本研究は,細菌性乳房炎を発症したホルスタイン種乳牛の乳汁から分離された大腸菌(E. coli )23株のバイオフィルム(BF)形成能を調査し,臨床的に用いられる抗菌薬5種類のBFに対する作用を明らかにすることを目的とした.供試細菌株23株中21株がBFを形成した.最小殺菌濃度及び最小BF形成阻害濃度は,フルオロキノロン系抗菌薬において低値を示した.最小BF撲滅濃度はすべての供試抗菌薬において高値を示した.よって,フルオロキノロン系抗菌薬は全身投与により乳房内に感染したE. coli の増殖を抑制可能であるとともに,BF形成も抑制可能であると推察された.また,いずれの抗菌薬においてもBF形成後の効果は期待できないと考えられた.
夜間行動を主訴として行動診療科に来院した高齢犬24頭を対象とし,後ろ向き調査を実施した.夜間行動の要因疾患は認知機能不全症候群(CDS),皮膚疾患,腫瘍性疾患,クッシング症候群/下垂体腫瘤が多かった.対象症例の約5割でCDSが夜間行動の要因疾患として診断されたが,身体疾患は8割以上で診断され,身体疾患の診断率がCDSの診断率を上回った.夜間行動として運動と発声をともに示した犬ではCDS保有率が約9割であったが,運動のみあるいは発声のみ示した犬では4割以下であった.追跡調査の結果,夜間行動は約6割の犬で死亡時まで継続したが,要因疾患の治療で完治に至った犬も約2割認められた.本研究の結果から,高齢犬の夜間行動は身体疾患の関連するものが多く転帰は保有疾患ごとに異なるため,鑑別診断がきわめて重要であることが示唆された.