2019年10月,黒毛和種繁殖牛1頭が胎齢270日で流産した.胎子の剖検所見では,肺の水腫及び胸腔内に線維素の析出,肝臓の白斑がみられた.病理組織学的には胎子肺で肺胞腔内にグラム陰性の短桿菌を伴う吸引性肺炎がみられ,肝でチフス結節様病変とグラム陰性の短桿菌集簇がみられた.抗O9群サルモネラ家兎血清を用いた免疫組織化学染色ではグラム陰性の短桿菌に陽性反応を示した.また,細菌学的検査で胎子の主要臓器からSalmonella enterica serovar Dublin(S. Dublin)が分離されたため,S. Dublinによる流産と診断した.S. Dublinによる流産例の報告は多数あるが,胎子の検査はほとんど実施できておらず,病変形成がみられた報告例はない.本例では,胎子の主要臓器からS. Dublinが分離され,肝臓のチフス結節様病変がみられたため,胎子でもサルモネラ症に特徴的な病変形成を起こすことが明らかとなった.
麻布大学附属動物病院腎泌尿器科において,尿管結石による尿管閉塞と診断された猫117例(143尿管)に対して行われた外科手術における合併症について検討を行った.術後再手術を要する合併症が最も少なかったのは尿管切開術の4.0%であり,その他尿管膀胱吻術27.1%,尿管ステント設置術34.6%,SUB設置術37.5%であった.いずれの手技においても術後クレアチニン値は有意に低下した.周術期死亡率は1.8%であり,過去の報告と比較して低かった.術前に実施した腎瘻設置術は,高窒素血症が重度で長時間の麻酔リスクの高い症例の安定化や閉塞解除後の腎機能を推測するうえで有用であった.猫の尿管結石は個々の病態がさまざまであり,外科療法における明確な治療方針は確立していないことから,治療にはすべての手技を選択できる熟練した外科医による対応が望ましいと考えられた.
山形県内のと畜場に搬入された繁殖母豚の回腸の漿膜面に隆起する腸壁腫瘤を認めた.生体検査では異常を認めず,解体後検査では回腸以外の臓器に著変を認めなかった.腫瘤は7×6×5cm大が2つと2×1×1cm大が4つからなり,不連続性で,腫瘤表面は乳白色で弾力性を有し,割面は乳白色充実性で,その中心部には陳旧化した膿瘍及び壊死がみられた.病理組織学的には,腫瘤辺縁部では紡錘形腫瘍細胞が束状ないし不規則な錯綜配列を示しながら増殖する像を認めた.腫瘍細胞は長楕円形ないし類円形核と中等量から豊富な好酸性細胞質を有し,有糸分裂像は高倍率10視野で1個であった.免疫組織化学染色では腫瘍細胞はvimentin,KIT及びDOG-1陽性,α-SMA弱陽性,CK及びS-100陰性であった.以上の結果から,本症例を豚の回腸原発の消化管間質腫瘍(GIST)と診断した.