日本薬理学雑誌
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127 巻, 4 号
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特集:唾液腺の機能と機能不全
  • 谷村 明彦, 東城 庸介
    2006 年 127 巻 4 号 p. 249-255
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    唾液腺は分泌顆粒を蓄えた腺房細胞と,唾液の輸送路を形成する導管細胞から構成される.腺房細胞の分泌顆粒はアミラーゼやムチンなどのタンパク質を含んでおり,これらを開口分泌によって腺腔内に放出する.唾液腺のタンパク質分泌は主にβアドレナリン受容体やVIP受容体の刺激を介したPKAの活性化によって調節されている.またムスカリン受容体刺激で起こるタンパク質分泌は主にPKCの活性化を介しており,この過程にCa2+はあまり関与しないと考えられている.さらに唾液腺ではイオンチャネルやトランスポーターの働きで水と電解質が分泌される.腺房部では血漿とよく似た電解質組成の原唾液が作られるが,導管細胞の働きでNaClが再吸収されて低張な唾液となって口腔内に分泌される.この水・電解質分泌は主にムスカリン受容体を介したIP3依存性のCa2+反応によって調節される.腺房細胞のムスカリン受容体を刺激すると,腺腔側から基底側へ広がるCa2+ウェーブが起こる.Ca2+オシレーションもしばしば起こるが,これは2秒程度の非常に短い周期で,しかも刺激が弱い場合にのみ観察される.さらに弱い刺激では,腺腔側に限局したCa2+パフ様の反応が観察される.このように腺房細胞の腺腔側でCa2+反応が起こりやすい理由の一つとして,腺腔側におけるIP3受容体の局在が考えられる.水・電解質分泌の過程では,まず腺腔側におけるCa2+反応によってCl-チャネルが開口し,さらにCa2+反応が基底側に達するとK+チャネルやNa+/K+/2Cl-共輸送体などが活性化する.この反応によって間質のCl-が腺房細胞を介して腺腔内へ移動し,その結果として生じるマイナス電位と浸透圧勾配を駆動力として,腺腔内にNa+と水が移動して原唾液が作られる.PKAはNa+/K+/2Cl-共輸送体やIP3受容体をリン酸化し,イオン輸送活性やCa2+反応の増強によって水・電解質分泌を亢進する.唾液分泌はこのようなcAMP系とCa2+系の協調した働きによって調節されている.
  • 広野 力
    2006 年 127 巻 4 号 p. 256-260
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    唾液腺の腺房部では輸送体とイオンチャネルを介したCl-輸送により血漿とほぼ等張のNaCl溶液が原唾液として腺腔に分泌され,続いて導管ではHCO3-とK+の分泌と,Na+とCl-の吸収が起こって唾液は低張となる.従来,イオン輸送体の特異的な阻害薬の使用で臓器・組織レベルの研究から輸送機構が推定されてきたが,パッチクランプ法とイメージングによる細胞内イオン濃度測定法の開発により細胞レベルでのCl-チャネル活性化の解析が可能となった.さらにパッチクランプの一種であるグラミシジン穿孔パッチ法によりCl-輸送体活性も含めた単一細胞の陰イオン分泌能力を直接測定できるようになり,臓器レベルの実験に基づいた輸送機構モデルは腺房の個々の細胞でも成り立っていることが証明された.導管細胞でもHCO3-分泌機構が細胞レベルで解明されつつある.また,腺房細胞では生化学的方法やイメージングによる細胞内イオン濃度測定法でCl-輸送体分子の調節機構の研究も進展しており,Ca2+・cAMPシグナルや細胞内Cl-濃度低下での活性化が解明されてきた.しかし,腺房細胞でのCa2+・cAMPシグナルと細胞内Cl-濃度によるイオンチャネル・輸送体の活性制御系,および導管細胞での両シグナルとHCO3-濃度(あるいはpH)によるイオンチャネル・炭酸脱水酵素・Na+-H+交換体の活性制御系は,各構成要素の相互関係が複雑なため解析が容易ではなく,より単純な系での機構解明が有効と思われる.導管でのHCO3-分泌に関与するCFTR Cl-チャネルに異常があるために発症する嚢胞性線維症では陰イオン輸送の異常により唾液腺を含む外分泌腺の機能不全等が起こる.唾液腺腺房細胞ではCa2+依存性Cl-チャネルが主にCl-放出(分泌)を担っているので,CFTRそれ自体は直接Cl-分泌に寄与せず他のチャネル活性を調節している可能性がある.
  • 松尾 龍二
    2006 年 127 巻 4 号 p. 261-266
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    唾液腺の活動は自律神経系が担っており,他の消化腺に見られるホルモンによる分泌の調節は知られていない.また副交感神経と交感神経の拮抗作用はなく,副交感神経は主に水分の分泌を調節し,交感神経は主にタンパク質成分の開口分泌に関与している.唾液腺の副交感神経と交感神経の一次中枢はそれぞれ延髄の外側網様体と胸髄の上部に位置している.これらの中枢は主に視床下部の支配下にあり,これに加えて口腔感覚の中継核や大脳辺縁系,大脳皮質が影響を及ぼすと考えられる.しかしこれらの上位の中枢は唾液腺に特有な中枢ではなく,摂食行動,体液浸透圧の調節,体温調節,咀嚼運動の調節,口腔感覚の情報処理などに関連した部位である.したがって唾液腺はこれらの調節機構や行動に必要な効果器の一つであると解釈される.ヒトでの唾液分泌は摂食行動との関連が深いが,実験動物(ラット)では体熱放散や毛づくろいでも唾液が分泌され,これらの機能は顎下腺が担っている.さまざまな唾液分泌の水分量とタンパク質量を比較することにより,その行動における自律神経系の役割を推察することができる.毛づくろいや体熱放散反応時には,副交感神経の活動が高い(20 Hz程度).一方,交感神経は摂食中に最も活動が高いが,体熱放散時の唾液分泌ではほとんど活動していない.この様な両自律神経系の協調性は視床下部の司令によると考えられる.また副交感神経の一次中枢(唾液核)では,全ての細胞が興奮性と抑制性のシナプス入力を受けており,それぞれ伝達物質はグルタメートとGABAまたはグリシンである.一次中枢には強力な抑制機序も存在することは明白であるが,分泌という一方向性の興奮性反応が注目されがちである.抑制系の中枢機序にも今後注目する必要がある.
  • 張 剛太, 中江 良子, 石川 康子
    2006 年 127 巻 4 号 p. 267-272
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    生活習慣病,老化,体液・電解質の代謝異常,薬物の副作用やシェーグレン症候群等の原因により口腔乾燥症が発症する.唾液成分の99%以上は水であり,唾液腺において水輸送は極めて重要である.水を大量に輸送する臓器では,水チャネル・アクアポリン(AQP)がその役割を果たしており,唾液腺にはAQP1,AQP3,AQP5,AQP8の存在が認められている.耳下腺のM3ムスカリン受容体やα1アドレナリン受容体が刺激を受容すると管腔膜側にてAQP5がラフトとともに細胞内移動することが,Triton X-100による可溶化実験やsucroseおよびOptiPrepによる浮揚実験さらには免疫組織化学を応用した共焦点顕微鏡や電子顕微鏡による可視化実験によっても認められた.そして,持続的唾液分泌促進薬・セビメリンはAQP5の管腔膜での持続的な増量を誘導した.本総説では,口腔乾燥症の発症機序をAQP5の細胞内移動との関連で解説するとともに,セビメリンのこの疾患に対する治療効果について病因別に概説する.
  • 渡辺 正人, 川口 充, 石川 康子
    2006 年 127 巻 4 号 p. 273-277
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者では口腔乾燥症を伴う場合が多く,唾液分泌の減少や唾液組成の変化から口腔内の環境が悪化し,他の口腔疾患を招きやすい.また,耳下腺肥大といった特有の所見が見られる場合もある.これらの変化はアロキサンやストレプトゾトシンによる実験糖尿病動物や遺伝性糖尿病動物でも観察され,さらにこれらの変化のメカニズムの解明の研究がなされてきている.その結果,糖尿病ストレス下では糖代謝異常に起因しての唾液腺における神経調節機構,各種受容体や細胞内シグナリング等の変化,さらに細胞構造そのものの変化によって,唾液分泌減少等の種々の現象が生じていることがわかってきている.また,インスリンの唾液分泌調節に対する直接作用も見出されており,唾液腺でのインスリン欠乏や感受性の低下も大きく影響しているだろうことが示唆されている.さらに,従来からいわれている多尿による全身脱水が唾液腺分泌減少の2次的な原因として関与している.糖尿病ストレス下でもたらされるこれらの現象を軽減するためには,まずは適切な診断と適切な血糖コントロールが必要となる.また,口腔乾燥症に一般的に用いられる人工唾液や漢方製剤の使用も糖尿病ストレスからくる唾液腺障害には有効と考えられる.
総説
  • 茂里 康, 島本 啓子
    2006 年 127 巻 4 号 p. 279-287
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    GABA(gamma-aminobutyric acid)は中枢神経系に高濃度存在する抑制性の神経伝達物質として,高次神経機能に密接に関与している.シナプス間隙に放出されたGABAはイオンチャネル型GABAA受容体,GTP結合タンパク質共役型GABAB受容体を活性化し,GABAA受容体自身のCl-チャネルの開口,GABAB受容体を介したプレシナプスの膜電位依存性Ca2+チャネルの開口阻害やポストシナプスの内向き整流性のK+チャネルの開口を通じて抑制性の神経伝達を行う.一方グリシンはGABAと同様に抑制性の神経伝達物質であり,ストリキニーネ感受性のグリシン受容体に結合することにより受容体の内部のCl-チャネルが開口し,抑制性の神経伝達を行う.さらにグリシンは,興奮性のグルタミン酸作動性ニューロンに神経伝達修飾物質として作用する.本作用はNMDA型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位にグリシンが結合し,グルタミン酸の結合を増強,アンタゴニストの結合を阻害,さらにNMDA受容体の脱感作を防ぐことにより発揮される.これらGABAおよびグリシンの再取り込みを行い,シナプス間隙での神経伝達物質の濃度維持,近傍シナプスへの神経伝達物質の流出阻止,生合成系への再補充,神経伝達機構の終了等の役割を果たしているのが,GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターである.GABAトランスポーターは4つのサブタイプ(GAT-1,BGT-1,GAT-2,GAT-3),グリシントランスポーターは2つのサブタイプ(GLYT1,GLYT2)がこれまでに知られている.GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターはいずれも12個の膜貫通部位を持つNa+/Cl-依存性トランスポーターであり,互いにそれぞれのファミリー間で約40%程度のホモロジーがある.両トランスポーターは基質1分子あたり2~3分子のNa+の流入,1~2分子のCl-の透過を起こす.またこれらとは別にLi+やK+を透過可能な陽イオン性およびCl-による陰イオン性のリーク電流の存在も報告されている.GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターはうつ病,睡眠障害,筋肉痙縮,痛み,てんかん等の神経疾患と深く関わっていることが知られている.特にGABAトランスポーターの阻害薬は抗痙攣薬として治療に用いられ,GLYT1の阻害薬は向知性薬の候補,GLYT2の阻害薬は筋肉弛緩薬,痙性やてんかん時の筋肉収縮を抑制する治療薬になる可能性が示唆されている.
実験技術
  • 木本 愛之
    2006 年 127 巻 4 号 p. 289-296
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    これまで,骨の解析にはDEXA法に代表される二次元的骨密度の測定が用いられてきたが,近年,マイクロCT(micro-computed tomography,μCT)および三次元骨梁形態計測ソフトウェアを用いた解析により,三次元的な骨梁の構造を非破壊的に解析することが可能となった.今回我々は,μCTを用いてアジュバント関節炎モデルにおける骨破壊像の解析を行うことで,これまであまり行われていなかった炎症性骨破壊の解析を試みるとともに,プロスタグランジンの産生酵素であり,破骨細胞分化に関与するシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する薬物の骨吸収・破壊に対する作用をアジュバント関節炎モデルで検討した.このモデルでは足根関節部の重篤な骨破壊が認められ,踵骨海綿骨領域の骨梁体積率(BV/TV),骨梁表面構造(TBPf)等の骨梁形態計測パラメータはいずれも悪化していた.この様な病態に対して選択的COX-2阻害薬セレコキシブは,いずれの骨形態パラメータも有意に改善したが,選択的COX-1阻害薬SC-58560は改善作用を示さなかった.以上より,アジュバント関節炎モデルの三次元骨梁解析を試みた結果,本モデルにおける骨梁構造として骨質の脆弱性が示され,また,本モデルの骨破壊においてCOX-2の関与が示され,選択的COX-2阻害薬は炎症性骨破壊に対して有用であることが示唆された.
  • 桑木 共之
    2006 年 127 巻 4 号 p. 297-303
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    呼吸器系・循環器系およびそれらを調節している自律神経系を研究対象として遺伝子改変マウスを利用できるようにするために,マウスで施行可能な様々な測定方法を開発してきた.それらの実施の際に考慮すべき点や筆者らの工夫を中心に解説する.呼吸器の機能測定方法としては,体プレチスモグラフィーまたは気流速度計による換気量の測定,肺コンプライアンスの測定,血液ガスの測定について解説する.循環器の機能測定方法としては,心エコー・心電図による心機能の測定,テレメトリー・埋込カテーテル・尾動脈圧非観血法・サーボヌル法による血圧・心拍数の測定について解説する.自律神経の機能測定方法としては,神経活動の直接記録法,間接評価法,呼吸化学反射および動脈圧受容器反射の評価方法について解説する.最後に今後の方向性として,安静時だけでなく状況に応じた神経性調節の動的修飾機構を研究する事の重要性について述べる.
治療薬シリーズ(2)慢性閉塞性肺疾患
  • 高山 喜好
    2006 年 127 巻 4 号 p. 304-307
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    COPDは末梢気道炎症,肺気腫または両者の併発により惹起される閉塞性換気障害をともなう疾患である.禁煙とともに,炎症状態の改善が原因療法となりうることが示唆され,慢性安定期の管理薬として,炎症をコントロールし病態の進行を止めるような医薬品が期待されている.近年,COPDの肺組織破壊に関わる分子機構が明らかにされ,プロテアーゼ阻害薬や細胞浸潤に関連する受容体拮抗薬などのあらたな分子標的薬の開発が進められている.また,病態解明や医薬品開発において重要なCOPDを再現できる小動物モデルが確立されつつある.今後の医薬品開発においては,短期的な肺機能の指標(FEV1:1秒量)に代わる,サロゲートバイオマーカー探索についての検討が必要といえる.本稿では,医薬品開発に有用なCOPDに関する基礎研究について紹介する.  慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)は末梢気道炎症,肺気腫または両者の併発により惹起される閉塞性換気障害を特徴とする疾患である.中高年以上に発症が多く見られ,非常に経過の長い,予後が悪い疾患である.最近確立した,COPDの国際的な治療指針GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では,“COPDは完全に可逆的ではない気流制限を特徴とする疾患である.この気流制限は進行性で,有害な粒子またはガス(喫煙,大気汚染など)に対する異常な炎症反応と関連している”と定義され,禁煙指導とともに,炎症状態の改善が原因療法となりうることを示している.近年,日本においてもCOPDへの関心が高まり,GOLD基準に基づいた本格的疫学調査が実施された(1).潜在的な患者数は530万人以上と推定された.そこから算出されるCOPDに対する医療費は年間8055億円になると試算された(2).加齢にともない発症率が増加することから,今後の超高齢化社会を考えると治療法の確立が急務であるといえる.  現状の薬物療法としてはCOPD患者の息切れ等の自覚症状を改善する目的で,気道拡張薬(抗コリン薬,β2受容体作動薬など)が広く臨床的に利用され,患者のQOL改善に効果を示している(詳細は308~311頁を参照).長時間作用型抗コリン薬(臭化チオトロピウム)による,COPD全般の進行抑制に関する市販後の長期臨床試験が開始されているものの,現時点ではこれらの薬物が持続的炎症反応を軽減し,特に肺気腫症状を改善する効果があるかについては明確にはなっていない.今後求められる治療薬としては,慢性安定期における管理薬であり,COPDの根底にある慢性炎症をコントロールし,病態の進行を止めるようなものが期待されている.EUROSCOPE(3),Copenhagen Study(4),ISOLDE(5),Lung Health Study(6)といった大規模臨床研究結果からは,抗炎症薬とし有効なステロイド薬(ブデソニド,フルチカゾン)の有用性について確認できず,その使用もCOPDの急性増悪期に限定されている.近年,COPDの肺組織破壊に関わるプロテアーゼや肺組織での炎症を増悪する分子機構が明らかにされたり,COPD病態における網羅的な遺伝子発現プロファイリングが行われている(7,8).これらの情報を基に,プロテアーゼ阻害薬や細胞浸潤に関連する受容体拮抗薬などのあらたな分子標的薬をCOPDへ適応すべく開発が進められている.ここでは,医薬品開発に有用なCOPDに関する基礎研究について紹介する.
  • 前野 敏孝
    2006 年 127 巻 4 号 p. 308-311
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/01
    ジャーナル フリー
    慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく,進行性の気流制限を呈する疾患である.危険因子としては喫煙が最も重要であるが,患者側の要因も重要である.病因としては,プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡仮説,オキシダント・アンチオキシダント不均衡仮説が有力である.治療は患者の重症度に合わせて,禁煙指導・薬物療法・栄養療法・呼吸リハビリテーションなどが包括的に行われている.薬物療法では,β2刺激薬・抗コリン薬・メチルキサンチンといった気管支拡張薬が主体であり,症状を軽減させ,QOLや運動耐容能を改善させるという効果からも重要である.今後の治療としては,気道や肺胞の炎症および肺胞壁の破壊を抑制するような,つまりプロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡やオキシダント・アンチオキシダント不均衡を是正する新規薬剤の出現が期待される.  慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,以下COPD)は,有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を呈する疾患と定義されている.COPDの臨床像は図1のように理解されており,主として肺胞系の破壊が進行して気腫優位型になるものと,中枢気道病変が進行し気道病変優位型になるものがある.  アメリカではCOPDの患者数は1600万人以上であり,死亡原因の4位となっている.日本においても,近年行われたNICE study(Nippon COPD Epidemiology Stucy)によると,40歳以上の男性のCOPD有病率は16.4%,40歳以上の女性では5.0%,全体で8.6%と欧米同様に高い有病率である(1).発展途上国では,喫煙率の増加によりCOPD患者数はさらに増加してくるものと考えられる.  COPDの危険因子として,まず喫煙・大気汚染・アデノウイルスの潜伏感染などの外因性のものが挙げられる.喫煙は最も重要な外因性危険因子であるが,COPDを発症するのは喫煙者の15~20%であることから,患者側の要因つまりCOPD発症感受性遺伝子の検討も重要である.
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