食欲不振を主訴に受診した3歳5カ齢のホルスタイン種乳牛が,下顎と胸垂の浮腫,頸静脈怒張,泥状下痢を呈したため創傷性心膜炎を疑った.心臓超音波検査により多量の心囊水の貯留が確認されたが,フィブリン析出はみられなかった.心囊水は赤色血様であったが腫瘍細胞はみられなかった.血液及び生化学検査では強い炎症像はみられなかった.第20病日に心膜穿刺により心囊水5l を除去したところ,翌日以降,浮腫の軽減,腹水・胸水・心囊水の減少とともに,一般状態が改善した.しかし,その後症例には聴診及び心臓超音波検査所見から心室中隔欠損が確認されたため,第29病日に病理解剖を行った.病理解剖では,血様心囊水の由来となる病変は認められず,特発性心囊血腫と診断された.心膜穿刺による心囊水除去は本症の治療の選択肢になり得ると考えられた.
インピーダンス法を用いた臨床現場即時検査(POCT)対応の自動血球計数装置は特に猫の血小板数(PLT)を正確に測定することが困難である.動物用自動血球計数装置Microsemi LC-662(LC)は測定原理にインピーダンス法を用いたPOCT対応機器である.本研究では基準機にはSysmex XT-2000iV(XT)を用いて,さらにLCと同じ測定原理を用いたPOCT対応機器であるCelltac α(Cα)を比較対象として,LCの精度評価を行った.また,採血直後の測定ができない場合も考慮して血液保存による測定値への影響に関しても検討した.検討用血液は,相関性の確認には健常犬9頭及び猫5頭と,無作為に選出した疾患犬90頭及び猫62頭,血液保存による測定値への影響の検討には健常犬9頭及び猫5頭から得たものを用いた.血小板数(PLT)の相関は,犬ではLC/XTとCα/XTで同程度に高かった.一方,猫においてはCα/XTは中等度の相関に止まったのに対し,LC/XTでは高度の相関が認められた.保存による影響については,温度と時間経過の両面から検討した.その結果,4℃で長時間保存すると,犬,猫共にPLTが顕著に減少し,白血球数は増加した.
黒毛和種のと畜検査データ(32,586頭)を用いて,腸間膜脂肪壊死症に関連する要因を検討した.本症の発生を目的変数,月齢,性別及び農家を説明変数としたロジスティック回帰により解析したところ,本症は雌で診断されやすいこと,月齢の増加に伴い診断されやすくなること,さらに農家により大きく発症率が異なることが示された(P<0.01).加えて,農家を平均発症率より高いグループと低い農家グループに分け,腸間膜脂肪壊死症とその他の疾病との関連につきアソシエーション分析したところ,発症率の高い農家では,腎周囲脂肪壊死症,胃炎,出血性炎症,肺炎及び肝炎との間に統計学的に有意な相関が認められた.以上のことから,本症の発症には,性別,月齢,農家及び飼養管理方法が関連すると考えられた.