1981年6月から9カ月間にわたり, わが国の諸地域の主に動物病院で蒐集した猫血清について, 猫汎白血球減少症ウイルス (FPLV), 猫鼻気管炎ウイルス (FRTV), および猫カリキウイルス (FCV) に対する抗体分布を調査した. また, 猫以外の動物を宿主とするウイルスとして, 犬パルボウイルス (CPV), 犬パラインフルエンザ5ウイルス (CPI5V), 犬ジステンパーウイルス (CDV), 日本脳炎ウイルス (JEV), および豚インフルエンザウイルス (SIFV) に対する抗体保有の有無を調べ, 猫に対する感染性を推測した.
これらの調査結果から, 猫のウイルス性疾患としては, FPLVに対する抗体保有率が全体として61.5%であり, しかも調査地域のすべてにおいて同程度であることから, 本病は全国的に分布しているものとみられる. また, FRTVに対しては17.3%で各地とも陽性率は低く, まったく抗体の存在がみられない地域も存在した. FCVは血清型が異なる3株を抗原とした場合, 74~77%の保有率で株間に差異はみられないが, 全国的にこのウイルスの浸淫を認めた. これらの3種類のウイルスの単独あるいは混合感染について, FPLVまたはFCVの単独感染例はそれぞれ6%および26.7%であり, これらの2種あるいは3種の重複感染例は58.3%と高率を示した. 性別・品種別については有意差がなかった.
他動物を自然宿主とするウイルスに対する抗体保有率は, CPVがFPLVとほぼ同程度であり, かつ抗体価も同レベルを示したことは, 両者の共通抗原性を示している. しかし, CPI5V抗体が1地域に限定して高率に存在したこと, CDV抗体が低率ながら認められたことは注目される. いっぽう, JEV, SIFV抗体は全例とも検出できなかった.
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