西宮食肉センターに搬入された雑種豚187頭を全くランダムに抽出し, つぎのような実験を行なった. 整理の都合上肉眼的にみて全く正常なものを (-) とし, 軽度のむれのみられるものを (+), 重度のむれのみられるものを (++) とした.
1. と殺して後, 業者の手が全く加わっていない時点で胸最長筋を第6腰椎と仙骨の間で切り取り, 筋肉中の乳酸量の, と殺後30分, 1, 2, 3, 4時間における経時的変化を調べた. その結果 (-), (+), (++) とも各グループで若干数値が上下するが, BRISKEYらのいうようにと殺後急速に乳酸が増加するのではなく, と殺後30分ですでにそれぞれ最高値に達し, そのまま4時間後まで椎移するということがわかった.なお第II報で述べたように背割部カットでは業者がたわしでこすり, 水洗するため (++) の乳酸値が減っていたが, 業者が手を加えない段階で筋をカットすれば, ロースカットと同じような値が得られることが再確認できた.
2. と殺後1分おきに5分まで採血しその血漿中のアドレナリンを測定した. 3分で統計学的に有意なアドレナリンの上昇をみたが, (-), (+), (++) の相互間には統計学的に有意な差はみとめられない. この結果から頭を叩きと殺することが, むれ肉を引き起こすためのストレッサーとなっていないと思われる.
3.胸最長筋の代わりに, 同じ赤色筋である胸骨乳突筋を用いて筋グリコーゲンを測定したところ, 非常に低い値しか得られなかった. これはと殺する前にペントバルビタールで深麻酔せしめ, 直ちに筋をとり出し液体窒素中に投ずることができなかったからであろう. ゆえにと畜場業務のかたわら筋グリコーゲンを測定することは不可能である.
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