臨床で胃炎や肝炎に使用されている小柴胡湯は, 胃潰瘍にも有効であることが判ってきた.しかしながら, 小柴胡湯の胃潰瘍に関する薬理学的研究はなされていない.そこで筆者らは, 小柴胡湯の胃炎・胃潰瘍, 胃酸分泌ならびに胃粘膜電位差低下に対する作用についてラットを用いて検討した.小柴胡湯エキス末は, エタノール胃粘膜損傷モデルに対して250および500mg/kg, p.o.で用量依存的な抑制作用を示した.また, アスピリン, インドメタシンおよび水浸拘束ストレス胃粘膜損傷モヂルに対して, 500mg/kg, p.o.で有意な抑制作用を示した.スクラルファート500mg/kg, p.o.は, エタノールおよびアスピリン胃粘膜損傷モデルを有意に抑制した.シメチジン10mg/kg, p.o.は, アスピリン, インドメタシンならびに水浸拘束ストレス胃粘膜損傷モデルに対して有意な抑制作用を示した.小柴胡湯エキス末は, 10, 30,100mg/kg, i.p.でペンタガストリンおよび2-デオキシ-D-グルコ一ス誘発胃酸分泌に対して用量依存的で有意な抑制作用を示した.シメチジン1mg/kg, i.p.はペンタガストリン誘発胃酸分泌に対して, アトロピン0.05mg/kg, i.p.はペンタガストリンおよび2-デオキシ-D-グルコース誘発胃酸分泌に対して有意な抑制作用を示した.小柴胡湯エキス末は, 工タノール誘発胃粘膜電位差低下に対して, 250,500および1000mg/kg, i.g.で有意な抑制作用を示した.スクラルファート500mg/kg, i.g.は, 有意な抑制作用を示したが, シメチジン250mg/kg, i.g.は作用を示さなかった.以上の結果より, 小柴胡湯は胃粘膜保護作用を有するスクラルファートや胃酸分泌抑制作用のあるシメチジンならびにアトロピンと異なり, これら両者の作用を合わせ持つ薬物であると考えられる.
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