1981年3月中旬から4月上旬にかけて栃木県下の飼養規模43頭の1競走馬育成牧場において, 妊馬8頭のうち5頭に流産, 死産, 出産直後死のような異常産が発生した. これらの異常産は妊娠9~11ヵ月の馬に, なんらの前駆症状を示すことなく出現した.
異常産により娩出された5頭のうち2頭について病性鑑定を行った. 2頭の病変は共通的であった. 肉眼的に肺は高度のうっ血と水腫を示した. 脾, 腎, 心臓, 口腔および腸粘膜に出血があり, 脳, 肝およびリンパ節にもうっ血が認められた. 組織学的に, 肺の変化は細気管支, 気管支および肺胞上皮細胞の腫大, 細胞質の空胞化, 好酸性あるいは好塩基性のA型核内封入体の形成からなり, 肺胞内および間質における細胞性および液性滲出ならびに出血もあった. 脳には血管周囲性円形細胞浸潤, ミクログリアの結節性および慢性増殖があった. 肝は充出血ならび肝小葉内, グリソン氏鞘および小葉間結合組織における細胞浸潤を示した.
細胞検査により有意な病原細菌は分離されなかった. 馬鼻肺炎ウイルス (ERV) が1例の肺およびリンパ節, 他例の肺, 脳, 肝, 気管および腸から分離された.
流行末期における同牧場馬の中和抗体価は繁殖馬10頭では64~256倍, 育成馬では16~256倍であった.
上記の成績から, これら異常産はERVによって引き起こされたものと診断された.
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