黒毛和種牛のイソロイシルtRNA合成酵素(IARS)異常症11頭(雌7頭,雄/去勢4頭)について8~37カ月間飼育し,発育と血清成分の推移及び生産性を調査した.10カ月齢までにすべての症例で下痢と肺炎がみられ,食欲は不定であった.12カ月齢以降は1日増体量(DG)が雌牛で0.8~1.2kg,雄/去勢牛で1.0~1.2kgとなるように設定した飼料をほぼ完食したが,体重は標準体重の25~80%で推移した.通算DGの平均は雌牛で0.47kg,雄/去勢牛で0.46kgであった.血清アルブミン,総コレステロール及びインスリン様成長因子-1濃度は10カ月齢まで著しい低値がみられたが,15カ月齢以降では正常対照牛の平均値に近づいた.枝肉成績を調査した2頭の格付けは,B2とB3であった.IARS異常症は,飼料効率が悪く,経済的損失の大きい疾患であることが確認された.
2015年1月に山形県内の豚繁殖肥育一貫経営農場の飼育豚において,嘔吐・下痢症が認められた.母豚及び種雄豚では激しい嘔吐または下痢,食欲不振を認めたが,哺乳豚では下痢のみが認められた.豚13頭の糞便についてウイルス遺伝子の検索を行った結果,豚流行性下痢ウイルス及び伝染性胃腸炎ウイルス遺伝子は検出されなかったが,豚デルタコロナウイルス(PDCoV)遺伝子が全頭から検出された.さらに当該材料についてLLC-PK1細胞を用いたウイルス分離を試みたところ,PDCoVが分離された.分離ウイルスのS遺伝子,N遺伝子の塩基配列は米国株及び韓国株と高い相同性を示した.分離ウイルスを抗原に用いた間接蛍光抗体法による抗体検査では,疾病の発生後少なくとも8カ月間抗体が検出される母豚が存在した.本症例は野外において,PDCoVが主原因となる病態を明らかにした国内最初の報告である.
人は,犬猫等のペットに愛着を抱く.ペットは愛情を注がれ,家庭の中で人同様に生活するようになったが,このことで生活習慣が乱れ,過肥,疾病の発生につながっているとも感じられる.そこで,飼い主のペットへの愛着がペットの健康に及ぼす影響を,飼い主への質問紙調査で検討した.その結果,ペットへの愛着として執着性愛着と気分安定性愛着が抽出され,執着性愛着はペットへの不適切な給餌傾向や混合ワクチン未接種に影響し,不適切な給餌をする飼い主の動物は過肥,混合ワクチン未接種,急性膵炎罹患が多く,その飼い主の執着性愛着は高かった.このことから執着性愛着は,不適切な給餌を介してペットの健康に悪影響を及ぼす可能性があることが分かった.ペットの疾病予防や動物愛護実現のため,獣医師は人のペットへの愛着の質について考慮する必要があると考えられる.
日本に輸入され,動物検疫所において検疫を実施していたカニクイザル32例において,ツベルクリン反応検査を実施したところ,9例が陽性または擬陽性と判定された.結核症が疑われる臨床症状は認められなかったが,病理組織学的に,肺,縦隔リンパ節等の臓器で抗酸菌を伴う結節性病変が認められ,細菌学的に,これらの臓器からMycobacterium tuberculosis(結核菌)が分離された.ツベルクリン反応検査及び病理学的検査の結果から,当該カニクイザル群に結核菌が数カ月以上前に侵入した後,同群内に伝播し拡散した状態にあったものと推察された.さらに,スポリゴタイピングにより遺伝子型別を実施したところ,分離菌の遺伝子型はEAI2_MANILLAと判定された.