数理モデルを用いて管内の1酪農場で発生した牛コロナウイルス病(BCoVD)の流行動態を解析し,流行防止に必要な免疫保有割合(VC)と発症牛の隔離による流行防止効果を評価した.基本再生産数R0の値は8.00(3.15~16.0),VCの値は0.875(0.682~0.937)と推定された.確率論的シミュレーションの結果,軽症牛を含むすべての発症牛を発症後12時間以内に隔離することで,BCoVDの流行を防止できる可能性が高いと予測された.一方,軽症牛を隔離しなければBCoVDの流行の防止は難しいと予測された.
本研究では,生存子牛の肋骨骨折の発生状況及び分娩状況との関係を調査した.神奈川県内酪農家13戸の子牛101頭(自然分娩68頭,介助分娩33頭)を対象とし,胸部触診による肋骨骨折の評価及び分娩状況の聞き取り調査を実施した.また,肋骨骨折を認めた7頭の胸部CT検査を行った.肋骨骨折の発生率は全体で6.9%であった.肋骨骨折の発生率は介助分娩が自然分娩より高かった.また,肋骨骨折した子牛は出生後に異常を示す割合が高かった.CT検査により8.9±4.4本/頭の骨折を確認し,左右ともに第4~7肋骨の骨折が多い傾向にあった.本研究より,肋骨骨折は介助分娩時の不適切な牽引などが原因と考えられた.また,分娩を介助する畜主への適切な介助方法に関する情報提供が必要である.
7歳のペキニーズが排便困難を主訴に来院した.直腸検査にて腫瘤状病変による直腸狭窄を認めた.CT検査によって周囲組織への浸潤を伴う全周性の腫瘤状病変が確認され,病理組織学検査により直腸腺癌と診断した.外科切除が困難と考えられたため,緩和的治療として自己拡張型直腸ステントの設置を実施した.直腸ステント設置により狭窄部の拡張が認められ,排便困難が改善した.その後,時々軽度のしぶりや血便は認められたものの一般状態も改善し,自力での排便が可能となった.しかし,直腸ステント設置40日後の第72病日に自宅にて突然死した.死因は明らかではなく,腫瘍及びステント設置との因果関係は不明であった.死亡時まで一般状態,排便ともに良好であったことから,短期的には有効性が認められたが,長期的な安全性や有効性については確認できなかった.
と畜場に搬入された27カ月齢の黒毛和種雌牛において,病理組織学的検査の結果,急性膵壊死と診断した症例に遭遇した.病歴書によると,と畜場搬入7日前から食欲不振及び腹部皮膚の振戦が認められ,生体検査でも腹部皮膚の持続的振戦が確認された.解体後検査では,膵臓は軽度に腫大,表面に線維素が少量付着し,割面では白色〜黄色の斑状病巣がび漫性に認められた.膵臓周囲脂肪組織は肥厚し水腫様で,内部に不整形〜帯状の脂肪壊死が散見された.病理組織学的検査では,膵臓に広範な脂肪浸潤及び脂肪壊死がみられ,脂肪壊死に隣接した膵実質組織に限局して腺房細胞の変性・壊死及び好中球・マクロファージ主体の炎症細胞浸潤が認められ,急性膵壊死の病理組織学的特徴と多くの点で一致した.なお,原因の特定には至らなかった.