牛のボルナ病はボルナ病ウイルス1(BoDV-1)による感染症で運動器障害を示すことが知られるが,ほとんどの個体は無症状である.BoDV-1は垂直伝播の可能性が報告されており,今回ボルナ病の発症が認められた1乳用牛群における伝播状況の調査及び垂直伝播の相対リスク(RR)の疫学的検討を行った.その結果,牛群のBoDV-1抗体保有率は全体の35.5%であった.牛群全体としての垂直伝播RRにおける有意性は認められなかったが,1母系統においてRR 3.03(90%CI 1.08~8.49)と,その有意性が認められた.BoDV-1抗体の有無による繁殖成績を比較したところBoDV-1との関連は認められなかった.本牛群のBoDV-1抗体保有率は過去の報告と比較して高く,特定の系統におけるBoDV-1の垂直伝播RRが認められたことから母子伝播の積極的な予防の必要性が示された.
肺炎治療を行っていた8カ月齢の肉用育成牛が第12病日に死亡した.病理解剖では僧帽弁の疣贅性心内膜炎,肝膿瘍,肺膿瘍がみられ,細菌学的検査にてFusobacterium necrophorum(F. necrophorum)subsp. necrophorum が分離された.病理組織学的にはグラム陰性の長桿菌による疣贅性心内膜炎,肝臓及び肺の被包化膿瘍がみられた.壊死桿菌症は肥育牛で一般的にみられる疾病であり,心内膜炎への関与については,牛ではと畜場における内臓検査で心内膜炎への関与が摘発された事例があるのみで,報告が少ない.本例は左心系にF. necrophorum subsp. necrophorum による疣贅性心内膜炎が確認された症例である.
14歳齢,未去勢雄犬の会陰ヘルニア内の前立腺近傍に,多発性の囊胞状及び腫瘤状病変が認められた.病理組織学的に,囊胞は,細胞質辺縁に微絨毛様の突起を有する上皮性細胞により内張りされていた.一方,腫瘤は,薄い壁構造に支持される静脈ないしリンパ管様構造を主体とし,しばしば厚い壁に支持される動脈様構造により構成されていた.免疫組織化学では,囊胞を内張りする細胞は抗Cytokeratin AE1/AE3,CAM5.2,Vimentin及びWilms' tumor protein抗体に陽性を示し,脈管構造を内張りする内皮細胞は抗CD31及びFactorⅧ抗体に陽性を示した.エラスチカ・ワンギーソン染色により,血管壁では膠原線維と筋組織が主体に認められ,内弾性板を含む弾性線維はほとんど観察されなかった.以上の所見から,上記の犬の病変を漿膜封入囊胞と動静脈瘻と診断した.
山形県におけるマダニ媒介感染症(TBD)発生の考察の一助とするため,2016~2018年に山形県内で採取された植生マダニ成虫158匹及び野生動物由来マダニ成虫112匹を対象にTBD病原体遺伝子の検出を試みた.結果,全マダニ検体で国内既知のTBDである日本紅斑熱,ライム病,回帰熱,ダニ媒介脳炎,及び重症熱性血小板減少症候群の病原体遺伝子は不検出だった.一方,ヒトツトゲマダニ30匹及びヤマトチマダニ1匹からはRickettsia helvetica,タネガタマダニ1匹からはRickettsia monacensis 特異的塩基配列が検出された.本研究により,山形県では国内既知のTBDは人に対する大いなる脅威とは言えないものの,国内未報告のTBDを含め,今後もTBD症例発生に対する注意が必要であると考えられた.