子宮頸管経由による受精卵の移植で, 受胎を阻害している因子を究明するため, 飼育期ならびに性周期別に膣, 子宮頸管の細菌学的検査を行った結果, 次の結論を得た.
1) 放牧期, 舎飼期別に行った膣前庭の細菌検査では, 両者で優位に検出されたStreptococcusを除けば, 放牧期でグラム陰性桿菌, Corynebacteriumが比較的高頻度に検出され, その割合がそれぞれ26例 (18.6%), 19例 (13.6%) となった.これに対し, 舎飼期では, Corynebacterium, Bacillus, Staphylococcus, Escherchiaの検出頻度が高く, その割合がそれぞれ24例 (39.3%), 20例 (32.8%), 11例 (18.0%), 11例 (18.0%) となり, 放牧期に比べて細菌検出率が高く, 検出菌種に差異がみられた.
2) 発情期, 黄体期別膣前庭の細菌検査では, 発情期のものに細菌の検出されない例が多く, 38.8%を占めたが, 黄体期では, これが12.7%となり少なかった. 検出された菌種はStreptococcusが多く, 性周期を問わず高頻度に検出された. 黄体期では, 発情期のものに比べてCorynebacterium, グラム陰性桿菌, Bacillus, Staphylococcus, などが比較的高頻度に検出されたが, その検出菌数の大半は2~10個 (+) の範囲で少なかった.
3) 膣前庭と膣深部における細菌検査では, 膣深部は膣前庭に比べて細菌の検出されないR例が多く, 77.3%を占めた.
4) 膣前庭および子宮頸管の細菌検査では, 発情期において細菌の検出率が低く, とくに子宮頸管では93.3%が陰性であった. 黄体期には, 膣前庭からCorynebacterium, Bacillusが比較的高頻度に検出されたにもかかわらず, 子宮頸管からは検出例が少なく, 90.9%が陰性であった.
5) 分離Streptococcusのうち, 同定試験を行った21株では, 4株を除けば, すべての溶血を起こす
Str. viridansと
Str. faecium菌であり, Corynebacteriumの18株では,
C. pyogenes,
C. hofmanniiが, それぞれ2, 16株であった. また, グラム陰性桿菌の18株では, Chromobacterium, Flavo-bacteriumが, それぞれ4, 14株となった.
これらの成績から, 子宮頸管では性周期的にみた時期の違いにかかわりなく, 細菌の存在がきわめて低いことが確認され, 子宮頸管経由による受精卵移植では, 膣内での細菌汚染を防止すれば, 細菌による受胎への影響が少なくなるものと考えられる.
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