癌の診断または検診のための大腸内視鏡検査を施行したことがない70~79歳のメディケア受給者(2004年~2012年)1,355,692名を対象とした.8年間のCRCリスクと,有害事象の30日リスクを評価した.
【結果】70~74歳のメディケア受給者では,CRCの8年間リスクは大腸内視鏡検診群で2.19%(95% CI,2.00%-3.00%),検診なし群で2.62%(CI,2.56%-2.67%)であった.(絶対リスク差 -0.42%[CI,-0.24%--0.63%]).75~79歳では,CRCの8年間リスクは大腸内視鏡検診群で2.84%(95% CI,2.54%-3.13%),検診なし群で2.97%(CI,2.92%-3.03%)であった.(絶対リスク差 -0.14%[CI,-0.41%-0.16%]).大腸内視鏡検査の30日間の有害事象リスクは70~74歳で1,000人あたり5.6件(CI,4.4-6.8),75~79歳で10.3件(CI,4.4-6.8)であった.
【本研究の限界】CRCによる死亡率は不明であること.
【結語】大腸内視鏡検診は70~74歳のCRC予防に適度の効果があるが,75歳以上の高齢者では有用性がより少ない可能性がある.大腸内視鏡検査の有害事象リスクは低かったが,高齢者ではより高かった.