酸性次亜塩素酸水は,医療や食品分野で手指,器具,食材などの洗浄・殺菌目的,農業分野では特定農薬として使用されている.本研究では,次亜塩素酸水のPEDVに対する消毒効果を調べた.PEDVと酸性(pH3.0〜3.1)またはアルカリ性(pH11.7〜11.9)次亜塩素酸水を1:9の割合で混和し,1分間処理したところ99.9%以上のウイルス不活化率がみられた.特に,酸性次亜塩素酸水は5%豚糞便存在下でも1分間処理で99.9%以上の不活化率を示した.一方,pH2.7の細胞培養液はPEDVを不活化しなかったことから,酸性次亜塩素酸水の効果は溶液の酸性度に依存しないと判断された.次亜塩素酸水は安全性が高く環境負荷も少ないことから,既存の消毒薬に代わり畜産現場の衛生対策に広く使用されることが期待される.
メインクーン(11歳齢,去勢雄)が,尾の麻痺及び活動性低下を主訴に来院した.尾の遠位での痛覚が消失し,尾の随意運動を認めなかったが,ほかに著変はなかった.画像検査にて尾に異常を認めなかったが,第6,第7腰椎間の腹側から硬膜外脊髄圧迫病変を確認したため,椎間板ヘルニアと診断した.第6,第7腰椎の右側から片側椎弓切除術を実施し,逸脱した椎間板物質を確認,除去した.術中,同部位で脊髄円錐が確認された.術後,尾の随意運動は部分的に回復したが,尾の遠位の痛覚には改善を認めなかった.本症例の脊髄円錐は第6腰椎部に存在し,一般的な猫に比べ頭側に位置していたことから,その圧迫によって尾の遠位の痛覚が消失していたと考えられた.以上から,猫は脊髄円錐の位置に個体差がある可能性が示唆され,神経疾患の診断の際に考慮する必要があると考えられた.
鳥取県内のと畜場に搬入された牛・豚の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌の保有状況を調査した.牛93頭及び豚98頭の盲腸内容物を検体とし,牛では1頭(1.1%)及び豚では27頭(27.6%)からESBL産生大腸菌が分離された.血清型は,牛ではO6が1株,豚ではO143が10株,O25が2株,その他は型別不能であった.ESBL遺伝子は,牛ではCTX-M-1 groupが1株,豚ではCTX-M-1 groupが22株,CTX-M-2 groupが3株及びCTX-M-9 groupが2株であった.豚由来株の薬剤感受性はβ-ラクタム系薬剤のほか,フルオロキノロン系に7株が耐性,ホスホマイシンに2株が耐性,ST合剤には6株が耐性を示した.病原性関連遺伝子は,豚由来株1株がest I とest II を,1株がest II を保有していた.本調査により,ESBL産生大腸菌は豚で保有率が高く,この中には多剤耐性を示す株や病原性関連遺伝子を保有する株が含まれていることが明らかになった.