日本薬理学雑誌
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146 巻, 2 号
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がん患者のサポートケアを目指したトランスレーショナルリサーチの提言
  • 清水 千佳子
    2015 年 146 巻 2 号 p. 72-75
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    抗がん剤治療の進歩とともにがんの治療成績は向上している一方,抗がん剤の副作用は患者やサバイバーの生活に大きな影響を及ぼすため,より優れた副作用のマネジメント方法や支持療法の開発へのニーズは高い.そのためにも,抗がん剤のトランスレーショナル・リサーチを推進していくことは重要であり,基礎と臨床の研究者のいっそうの協働が求められている.本稿では,抗がん剤の副作用に関するトランスレーショナル・リサーチの例を示しつつ,その課題について検討する.
  • 宮野 加奈子, 河野 透, 上園 保仁
    2015 年 146 巻 2 号 p. 76-80
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    抗がん剤や放射線治療により発症する口内炎は,健常人が経験する口内炎と比較し,炎症が広範囲であり,その痛みは強く,摂食困難,抗がん剤の減量,変更を余儀なくされる場合も多い.現在口内炎に対して推奨される予防・治療法はなく,新たな治療法の確立が必要とされている.我々はこれまでに,漢方薬のひとつである半夏瀉心湯の含嗽が,抗がん剤治療により発症した口内炎に有効であることを臨床試験により明らかにし,さらに半夏瀉心湯の口内炎改善メカニズムを解明するための基礎研究を行っている.抗がん剤投与後,口腔粘膜をスクラッチして口内炎を発生させたGolden Syrian Hamsterの口内炎部位では,炎症・発痛物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)量が増加しており,半夏瀉心湯投与によりPGE2は減少し,口内炎は有意に改善された.次に,human oral keratinocyteを用い,PGE2産生に対する半夏瀉心湯の効果を解析した.その結果,IL-1β刺激によるPGE2産生は半夏瀉心湯濃度依存的に抑制され,この抑制作用には半夏瀉心湯を構成している乾姜の成分である[6]-shogaol,ならびに黄芩成分であるbaicalinおよびwogoninが重要であることが明らかとなった.さらに各成分によるPGE2産生抑制メカニズムについて解析を行ったところ,黄芩成分はIL-1β刺激により発現するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害することにより,また,[6]-shogaolはPGE2合成関連酵素の活性を阻害することによりPGE2産生を抑制することが示唆された.以上の結果より,半夏瀉心湯の構成生薬成分がそれぞれ異なる作用点を介して総和的にPGE2産生を抑制し,口内炎を改善する可能性が示唆された.
  • 寺脇 潔, 大宮 雄司, 加瀬 義夫
    2015 年 146 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    がん悪液質は進行性がん患者の80%に発現し,筋肉組織の消耗による除脂肪量低下を伴う体重減少をきたす疾患であり,なかでも,食欲不振-悪液質症候群は,がん患者の生活の質(QOL)の著しい低下をきたす.本研究において,がん悪液質の病態生理や有益な治療薬を研究できる動物モデルの確立のために,ヒト胃がん細胞株MKN-45由来のMKN45clone85および85As2細胞株を用いて新規がん悪液質モデルラットの作製を試みた.これらの細胞株を皮下移植されたヌードラットは,体重減少,摂食量低下,筋肉量減少を伴う除脂肪量低下などの悪液質症状を呈した.85As2細胞移植ラットでは,より早期に重篤な悪液質症状を示し,臨床での診断基準を反映したことから,病態解析および有益な治療薬の評価に適したがん悪液質モデルとなる可能性が示唆された.本85As2移植悪液質モデルの病態解析により,炎症性サイトカインleukemia inhibitory factor(LIF)が悪液質誘発因子として関与している可能性が示された.本モデルでは,食欲増進ホルモンであるグレリン投与による摂食亢進作用の減弱が示され,グレリン抵抗性発現が示唆された.消化管障害や食欲不振に適応のある六君子湯は,85As2誘発がん悪液質モデルの悪液質発症後の摂食量低下を有意に改善し,体重減少を抑制し,グレリン投与への反応性低下を軽減した.また,グレリン受容体発現細胞への六君子湯添加は,グレリン刺激による細胞内シグナリングを増強した.以上,本研究において,ヒト胃がん細胞株由来85As2細胞株から,悪液質研究に有用となる新規がん悪液質モデルを確立し,本モデルに対する六君子湯の改善効果を明らかにした.六君子湯による本効果は,グレリンシグナリングの増強を介したがん悪液質モデルラットにおけるグレリン抵抗性の部分的な改善による可能性があり,臨床応用が期待される.
  • 森田 克也, 本山 直世, 北山 友也, 白石 成二, 土肥 敏博
    2015 年 146 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    がん患者にとって最も頻度の高い症状は痛みであり,がん性疼痛はどの病期にも発症するが,持続性の痛みが大半を占め,その痛みの30%は耐え難い痛みである.さらに痛みは患者を不安や恐怖に追い込み,その苦痛を増大させる.がん患者において痛みの克服は生活の質(QOL)の向上に重要な問題であり,最優先で対応すべき課題である.骨がん疼痛は,がん性疼痛のなかで最も深刻であり,既存の鎮痛薬が奏効しない.がん性疼痛の治療に有効な新規鎮痛薬の開発が望まれている.血小板活性化因子(PAF)阻害薬は,最近いくつかの神経障害性疼痛モデル動物において有効性が実証された.本研究は,マウス大腿骨がん(FBC)モデルを使用して骨がん疼痛に対するPAF阻害薬の鎮痛効果を検討した.PAF阻害薬はFBCマウスにおいて,極めて少量で疼痛緩和作用を示し,この効果はモルヒネと比較してはるかに長期間持続した.がん細胞移植後の疼痛発生の前にPAF受容体拮抗薬を投与し,引き続き反復投与することによって,疼痛の発生を抑制することができた.また,その効果に耐性を生じることはなかった.誘導型PAF合成酵素(LPCAT2)量は,腫瘍細胞の移植後のマウス脊髄で著しく増加していた.PAF阻害薬の鎮痛作用の機序に,少なくとも脊髄のPAF受容体阻害が含まれる可能性を示唆した.FBCマウスにおいて,PAF阻害薬とモルヒネとの併用は,モルヒネの疼痛緩和作用を著しく増強し,モルヒネの疼痛緩和作用をもたらす必要量を大幅に減少させた.PAF阻害薬とモルヒネとの併用は,モルヒネの投与量を軽減できることにより,モルヒネの便秘作用を軽減することができた.PAF阻害薬の反復投与により延命効果が認められた.がん性疼痛患者での予後の改善が期待される.以上の知見は,PAF阻害薬は単独あるいはオピオイドとの併用において,がん性疼痛の新たな治療戦略を提唱し,患者のQOLを改善し得ることを示唆している.
総説
  • 大植 香菜, 原田 佳枝, 兼松 隆
    2015 年 146 巻 2 号 p. 93-97
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    肥満,特に内臓脂肪型肥満は,糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症リスクを高め,病態の進展を助長する.肥満は,脂肪の蓄積と消費のバランスの崩れによって引き起される.よって,脂肪細胞における脂肪の蓄積や分解の分子基盤を明らかにすることは,複雑な生体のエネルギー代謝を理解する一助となる.21世紀に入ってこの調節メカニズムの解明研究が飛躍的に進んだ.その中で,白色脂肪細胞は余剰エネルギーの単なる貯蔵庫ではなく,アディポカインの産生などを介して身体の恒常性維持に多様な機能を発揮する重要な臓器だと分かった.褐色脂肪細胞は,ミトコンドリアにおける非ふるえ熱産生系を介してエネルギーを熱として放散させる体熱産生に特化した細胞である.最近,その活性制御と肥満との関係が重要だと分かってきた.さらに,白色脂肪組織の中に褐色脂肪細胞様の第3の脂肪細胞が報告された.これは,ベージュ脂肪細胞と呼ばれ,寒冷刺激などによって白色脂肪組織の中から分化(browning)してくる新たな体熱産生細胞として注目されている.交感神経系の活性化は,脂肪分解を促進し非ふるえ熱産生を増加させてエネルギー消費を昂進させる.すなわち肥満を抑制する方向に傾く.本稿では,交感神経活動(アドレナリンβ受容体)の活性化によっておこる脂肪分解の分子メカニズムを,我々が最近明らかにした脂肪分解を負に制御する分子を交えて紹介する.そして,その分子が褐色脂肪細胞における非ふるえ熱産生機構にどのように関わるかを概説する.
実験技術
  • 小坂田 文隆
    2015 年 146 巻 2 号 p. 98-105
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    脳は,ニューロンが多段階の階層構造をもつ複雑な生体情報処理システムである.この情報処理システムの中核を担うのは神経回路であり,神経回路の破綻は神経・精神疾患における様々な機能障害を引き起こす.我々は,狂犬病ウイルスの経シナプス感染能を利用した新規神経回路解析法を開発してきた.G欠損狂犬病ウイルスベクターは,①投射ニューロンを逆行性に標識できる,②特定のニューロンに入力する細胞群を標識できる,③神経接続と細胞形態との対応付けができる,④神経接続と回路機能との対応付けができることなどから,神経回路の構造と機能を解析する強力なツールとして急速に普及し始めている.本稿では,G欠損狂犬病ウイルスを用いた経シナプストレーシング法,ウイルス作製方法および哺乳類脳への適用方法を紹介する.
新薬紹介総説
  • 吉田 隆雄, 幸田 健一, 中尾 進太郎, 大山 行也
    2015 年 146 巻 2 号 p. 106-114
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/10
    ジャーナル フリー
    ニボルマブ(遺伝子組換え)[商品名:オプジーボ®点滴静注20 mg,100 mg,以下ニボルマブ]は,ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であり,「根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果として,2014年9月より世界に先駆けて日本で発売された新たな免疫チェックポイント阻害薬である.非臨床試験において,ニボルマブは,ヒトPD-1の細胞外領域に特異的に結合し,PD-1とPD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)との結合を阻害した.また,ニボルマブは抗原刺激によるヒトT細胞の増殖およびIFN-γ産生を増強し,悪性黒色腫患者T細胞を用いた悪性黒色腫抗原ペプチド再刺激系においては,腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞およびIFN-γ産生細胞を増加させ,ヒト悪性黒色腫細胞に対するCD8陽性T細胞の細胞傷害活性を増強した.さらに,ニボルマブは各種抗原を接種したサルの細胞性および液性免疫応答を増強し,抗マウスPD-1抗体4H2は,マウス同系担がんモデルにおいて腫瘍組織中の免疫関連遺伝子の発現量を増加させ,抗腫瘍効果を示した.このようにニボルマブは,PD-1とPD-1リガンドとの結合を阻害し,抗原特異的なT細胞の増殖,活性化およびがん細胞に対する細胞傷害活性を増強することで抗腫瘍効果を示すことから,悪性腫瘍に対する新たな治療薬になると考えた.臨床試験において,悪性黒色腫患者を対象とした国内第Ⅱ相試験にて有効性,安全性および忍容性が確認されたことから,ニボルマブは悪性黒色腫の有用な治療薬となりえることが示された.本試験結果を踏まえ,2013年12月に製造販売承認申請を行い,2014年7月にニボルマブは世界初の抗PD-1抗体として製造販売承認を取得した.現在,様々ながん腫に対するニボルマブの臨床試験が実施されており,今後ニボルマブが,がん治療の選択肢を広げるものと期待される.
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