日本薬理学雑誌
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146 巻 , 3 号
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漢方薬理学:漢方生薬に含有する植物由来生理学的機能物質(フィトケミカル)の薬理作用
  • 佐藤 廣康, 西田 清一郎
    2015 年 146 巻 3 号 p. 126-129
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    シノメニンは漢方生薬,防已の主要含有フィトケミカルである.シノメニンの主たる心循環作用は血管弛緩作用であり,血管内皮依存性と血管平滑筋への複雑な作用機序に起因している.木防已湯と防已含有シノメニン単独の血管弛緩作用を比較すると,シノメニンは老齢ラットに対して弛緩作用が減弱するが,木防已湯は老齢ラットでもその弛緩作用を保持した.したがって,木防已湯に含有する多数の生薬成分,含有フィトケミカルによる複雑な相互作用によって,木防已湯は薬理作用の加齢変化を受けにくくなっていると推測された.一方,シノメニンは心室筋膜イオンチャネルにも作用し,抗不整脈作用を示し,心筋保護作用を表すことが解明された.よって,木防已湯エキス剤によって循環器疾患を改善する可能性が示唆された.すでに漢方薬を用いた診療は広い領域に応用されており,そのエビデンスも少しずつ構築されつつあるが,循環器領域における漢方薬,木防已湯の臨床適用に関する研究の発展は,今後一層期待される.
  • 中瀬 朋夏, 髙橋 幸一
    2015 年 146 巻 3 号 p. 130-134
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    生薬・植物由来の化学物質フィトケミカルは,経験的に優れたがん抑制作用を持つことが知られていたが,近年,がん予防・治療に対するエビデンスが明らかにされてきた.なかでもセスキテルペノイド類については,日本で急激に増加している乳がんに対して,抗がん作用機序の解明や,ナノテクノロジーを用いたがん組織への送達技術の開発が進み,安全で有効性の高い乳がん治療戦略の開発が注目されている.欧米で関節炎や偏頭痛の治療に使われているフィーバーフューというナツシロ菊の葉や花から抽出された主成分であるパルテノライド(PLT)は,転写因子NFκBの作用を強力に阻害する結果,オートファジーを伴う細胞死を誘導し,抗がん作用を発揮する.近年,PLTはまた,選択的にがん幹細胞増殖抑制作用を持つ小分子化合物として初めて同定され,がん幹細胞の撲滅による新しい乳がん治療法に有用である可能性が明らかにされた.他のセスキテルペノイド類においても,構造中のendoperoxide bridgeと鉄イオンとの反応によりフリーラジカル産生能力を持つマラリア特効薬,アルテミシニンやその誘導体において,がん細胞選択的な細胞毒性作用を発揮する.さらに,アルテミシニン誘導体の機能を維持したまま,がん組織への集積性と細胞内送達効率を高めたpH感受性アルテミシニン誘導体を内包するナノ粒子製剤が開発され,乳がん担がんマウスにおいて,高い腫瘍形成抑制作用が示された.薬理学的研究から臨床応用へ向けた薬剤学的な観点を含めた多角的なフィトケミカルのがん研究によって,安全で有効な乳がん治療法の開発が期待される.
  • 小林 義典
    2015 年 146 巻 3 号 p. 135-139
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    呉茱萸は,ゴシュユEuodia ruticarpa(ミカン科)の未成熟果実で,本草的分類における性味は「辛熱」,冷え性や冷えに伴う痛みや吐き気に適用する漢方処方用薬である.一方,transient receptor potential vanilloid type 1(TRPV1)は熱や酸,辛味物質に対する侵害受容器である.漢方は体性感覚を重視し,表裏,寒熱,虚実,陰陽などによる八綱弁証,四気(寒涼温熱平)や五味(酸苦甘辛鹹)などの生薬の性味による分類など,味覚や皮膚感覚と関連が深い分類法があるが,その分類意義は充分に解明されていない.一方,TRPV1は熱や酸,辛味物質に対する侵害受容器である.本研究では,痛覚や辛味,43°C以上の侵害性の熱の受容に関連するイオンチャネル型受容体TRPV1に着目して研究を進めている.これまでの研究で,呉茱萸アルカロイドのエボジアミンは,非バニロイド化合物であるが,漢方用生薬中では最強のTRPV1活性化能を示し,呉茱萸配合漢方薬も明確な活性を示すことを見出した.エボジアミンはin vitroでは気管支拡張作用,強心作用,腸管収縮,血管弛緩作用等を,in vivoでは末梢循環改善や肥満防止,鎮痛作用等を示した.これらの作用と,呉茱萸配合漢方処方の薬能,適応について考察する.
  • 西田 清一郎, 土田 勝晴, 佐藤 廣康
    2015 年 146 巻 3 号 p. 140-143
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    ケルセチン(quercetin)は代表的なフラボノイドのひとつで,有益なフィトケミカルとして食品では玉葱やワインに,また多数の漢方生薬に含まれている.臨床上,抗動脈硬化作用,脳血管疾患の予防,抗腫瘍効果を発揮することが知られている.ケルセチンは強い血管弛緩作用を表し,多様な作用機序が解明されているが,まだ不明な点も多く,現在議論の余地が残っている.我々はケルセチンの血管緊張調節作用を研究してきたが,ラット大動脈の実験から血管内皮依存性弛緩作用,血管平滑筋に対する複数の作用機序(Ca2+チャネル阻害作用,Ca2+依存性Kチャネル活性作用,PK-C阻害作用等)を介して,血管弛緩作用を発揮していることを明らかにしてきた.また,ラット腸間膜動脈の実験から,ギャップジャンクションを介したEDHF(血管内皮由来過分極因子)による血管弛緩作用も示すことを解明した.本稿では,ケルセチンの血管弛緩作用機序の総括と今後の研究課題をまとめた.
実験技術
  • 岡村 信行, 原田 龍一, 工藤 幸司, 谷内 一彦
    2015 年 146 巻 3 号 p. 144-149
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    ミスフォールディングタンパク質の脳内蓄積は,血液脳関門透過性を有するβシート結合プローブを放射性標識し,これを生体に投与することによって計測可能である.PET(陽電子断層撮像法)を用いたアミロイドβタンパク質および微小管結合タンパク質(タウ)のin vivo計測法が近年実用化され,アルツハイマー病に代表される神経変性疾患の診断補助マーカーとして活用されている.またアルツハイマー病における中核的病理像の存在を直接的に反映するバイオマーカーとして,新規治療薬の概念実証や治療対象者の絞り込みにも利用される.アミロイドイメージングでは標準的なPETプローブである[11C]PiBのほか,デリバリー供給も可能な18F標識薬剤が複数実用化されている.近年のアミロイドPET研究では,認知機能の障害されていない高齢者でも高頻度にアミロイドβタンパク質の脳内蓄積が観察されている.プレクリニカル・アルツハイマー病と呼称されるこうした高齢者の一群は,認知症発症のハイリスク群とみなされ,予防的介入研究の対象とされている.一方,脳内に蓄積したタウを画像化する技術はまだ確立されていないが,複数の有力なPETプローブが開発され,その臨床応用報告が近年相次いでいる.タウPETプローブの脳内集積量は疾患重症度とよく相関し,神経変性との密接な関わりを持つ新たな画像バイオマーカーとして注目されている.本技術は疾患モデル動物を用いた小動物イメージングにも応用可能である.これまで死後にしか知り得なかった線維化タンパク質の脳内蓄積を経時的に追跡することで,病初期におけるミスフォールディングタンパク質の形成プロセスを明らかにし,また治療前後での変化をモニタリングすることが可能である.
新薬紹介総説
  • 高橋 禎介, 山本 浩二
    2015 年 146 巻 3 号 p. 150-158
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    ルセオグリフロジン水和物(以下ルセオグリフロジン,製品名:ルセフィ®錠)は,大正製薬株式会社において創製された新規のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2:sodium glucose cotransporter 2)阻害薬である.ルセオグリフロジンは,SGLT発現細胞を用いたin vitro試験においてSGLT2を介したNa依存的なグルコース取り込みを選択的かつ拮抗的に阻害した.糖尿病モデル動物を用いたin vivo試験では,ルセオグリフロジンは尿糖排泄を増加させてインスリン分泌に依存することなく血糖低下作用を示した.さらに,ルセオグリフロジンは糖尿病ラットへの反復経口投与により糖化ヘモグロビン値を低下させるとともに,インスリン抵抗性改善作用と膵β細胞減少に対する抑制作用を示したことから,2型糖尿病に対する有用性が期待された.日本人健康成人男性を対象にルセオグリフロジン1~25 mgを単回経口投与した結果,血漿中薬物濃度は用量依存的に増加し,消失半減期は9.23~13.8時間であった.また,用量の増加に応じた尿糖排泄作用が確認され,忍容性に問題はなかった.日本人2型糖尿病患者を対象とした第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験では,ルセオグリフロジンは1日1回2.5 mgの24週間投与によりプラセボに比べHbA1c変化量を有意に低下させた.さらに,第Ⅲ相単剤長期投与試験ならびに併用長期投与試験においても,ルセオグリフロジンは1日1回52週間投与により良好な血糖コントロールを示し,忍容性に問題は無かった.以上の非臨床および臨床試験成績から,ルセオグリフロジンは選択的かつ拮抗的にSGLT2を阻害することで血中の過剰なグルコースを尿中に排泄し,2型糖尿病における高血糖を是正することが明らかとなった.選択的SGLT2阻害薬であるルセオグリフロジンは,2型糖尿病の薬物治療において新たな選択肢となることが期待される.
  • 木下 潔, 岩佐 隆史, 高瀨 明子, 中村 圭介
    2015 年 146 巻 3 号 p. 159-170
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/10
    ジャーナル フリー
    バニプレビル(バニヘップ®カプセル150 mg)は,C型慢性肝炎治療薬として開発された大環状ペプチド構造の経口抗ウイルス薬である.本薬は,C型肝炎ウイルス(HCV)の非構造タンパク質3/4A(NS3/4A)プロテアーゼに可逆的に結合することにより,HCVタンパクのプロセッシングを阻害して抗HCV作用を発現する.レプリコン細胞株を用いたバニプレビルのin vitro阻害試験では,genotype 1aおよび1bのいずれに対してもnMレベル(EC90値)の阻害活性を示し,インターフェロンα-2b(IFN α-2b)との併用では相加作用を,リバビリン(RBV)との併用では相加から相乗作用を示した.日本人のHCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎感染患者を対象とした3つの第Ⅲ相臨床試験において,バニプレビル300 mg(1日2回,600 mg/日),ペグインターフェロンα-2b(PegIFN α-2b)およびRBVとの3剤併用投与により,治療終了後24週時の持続的ウイルス陰性化(SVR24)率は,初回治療例(未治療例)で84%~85%,前治療再燃例で92%~96%であり,前治療無効例でも62%に達した.また,いずれの臨床試験においても,バニプレビル・PegIFN α-2b・RBVの3剤併用投与での安全性および忍容性は概して良好であった.本薬は2014年1月に厚生労働省より優先審査品目に指定され,同年9月に「セログループ1[ジェノタイプⅠ(1a)又はⅡ(1b)]のC型慢性肝炎における血中HCV RNA量が高値の未治療患者,及びインターフェロン(IFN)を含む治療法で無効又は再燃となった患者」を対象に,PegIFN α-2bおよびRBVと併用する1日2回投与の治療薬として製造販売承認を得た.現在,C型肝炎の治療においてバニプレビル・PegIFN α-2b・RBVの3剤併用療法は,IFN-based therapyの第一選択の1つとされている.バニプレビルは,難治とされる前治療無効例においても優れた抗ウイルス効果を示しており,初回治療例や前治療再燃例を含めた治療歴にかかわらず高い有効性を示す薬剤と考えられ,C型慢性肝炎の治療に大きく貢献するものと期待される.
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