日本薬理学雑誌
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146 巻 , 5 号
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疾患バイオマーカー研究の新展開
  • 越川 直彦
    2015 年 146 巻 5 号 p. 248-251
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    膀胱がんは簡便な診断法がないことから,多くの場合,治癒困難な進行がんとして発見される.そのため,経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of the bladder tumor:TUR-Bt)による内視鏡的治療を行った患者のおよそ8割が2年以内に再発する.治療後,侵襲的な膀胱鏡を用いる検査を3ヵ月ごとに行う必要がある.膀胱がんの平均発症年齢は70を越えており,患者の大部分を占める高齢者にとって膀胱鏡検査はとても苦痛な検査となっている.我々は基底膜を構成する細胞外マトリックスであるラミニン332(旧名:ラミニン5)の構成鎖であるラミニンγ2鎖が単鎖で悪性がんの浸潤先進部で発現亢進していることを見出した.現在までに,ラミニンγ2単鎖(γ2単鎖)は浸潤がんのバイオマーカーとして考えられている.最近,我々は,①γ2単鎖が膀胱がん組織で発現亢進していること,②筋層非浸潤性膀胱がん(none muscle invasive bladder cancer:NMIBC)を含む表在性膀胱がん患者尿中にγ2単鎖が存在することを見出し,さらに,③尿中のγ2単鎖を定量するためのELISA測定系を確立した.本稿では,尿中のγ2単鎖がNMIBCを診断するための有効なバイオマーカーの候補である可能性について報告する.
  • 杉浦 一充
    2015 年 146 巻 5 号 p. 252-255
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    汎発性膿疱性乾癬は指定難病である.急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し,無菌性膿疱が多発する.ときに内臓病変を合併し,治療に難渋し死に至ることもある.誘発因子は上気道感染,抗生剤などの薬剤,妊娠などである.従来,汎発性膿疱性乾癬の病因は不明であったが,近年著者らにより,「尋常性乾癬を伴わない汎発性膿疱性乾癬は大半がIL36RN遺伝子変異によるIL-36RN機能欠損を背景とした疾患である」ことが,また,基本的には常染色体劣性遺伝型式を背景とするが,ときにはヘテロ接合体変異を背景としても発症することが解明された.2015年度から難病の特定疾患調査表にも,IL36RN遺伝子変異解析結果を記載する欄が新たに設けられた.汎発性膿疱性乾癬の類縁疾患で,妊婦に発症する重症の膿疱症である,疱疹状膿痂疹の大半の症例でもIL36RN遺伝子変異が関連する可能性がある.同様に汎発性膿疱性乾癬との鑑別が時に困難である,重症薬疹の1つの病型である急性汎発性発疹性膿疱症の一部の症例にもIL36RN遺伝子変異があることもわかってきた.IL36RN遺伝子ヘテロ接合体変異は日本人の2%弱が保有していることから,IL36RN遺伝子変異の関連する膿疱症は実際にはかなりの多症例数であることが予測される.汎発性膿疱性乾癬のみならず,疱疹状膿痂疹や急性汎発性発疹性膿疱症などの全身性の膿疱症では早期診断早期治療介入,あるいは病因検索と誘発因子回避の指導のために,IL36RN遺伝子変異解析を実施すべきである.IL-36RN欠損症による膿疱症の治療標的はIL-36受容体ならびにそのアゴニストであるIL-36α,IL-36βおよびIL-36γであることは明白なので,今後の根本的治療薬の開発が大いに期待されている.
  • 細見 直永
    2015 年 146 巻 5 号 p. 256-258
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    心原性脳塞栓症は,心腔内の血栓あるいは心内を経由した血栓(塞栓子)が脳血管を閉塞して生じる脳梗塞であり,心房細動,急性期心筋梗塞・慢性期心筋梗塞に伴う心室瘤,僧房弁狭窄症,拡張型・肥大型心筋症などによる心腔内血栓による脳塞栓症や,下肢深部静脈血栓から遊離した血栓が卵円孔開存や肺動静脈瘻などによる右左シャントを介し動脈循環系に流入した奇異性脳塞栓症を含む.また,心原性脳塞栓症の急性期から慢性期にかけての再発率が高いこと(発症後2週間以内の再発:約5%,1年以内の再発率:約40%)が知られており,これを有効に予防する抗凝固療法を行ううえにおいてもより早期に病型診断を行う必要がある.心原性脳塞栓症の病型診断には,塞栓源となりうる心疾患の証明が必要であり,心電図,経胸壁心エコー,経食道心エコーなどにより精査を行うこととなる.しかしながら,12誘導心電図のみでは発作性心房細動の検出率が低いことが報告されている.また,虚血性心筋症を合併した脳梗塞の場合,壁運動低下に伴う塞栓症と動脈硬化の進行に伴う血栓症の双方の可能性があり,鑑別が困難となる場合がある.塞栓源となる心疾患の確定的な検出には時間がかかり,またその判断が困難であることも多いため,より早期から有効な抗凝固療法を始めるための病型診断には,これを補う補助診断法が必要である.心原性脳塞栓症の補助診断に利用可能な新しいバイオマーカーとして,我々が検討を行った血漿brain natriuretic peptide(BNP)値の活用について報告する.
  • 神沼 修, 後藤 穣, 中谷 明弘, 大久保 公裕, 廣井 隆親
    2015 年 146 巻 5 号 p. 259-262
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    アレルゲン免疫療法は,アレルギー患者の根治も望める有望な治療法であるが,効果を発揮するのに数年間を要する場合がある.従って,その治療効果が望めない患者を治療初期に判別できれば,無駄な治療を長年施さずに済む.我々は,それを可能にするバイオマーカーを探索するため,スギ花粉症を対象とした舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)の臨床研究を実施した.2年間の治療により,73%の患者に効果がみられたのに対し,27%の患者には完全に無効であった.そこで,著効群および無効群患者を抽出し,治療経過に伴う血清パラメータの変動を網羅的に解析したところ,著効群/無効群間で明らかな相違がみられるものは見いだされなかった.しかしながら,それら複数のパラメータをアンサンブル学習で統合的に解析したところ,15種類のサイトカイン測定データを利用すれば,著効群/無効群を高精度で判別できることが明らかとなった.今後,この解析手法にさらに改良を加え,SLITを実施する前に,その治療効果を予測できる検査法の開発に結びつけてゆきたい.
受賞講演総説
  • 周 至文, 羅 聡, 小山 隆太
    2015 年 146 巻 5 号 p. 263-267
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    胎生期および小児期は神経回路形成における重要な時期である.この時期における各種のストレスは,ストレスホルモンや炎症因子,そして神経細胞活動の異常などを介して,神経細胞の遺伝子発現や神経回路の形成に異常をもたらし,さまざまな脳疾患に罹患するリスクを上昇させると推察される.本総説では,胎生期および小児期におけるストレスと将来の精神神経疾患発症との関係性について,我々の研究成果を交えながら紹介する.特に,各疾患のモデル動物を用いた研究によって発見された神経生物学的メカニズムに着目しながら議論する.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(25)
  • 児玉 耕太, 荒戸 照世
    2015 年 146 巻 5 号 p. 268-274
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    我が国のライフサイエンス分野の基礎研究成果は国際的にも高い評価を受けているが,実用化に結び付いているとは言えない状況にある.そこで,企業のみならずアカデミアにおける基礎研究シーズの発掘・育成や臨床POC(Proof of Concept)の取得に期待が高まり,医療イノベーションを推進するための種々の施策が講じられてきた.こうした流れを受けて,北海道大学でも創薬に向けてマネジメント体制が構築され,製造販売承認を取得した製品が出始めるとともに,産学連携等も含めた創薬関連大型プロジェクト・研究センターの動きが活発になっている.また,次世代の創薬を担う人材育成のための教育プログラムも充実してきている.本稿では,北海道大学におけるこうした取り組みについて紹介する.
新薬紹介総説
  • 松川 純, 稲富 信博, 大竹 一嘉
    2015 年 146 巻 5 号 p. 275-282
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    ボノプラザンフマル酸塩(TAK-438,以後ボノプラザン)は胃潰瘍,十二指腸潰瘍,逆流性食道炎,低用量アスピリンあるいは非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制およびH. pyloriの除菌補助の効能効果で承認された新規胃酸分泌抑制薬である.カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とも呼ばれる新たな作用機序を有するボノプラザンは,胃のH, K-ATPaseを従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)とは全く異なる様式で阻害する.ボノプラザンは酸に安定で胃壁細胞に高濃度集積し,消失が遅いことから従来のPPIよりも作用持続が長く,またPPIとは異なり酸による活性化を必要としないことから胃内pHを高く上昇させることができる.PPIで問題となっている薬物におけるCYP2C19遺伝多型の影響をほとんど受けないことから,効果のばらつきも小さく,PPIよりも有用性が高い治療薬としての可能性が示唆された.ボノプラザンの強力な酸分泌抑制効果,その効果発現の早さ,効果の持続の長さは臨床試験でも示され,逆流性食道炎などの酸関連疾患の治療やH. pylori除菌補助において優れた有効性・安全性が確認された.ボノプラザンは酸関連疾患などの治療におけるunmet medical needsに応えることのできる新たな選択肢として期待される.
  • 鶴岡 明彦, 松井 順二, 鈴木 拓也, 小山 則行, 渡辺 達夫, 船橋 泰博
    2015 年 146 巻 5 号 p. 283-290
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/11
    ジャーナル フリー
    レンバチニブメシル酸塩は,経口投与可能な受容体チロシンキナーゼ阻害薬であり,腫瘍の血管新生に関わる血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1~3,線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1~4およびRearranged During Transfectionがん原遺伝子(RET)のチロシンキナーゼ活性を阻害する.In vitro血管新生モデルではVEGFおよびFGF誘導の血管新生を阻害し,様々なヒトがん細胞を移植したマウスモデルにおいて投与量依存的な抗腫瘍効果を示した.特にFGFRやRETに遺伝子変異を有する甲状腺がん細胞に対して強い抗腫瘍効果が認められたことから,レンバチニブは,VEGFR,FGFRによる血管新生と,FGFR,RETによるがん細胞の異常増殖の両方を阻害することで,強い抗腫瘍効果を発揮することが示唆された.臨床第Ⅰ相試験では甲状腺がん,子宮内膜がん,メラノーマ,腎細胞がん,軟部肉腫,結腸がん,卵巣がん,膵臓がんにおいて腫瘍縮小効果が認められ,主な毒性は高血圧,タンパク尿,疲労であった.放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性の甲状腺分化がん(RR-DTC)および,甲状腺髄様がん(MTC)を対象とした第Ⅱ相試験において高い有効性が確認され,奏効率はそれぞれ50%,36%であった.この結果を受け,RR-DTC患者を対象にした第Ⅲ相試験(SELECT試験)が日本を含む21ヵ国で実施され,主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は,プラセボ群の3.6ヵ月に対しレンバチニブ群で18.3ヵ月であり,有意なPFS延長が証明された.さらに本邦で実施された第Ⅱ相試験では,RR-DTCとMTCに加え,難治性で予後不良の甲状腺未分化がんに対してもレンバチニブの有効性が確認されている.その結果本年3月に,本邦にて「根治切除不能な甲状腺癌」を適応症として承認された.現在,肝がん,腎がん,肺がんを対象にした試験も進行中であり,治療薬の限られたがん患者に希望をもたらす新薬になると期待される.
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