豚の妊娠診断については今日まで多くの方法が発表されているが, 臨床上広く応用されているものはない.著者らは人医産婦人科領域において実用化されている超音波ドップラー法に注目し, これを豚の妊娠診断に応用するための検討を試みた.
用いた超音波胎児心拍動検出装置はハートーンUSD-I型 (日本無線医理学研究所) で, 発射超音波は周波数2.25MH
z, 出力30m W/cm
2のものである.方法は, 実験豚の横臥安静時に無保定無麻酔のもとに, 探触子を腹部体表にあてて超音波を発射し, 母体心拍リズムとは異なる周期的な信号音が連続して聴取された場合をもって胎児循環に由来する信号音を検出し得たものとした.なお, 母体および胎児心拍動ドップラー信号音を磁気テープに録音し, これを記録紙上に描記させることにより両者の厳密な判別と心拍数の算定に供した.
最終交配後22-114日の雌豚70頭を用いて延83回の実験を行ない次の結果を得た.妊娠22-29日における妊娠診断適中率は58.3%, 30-39日では81.3%. 40日以降では100%であった.もっとも早期に診断し得た例は妊娠26日のものであった.
最終交配後26-114日の妊娠陽性例67例につき, 胎児および母体の心拍数を測定し, 妊娠の進行に伴う変化を追求した.胎児心拍数は妊娠初期から中期まではかなり多く (母体心拍数の約3倍), 中期から末期にかけて漸次減少を示し, 妊娠日数との間に高い負の相関が認められた [r=-0.87 (P<0.01)].また, 妊娠日数 (X) と胎児心拍数 (Y) との間には次の一次回帰方程式が得られた.Y=252.6-0.572X
いっぽう, 母体心拍数は妊娠末期にやや増加するほかは大きな変動がみられなかった.
以上のことから, 本法は豚の早期妊娠診断法として実用的価値があるとともに, 胎児の生理学的情報を得る一手段としても優れた方法といえよう.
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