T-593は胃酸分泌抑制作用に加え,胃粘膜血流改善作用を有する新規抗潰瘍薬であるが,(−)-
S-体と(+)-
R-体のラセミ体である.今回,各光学異性体の胃酸分泌抑制作用,胃粘膜血流改善作用,抗潰瘍作用および静脈内投与毒性を調べ,T-593と比較した.1. 胃酸分泌抑制作用:(−)-
S-体とT-593のED
50値は各々3.8,6.2mg/kgであったが,(+)-
R-体は100mg/kgで作用を示さなかった.2. 胃粘膜血流改善作用:(+)-
R-体は0.03mg/kg/hrから,(−)-
S-体は3mg/kg/hrで改善作用を示した.3. 抗潰瘍作用:1) 急性胃十二指腸粘膜傷害:水浸拘束ストレス胃粘膜傷害とインドメタシン胃粘膜傷害では(−)-
S-体とT-593は有意な抑制作用を示し,ED
50値の比較では(−)-
S-体はT-593の約2倍の強さを示した.レセルピン胃粘膜傷害では(−)-
S-体は30mg/kg,T-593は10mg/kgで抑制作用を示した.メピリゾール十二指腸潰瘍では(−)-
S-体とT-593のED
50値は共に2.2mg/kgであった.一方,(+)-
R-体はこれらの急性胃十二指腸粘膜傷害モデルに対して殆ど作用を示さなかった.2) 慢性胃潰瘍治癒促進作用:T-593は30mg/kgで有意な促進作用を示したが,各光学異性体は作用を示さなかった.4. ラット静脈内投与毒性:各光学異性体のLD
50値は共に約100mg/kgであった.以上のことより,(−)-
S-体は胃酸分泌抑制作用を,(+)-
R-体は胃粘膜血流改善作用を示し,両作用を併せ持つT-593は抗潰瘍作用において,各光学異性体より優れた潰瘍治癒促進作用を示した.
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