兵庫県の和牛生産地の一地区に古くから多発した白刺毛の原因調査をした結果, 次のことを知りえた.
1. 最近11年間 (昭和30年~40年) に発生したHK地区近隣14部落での発生率は4.1%(120/2, 896) であったが, HK地区では12.5%(70/561) と高率であった.
2. 症状は全身白刺毛あるいは眼の周囲, 頸側などの部分的な被毛の褪色, 痩削などがみられたが, Mo中毒にみられたような跛行, 下痢はみとめられなかった.
3. 血液中のMo量は, 正常のものに比して高く, のべ39回の分析の平均値は11.2γ/dlであり, 最高のものは75γ/dlという高い値を示し, 正常値の10倍以上を示すものもあった.
4. 血清中のCu量は, 正常のものに比して低く, のべ36回の分析の平均値は53.2γ/dlと正常値のほぼ半量に近い値を示した.
5. 血液中のMo, Cu量には季節的な変動がみられ, 夏期にはMo量は低く, Cu量は高いが, 反対に冬期にはMo量は高くCu量の低い傾向がみられた.
6. 給与している粗飼料については, 夏は野草の生草, 冬はイナワラが主であるが, 野草のCu量は乾物当たり平均6.48ppm, Mo量は2.76ppm, そのCu/Mo比は2.4となるが, 冬のイナワラはCu量が低く2.52ppm, Mo量は2.87ppm, そのcu/Mo比は0.88となってMo障害発生の危険があるといわれているCu/Mo比2以下となった.
7. 個々の農家について季節的な変動をみても, 冬期にはCu摂取量の減少がみられ, 有色被毛の褪色が初秋より冬期にかけて増加する理由もこの辺にあるものと考えられる.
8. 白刺毛子牛に硫酸銅を日量0.5~1.0g2日間隔で投与したところ, 40日後に元の黒褐色の被毛にまで回復し, Cu投与の効果がみられた.
9. 以上のことから, この有色被毛の褪色 (白刺毛) の原因は, いわゆるComplicated copper deficiencyによるものと考えられた.
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