生体における犬糸状虫の心血管内での寄生部位を知る目的で, 臨床例の断層心エコー図法 (以下2DE) 検査と, 実験犬を用いて生前と死後の寄生部位の比較検討を行った.
1) 臨床例77例の内訳は, 犬糸状虫寄生無症状13例, 慢性犬糸状虫症36例, およびVanae Cavae Syndrome (以下VCS) 28例である. 無症状群では, 右室内に虫体エコーが認められたものはなく, 肺動脈内に虫体エコーが認められたもの6例, 虫体エコーは検出されなかったもの7例であった. 慢性犬糸状虫症群では6例に右室内にわずかな虫体エコーが認められ, 残りの30例中18例では肺動脈内に虫体エコーが認められた. しかし, 他の12例では虫体エコーは検出されなかった. 右室内に虫体エコーが認められた6例の病態は, 全例とも末期的ステージで, いずれも驚死し, 剖検で3例に死滅虫体の三尖弁構造物へのてん絡が確認された. VCS群では, 全例において大静脈・右房内に多数の虫体エコーが認められ, それらは拡張早期に右室内へ移動し, 拡張末期に再び右房内へ戻った. なお, 小型犬4例では典型的なVCS症状を示さなかったが, 2DE上, 典型的VCS例との区別は困難であった.
2) ペントバルビタールNa安楽死前の2DE検査で, 右室内に虫体エコーが認められたものは26頭中わずか1頭で, 逆に剖検では22頭に右室内で虫体が認められた.
3) 体表面およびペントバルビタールNa麻酔・開胸による心表面からの2DE検査で, 右室内に虫体エコーが認められないことを確認後, ただちに肺動脈, 前・後大静脈を鉗圧して剖検した8頭は, 全頭とも肺動脈内にのみ虫体が認められた. また, 体表面から2DE観察を続けながらペントバルビタールNa (75mg/kg, iv) で安楽死した10頭では, 9頭で2DE上, 血流停止前あるいは停止直後 (ペントバルビタールNa注射後平均3分27秒) に肺動脈から右室内への虫体エコーの移動がみられた.
以上の成績から, VCSや慢性犬糸状虫症の一部を除いては, 通常, 犬糸状虫は肺動脈内に寄生すること, また犬糸状虫の寄生部位について2DE所見と剖検所見とに不一致が生じる原因は, 肺動脈内の犬糸状虫が頻死期ないし死後ごく短時間内に右室, さらに右房内へと移動することによることが示唆された.
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