北海道空知管内で飼養されていた5カ月齢の日本輓系種が,発熱,呼吸促迫及び下痢を呈し斃死した.剖検では,回腸壁の肥厚や斑状の褪色がみられ,回腸粘膜は皺壁の形成が認められた.細菌学的検査では,回腸粘膜及び結腸内容から,Lawsonia intracellularis 遺伝子が検出された.病理組織学的検査では,回腸における陰窩上皮細胞の腺腫様過形成がみられ,Warthin-Starry染色で陰窩上皮細胞の細胞質内に多数の湾曲した小桿菌が,家兎抗Lawsonia intracellularis 抗体を用いた免疫組織化学染色では,小桿菌に一致して陽性反応がみられた.細菌学的検査及び病理組織学的検査の結果から,本症例を馬の増殖性腸症と診断した.これまで,日本輓系種における本病の発生報告はなかったが,重種馬においても,本病の診断及び対策が必要である.
犬はさまざまな中毒物質や異物を誤食することがあり,その対処法の1つとして催吐処置が選択される.催吐処置には本邦ではトラネキサム酸が用いられることが多いが,海外ではアポモルヒネが一般的である.本研究では,トラネキサム酸とアポモルヒネの催吐処置における有用性の比較を目的に回顧的研究を行った.その結果,アポモルヒネ投与群ではトラネキサム酸投与群と比較し,嘔吐率,誤食物の排泄率が有意に高いことが明らかになった.また副作用については,トラネキサム酸群の0.9%で痙攣発作が認められ抗てんかん薬などの投与が必要となったのに対し,アポモルヒネ群では異物排泄後も嘔吐が続く症例が多いことが示され処置後の悪心及び嘔吐の遷延には注意が必要と思われた.以上より,アポモルヒネはトラネキサム酸と同様に,犬の催吐処置において有用な薬剤である可能性が考えられた.