サラブレッド妊娠馬の血中プロジェステロン(P4)及びエストラジオール(E2)濃度は,胎盤炎等による流産の前に変動することが知られている.本研究では妊娠後期に実施された腸管手術9症例について術後管理とあわせて血中P4とE2濃度の変化を検索した.9例中6例の馬でホルモン値の異常は認めなかった.重症であった3例ではP4濃度の増加を示したため,合成プロジェステロン製剤,子宮弛緩剤,ST合剤の経口投与による治療を行った.E2濃度については一定の傾向は認められなかった.全例で正常な新生子を分娩した.妊娠後期のサラブレッド繁殖雌馬での適切な腸管手術は,多くの例でホルモン値に及ぼす影響が少ないものの,ホルモン測定を実施することにより流産リスクを早期に発見できることが示唆された.
トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)は,人医学領域においてDICや血栓塞栓症の早期診断マーカーとして測定されている.人用の測定系を用いて犬のTAT測定の基礎的検討を行ったところ,広範囲の濃度において犬のTATは人用のTAT測定に用いられている抗体と一定の交叉性を示し,基準値上限付近や高濃度における良好な再現性も確認された.凝固亢進傾向を示す基礎疾患を持つ犬において経時的にTATを測定した結果,原疾患の治療に良好に反応した症例ではTATが速やかに正常値化する過程が観察されたが,原疾患の治療に反応が乏しかった症例ではTATの高値が持続した.本測定系による犬のTAT測定では,測定値の変動の比較は可能であることが分かった.また,TATの変動を評価することで原疾患に対する治療の反応を確認できる可能性が示唆された.
症例は雑種犬,雌,9歳齢で,右肺後葉に限局した肺腺癌を完全切除し,シクロホスファミドによるメトロノミック療法を行った.術後3カ月目に別の肺葉に転移を認め,ピロキシカムを追加したが,転移病巣は多発性に進行したため,術後10カ月目からさらにリン酸トセラニブを投与した.肺転移病巣の明らかな縮小を認めたが,副作用により,休薬,投与量の減量及び投与間隔の延長を余儀なくされた.徐々に肺病変は悪化し,術後33カ月目に死亡した.リン酸トセラニブは犬の肺腺癌に有効と思われるが,シクロホスファミドとの併用においては無菌性出血性膀胱炎を悪化させる危険性が示唆された.また,本薬剤の長期的投与において副作用である食欲低下や嘔吐は解決すべき大きな問題であったが,シプロヘプタジンやファモチジンが副作用を軽減できる可能性が示された.