8カ月齢,雌,体重213kgの黒毛和種牛が原因不明の両後肢浮腫を示した.本症例は一般状態や歩様に異常はみられなかった.血液検査では浮腫の原因となる疾患の存在を示唆する所見は認めなかった.各種臨床検査及び診断的治療の結果から,本症例の両後肢浮腫は,心臓疾患や栄養失調を含む全身性疾患や局所の炎症性や血管性によるものではなく,局所リンパ流障害に起因することが示唆された.両前肢腕節及び両後肢飛節の皮下に油性ヨード系造影剤を注入し,経時的にX線撮影を実施した.その結果,両前肢では造影剤のリンパ管内流入が確認されたのに対し,両後肢では見出されなかった.以上の所見から,本症例は臨床的にリンパ水腫と診断され,病理学的検査により本疾患であることが確認された.
2022年10月に3頭の肉用繁殖雌牛が起立不能,流涎,第一胃運動停止,排便停止及び低体温を呈して死亡した.ボツリヌス毒素検査の結果,発症牛の消化管内容物と畜舎内のカラスの糞の培養液からD型ボツリヌス毒素とD/Cモザイク毒素遺伝子が検出された.病理組織学的検査では,発症牛の第一胃と心臓に壊死性血管炎が認められた.疫学調査,臨床所見及びボツリヌス毒素検査の結果から,本症例はD/Cモザイク毒素遺伝子を産生するClostridium botulinum による牛ボツリヌス症と診断された.発症牛はカラスの糞に含まれるボツリヌス菌の芽胞を摂取して発症したと考えられた.当該農場では発症予防としてボツリヌスワクチンの接種と防鳥ネットの設置を実施した.本症の発生予防には農場の清掃と消毒に加えて野生動物の侵入防止対策が重要である.
2017~2021年にかけて岡山県で集めた子牛(2~257日齢)507頭から下痢症例516検体を用いて牛ロタウイルスA(RVA)感染症の発生を調査した.516検体中,152検体(29.5%)から牛RVAが検出された.診療回数,発症日齢,転帰,発症季節,性別に関して,感染の有無をもとに両群間で統計解析を実施した結果,牛RVA感染症はそれらの因子に関係なく,発生していた.上記の牛RVA陽性糞便のうち,25検体を用いてG遺伝子型及びP遺伝子型を決定した.その結果,G6P[5],G6P[11],G10P[11]がそれぞれ32%,24%,32%の割合で検出され,岡山県内には複数の異なる遺伝子型を有する牛RVA株が存在した.今回の研究を通じて,他県での調査と同様に,岡山県でも牛RVAが子牛下痢症の主要な病原体の一つであることが示唆された.
約50日齢の肉用出荷鶏9例が全身性アミロイド症に罹患した.剖検により,7例の発育が遅延し,全例の肝臓が顕著に腫大及び褪色して硬結感を有し,ときにワックス様光沢を示した.6例の脾臓が軽度または中程度に腫大し,2例の割面に小白色斑がみられた.1例の両側大腿脛骨関節の関節軟骨及び滑膜に黄橙色物質が沈着していた.組織学的に,コンゴレッド染色で陽性及び偏光下で緑色複屈折を示すアミロイドの沈着が,全例の肝臓のディッセ腔及び脾臓の莢毛細管壁と同周辺並びに1例の大腿脛骨関節の滑膜上皮細胞周囲及び関節軟骨の栄養血管壁に認められた.慢性化膿性炎が2例の大腿骨の骨髄及び1例の腹気囊にみられた.得られた成績は関節へのアミロイド沈着を伴う全身性アミロイド症が処理場に出荷されるブロイラー雛に存在し得ることを示唆する.
牛枝肉表面の綿球法及びスポンジ法による衛生指標菌数を比較した.2021年3月から一年間,検体数各100件,綿球法は枝肉のもも,ばら(上部),ばら(下部),かたばら(各100cm2)の4カ所(計400cm2),スポンジ法は綿球法の隣接部位を計400cm2拭き取った.検体の綿球法による一般生菌数及び腸内細菌科菌群数の平均±標準偏差(log cfu/cm2)は各々2.04±0.66,0.47±0.28,スポンジ法は各々3.15±0.40及び0.77±0.62であり,スポンジ法の一般生菌数及び腸内細菌科菌群数は綿球法のそれらと比べて高かった(P<0.001).スポンジ法では検知できる警戒レベルの一般生菌数及び腸内細菌科菌群数を綿球法では検出されないことが多いため,今後はスポンジ法によるサンプリングを行うべきであると考えられた.