患犬はドイツ・シェパード種, ♀, 5才で, 昭和41年2月に歩行時転倒, 血尿, 呼吸困難などの症状を呈し, 某獣医師によってフィラリア症の診断のもとに治療をうけ, 一時回復したが, その後, 漸次削痩が目立ち, 消化不良性の軟便が続き, 栄養は低下するばかりであった.
42年3月に本例を初診し, 当時蒼白ともいうべき著明な口腔粘膜, 結膜の貧血, 呼吸困難, 鼻出血を呈し, はなはだしく削痩していた.また歩行中転倒することもしぼしば見られ, 触診によって最後位肋骨の後縁に沿って硬固な腫瘤を触れ該部を圧すると疼痛を訴えた. これは第5病日の試験開腹の結果巨大な脾腫を確認した.
血液検査を実施したところ, 赤血球数, HOともに減少し, 白血球数89, 700と著明に増加し, そのうち, 好中球幼若型に属する骨髄球, 後骨髄球が半数を占めていた. 肝機能検査として試みたコパルト反応は右側反応を示し, 血清蛋白は減少していた.
尿検査では, 糖, ウロビリノーゲン, ビリルビンは陰性であり, 参考に試みたべソス・ジ滋ンズ蛋白体は陽性であった. またミクロフイラリアも検出され, フィラリアによる障害も少なからず関与しているようにおもわれた.
治療は栄養改善の目的でプラズマ, ブドウ糖, 総合ビタミン剤を連日投与し, 抗白血病剤としてプレドニン1~5mgを毎日, マイトマイシンC1mgを1日おきに投与したところ漸次症状の改善が認められ, 第17病日にはほとんど回復したかにおもわれたが, 第20病日にいたり, 急性肺炎を併発し, 原病であると思われたいわゆる白血病の急性転帰をとり, 一般症状は再び悪化して第24病日に死亡した.解剖および病理学的検索を実施することができなかったが, 以上の所見から骨髄性白血病がうたがわれた.
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