感冒様症状を示した軽種馬 (7~22ヵ月齢11頭) に, 獣医師の診察・指示を受けずにタイロシン製剤 (タイロシンプレミックスM22, 武田薬品工業KK) を飼料に混入して与えたところ (11頭のうち5頭は2回投与, 他は1回投与), 1~2日後に食欲不振となり, 2~3日後に激しい下痢を発症し, 若齢馬の4頭が発死した.
さらに, 成馬3頭にこの残飼を給与したところ, 下痢症状が発現した.
斃死した3頭について病性鑑定のため家畜保健衛生所において解剖された.解剖の際に共通してみられた所見は, 副腎皮質の充出血, 脾臓濾胞の不明瞭, 心筋の点状出血, 盲腸壁の充血であり, そのうち1頭には肺の班状出血, 脾の梗塞様出血が認められた.
組織所見上からは, 各臓器の中小動脈の中膜, 内膜, 内弾性板の変性, 浮腫が認められ, 内膜面には結晶様物の沈着が認められた.腸管においては粘膜上皮の変性, 粘膜下織の水腫などがみられたが, 結腸の偽膜性炎症は認められなかった.
斃死馬 (1頭) の実質臓器, 消化管内容物について, 好気性, 嫌気性培養を行ったが, 病原性を有する細菌は検出されなかった.また, 回復馬の組血清を用いてインフルエンザの抗体を測定したが, 抗体の有意な変化は認められなかった.
その他, 管理者, 診療にたずさわった獣医師からの聴き取り調査および疫学調査成績からは, タイロシン投与以外の下痢, 発死に至る原因は見出されなかった.
以上のことから, タイロシン製剤投与による急性下痢と判断されたが, その発現は文献的にテトラサイクリン投与時の下痢と類似していた.
今後はさらに一層, 自家治療の危険性について啓蒙・指導する必要があると考える.
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