唾液腺の腺房部では輸送体とイオンチャネルを介したCl
-輸送により血漿とほぼ等張のNaCl溶液が原唾液として腺腔に分泌され,続いて導管ではHCO
3-とK
+の分泌と,Na
+とCl
-の吸収が起こって唾液は低張となる.従来,イオン輸送体の特異的な阻害薬の使用で臓器・組織レベルの研究から輸送機構が推定されてきたが,パッチクランプ法とイメージングによる細胞内イオン濃度測定法の開発により細胞レベルでのCl
-チャネル活性化の解析が可能となった.さらにパッチクランプの一種であるグラミシジン穿孔パッチ法によりCl
-輸送体活性も含めた単一細胞の陰イオン分泌能力を直接測定できるようになり,臓器レベルの実験に基づいた輸送機構モデルは腺房の個々の細胞でも成り立っていることが証明された.導管細胞でもHCO
3-分泌機構が細胞レベルで解明されつつある.また,腺房細胞では生化学的方法やイメージングによる細胞内イオン濃度測定法でCl
-輸送体分子の調節機構の研究も進展しており,Ca
2+・cAMPシグナルや細胞内Cl
-濃度低下での活性化が解明されてきた.しかし,腺房細胞でのCa
2+・cAMPシグナルと細胞内Cl
-濃度によるイオンチャネル・輸送体の活性制御系,および導管細胞での両シグナルとHCO
3-濃度(あるいはpH)によるイオンチャネル・炭酸脱水酵素・Na
+-H
+交換体の活性制御系は,各構成要素の相互関係が複雑なため解析が容易ではなく,より単純な系での機構解明が有効と思われる.導管でのHCO
3-分泌に関与するCFTR Cl
-チャネルに異常があるために発症する嚢胞性線維症では陰イオン輸送の異常により唾液腺を含む外分泌腺の機能不全等が起こる.唾液腺腺房細胞ではCa
2+依存性Cl
-チャネルが主にCl
-放出(分泌)を担っているので,CFTRそれ自体は直接Cl
-分泌に寄与せず他のチャネル活性を調節している可能性がある.
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