日本薬理学雑誌
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152 巻 , 6 号
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特集:てんかん研究の最前線―新たな治療薬を求めて―
  • 小泉 修一, 佐野 史和
    2018 年 152 巻 6 号 p. 268-274
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    てんかんは最も頻度が高い中枢神経疾患の一つである.複数の作用メカニズムの異なる抗てんかん薬が既に存在するおかげで,てんかんの多くはコントロール可能である.しかし,てんかんの約30%は既存薬が奏功しないいわゆる難治性てんかんである.抗てんかん薬は大きく分けると,神経細胞の興奮性を抑制するもの,及び抑制性を亢進するものに分類できる.興奮性神経の抑制は,Na等各種イオンチャネル阻害薬,グルタミン酸放出阻害及びグルタミン酸AMPA受容体をする薬剤,一方抑制性神経の亢進はGABAA受容体を亢進させる薬剤である.いずれも,神経細胞を標的としたものである.最近の脳科学の進歩により,グリア細胞が脳機能,神経細胞の興奮性に果たす役割の重要性が明らかにされつつある.グリア細胞は,自身は電気的に非興奮性細胞であるが,細胞外の神経伝達物質,グリア伝達物質,イオン濃度の調節,エネルギー代謝調節,さらにシナプス新生及び除去により,神経細胞の興奮性を積極的に調節している.従って,グリア細胞の機能が変化すると,これらの調節機能も変化し,ひいては神経細胞の興奮性も大きく変化する.てんかん原性とは,脳が自発的なてんかん発作を起こし易い状態になることであり,上述したグリア細胞の機能が変調することが,このてんかん原性獲得と大きく関係していることが示唆されている.本稿は,グリア細胞の中でも特にアストロサイトに注目し,てんかん発作により反応性アストロサイトの表現型に変化した際の機能変調とてんかん原性との関連性を述べ,グリア細胞を標的とした抗てんかん薬開発の可能性について述べる.

  • 徳留 健太郎, 清水 佐紀, 芹川 忠夫, 大野 行弘
    2018 年 152 巻 6 号 p. 275-280
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    てんかんは反復性の発作を主症状とする慢性の神経疾患であり,その罹患率は人口の1%にのぼる.近年,新たなてんかん治療の標的分子としてシナプス小胞タンパク質SV2A(synaptic vesicle protein 2A)が注目されている.SV2Aは神経伝達物質の活動電位依存性シナプス分泌を促進的に調節する機能がある.これまでの報告において,①Sv2a遺伝子をノックアウトした動物が重度のけいれん発作を発症すること,②SV2Aが抗てんかん薬レベチラセタムの脳内作用点であること,③SV2Aの脳内発現がさまざまなてんかん病態において変化することなどが示されている.さらに,ヒト(小児)においても,SV2A遺伝子の変異が難治性のけいれん発作,不随意運動障害,および発達遅滞を引き起こすことが示され,SV2Aがてんかん発症に関与する原因遺伝子であることが確認された.我々は最近,Sv2a遺伝子にLeu174Glnミスセンス変異を持つ新たなラットモデル(Sv2aL174Qラット)を作出し,てんかん原性の獲得調節におけるSV2Aの機能を解析してきた.その結果,Sv2aL174Qラットにおいては,てんかん原性の指標とされるキンドリング現象の獲得が加速・増強され,海馬や扁桃核における脱分極性GABA分泌が著しく低下することが明らかとなった.一方,グルタミン酸のシナプス分泌はSv2aL174Q変異によって影響を受けなかった.これらの結果は,SV2Aが大脳辺縁系のGABAシナプス分泌を調節することにより,てんかん原性の獲得を制御していることを示唆している.今後,SV2A-GABA系を特異的に促進する薬物を開発することによって,ヒト難治性てんかんの発症と進展を抑制できる新たな治療薬が開発できる可能性が期待される.

  • 石田 紗恵子
    2018 年 152 巻 6 号 p. 281-285
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    てんかんは,反復性の発作を特徴とする頻度の高い神経疾患の一つである.多くの場合,患者は抗てんかん薬の服用が長期間必要となる.しかしながら,患者の約30%は,抗てんかん薬の効かない難治性を示す.そのため,より効果的な新しい治療法の開発が急務となっている.焦点性てんかんは,神経の異常興奮が特定の脳部位に限局して発生し,その脳部位が司る機能に依存して様々な症状を示すてんかんであり,成人てんかんの約60%を占める.DEPDC5は,複数の焦点性てんかんに共通する原因遺伝子として同定された.これまで報告されている原因遺伝子の多くは,イオンチャネル関連遺伝子もしくは神経伝達物質受容体のサブユニットであるが,DEPDC5はそれらのどちらにも属しない.これまでの研究から,DEPDC5は,同じく焦点性てんかん原因遺伝子として同定されたNPRL2およびNPRL3とGATOR1複合体を形成し,細胞成長や増殖を制御するmTORC1経路を抑制することがわかっている.また,近年の動物モデルを用いた研究成果から,DEPDC5の神経系における機能の解明が進んでいる.DEPDC5は現在,焦点性てんかんにおいて,もっとも寄与度の高い原因遺伝子であり,かつ,既知の原因遺伝子とは異なる新たな原因遺伝子であることから,DEPDC5が様々なてんかん発症を理解する鍵となり,その機能解明が新しい治療法の開発に繋がることが期待されている.

特集:恒常性維持機構の破綻としての中枢疾患とその新たな治療戦略
  • 佐藤 薫
    2018 年 152 巻 6 号 p. 287-294
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    中枢神経系(central nervous system:CNS)の血管は血液と脳実質間の物質交換を血液脳関門(blood brain barrier:BBB)により制限している.現状,新薬候補化合物の脳内移行性を検討するための信頼性の高いin vitro BBBモデルは存在せず,中枢神経医薬品上市の低確率,中枢性副作用予測の困難さの一要因となっている.本レビューでは,まずBBBの構造と機能,汎用されるBBB機能定量パラメーターについて概説する.そして,新薬開発過程でこれまで使われてきたin vitro BBBモデルの歴史を紐解き,非細胞系モデルPAMPAから初代培養齧歯類細胞,畜産動物細胞,株化細胞,等の細胞系モデルへの推移を紹介する.また,ヒト予測性を向上させるためのヒト細胞適用の試みや,マイクロ流体モデルに代表される工学的アプローチなど,in vitro BBBモデルの最新開発動向についても紹介する.脳の恒常性維持に欠かせない強固なBBBをin vitroで再現することは,BBB形成メカニズムを解明することでもある.これらの新知見,それに基づいて開発される新しいin vitro BBBモデルは,中枢神経系の薬物動態予測,ドラッグデザイン,さらには,毒性・安全性評価を大きく進展させ,新薬成功確立の向上に貢献することが期待される.

  • 疋田 貴俊
    2018 年 152 巻 6 号 p. 295-298
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    まわりの環境に応じて柔軟に行動する恒常性維持機構は,我々の認知行動の基盤となっており,薬物依存症や統合失調症といった精神疾患で障害されている.この行動柔軟性に関与する神経基盤を大脳基底核神経回路に着目し解析した.大脳基底核神経回路の直接路と間接路のそれぞれの神経伝達を可逆的神経伝達阻止法で遮断し,インテリケージ場所識別課題における連続逆転課題を行った.場所識別学習獲得には直接路遮断と間接路遮断はともに影響を与えなかったが,逆転課題において間接路遮断により学習遅延と前課題への固執エラーの増加を認めた.ドパミンD2L受容体のノックアウトマウスも同様の行動柔軟性の欠如を示した.これらから,行動の恒常性維持機構に大脳基底核神経回路とドパミン受容体シグナルが関与していることが明らかになった.今後,精神疾患病態において大脳基底核神経回路機構を考慮に置いた解析が必要となると考えられる.

  • 森口 茂樹, 喜多 紗斗美, 岩本 隆宏, 福永 浩司
    2018 年 152 巻 6 号 p. 299-305
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    Na/Ca2+交換輸送体(NCXs)は神経細胞の形質膜に主に発現しており,細胞内外のNaとCa2+の電気化学的勾配を介して1Naと3Ca2+の交換輸送により細胞内Ca2+恒常性の制御を担う.NCXsには,3種類のアイソフォーム(NCX1,NCX2,NCX3)が脳への発現が確認されており,著者らは,アルツハイマー病(AD)モデルマウスにおいてNCXsの有意な発現量の低下を海馬(NCX2およびNCX3)ならびに大脳皮質(NCX3)において明らかにした.一方,著者らはNCXsヘテロ型欠損マウスを用いて認知機能障害に関する行動解析を行った結果,興味深いことにNCX2およびNCX3欠損マウスにおいて有意な認知機能障害を惹起していることを確認した.さらに,NCX2およびNCX3欠損マウスの海馬において長期増強現象(long-term potentiation:LTP)の減弱ならびに記憶分子であるカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼⅡ(CaMKII)の活性異常(NCX2欠損マウスではCaMKIIの活性低下,NCX3欠損マウスではCaMKIIの活性亢進)を確認した.一方,NCX2欠損マウスのLTPの減弱は,カルシウム/カルモデュリン依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリン(CaN)の阻害薬(FK506)の灌流適応により有意に改善し,さらに,NCX2欠損マウスの海馬では有意なCaNの活性亢進を確認した.一方,ADモデルマウスの海馬においても有意なCaNの活性亢進を確認した.本研究結果は,ADモデルマウスの海馬におけるNCX2およびNCX3の発現量低下による細胞内におけるCa2+恒常性制御異常が認知機能障害を惹起する可能性を示唆しており,これらNCXsのCa2+恒常性制御がAD患者における認知機能障害の新しい治療標的となる可能性が示された.

新薬紹介総説
  • 原田 拓真, 猪島 綾子
    2018 年 152 巻 6 号 p. 306-318
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/08
    ジャーナル フリー

    パルボシクリブは世界で最初のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4および6阻害薬であり,CDK4または6とサイクリンDから成る複合体の活性を阻害することで細胞周期の進行を停止させ,腫瘍の増殖を抑制すると考えられる.非臨床モデルを用いた検討でパルボシクリブに感受性を示す細胞株の多くがエストロゲン受容体(ER)陽性であることが確認され,パルボシクリブが抗腫瘍効果を示すには網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)の発現が必要であることが確認された.また,ER陽性ヒト乳がん細胞株を用いた試験から,抗エストロゲン薬との併用投与による抗腫瘍作用の増強が確認された.これらの非臨床試験データに基づき,ホルモン受容体陽性・ヒト上皮増殖因子受容体2陰性(HR+/HER2-)の進行・再発乳がんに対し抗エストロゲン薬との併用を行う臨床試験を行った.進行乳がんに対する全身抗がん療法歴のないER+/HER2-の閉経後進行乳がん女性患者を対象としてパルボシクリブ+レトロゾール併用投与の効果をレトロゾール単独投与と比較したPALOMA-2試験では,パルボシクリブ併用投与群で主要評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の有意な延長が認められた.抗エストロゲン薬を用いた内分泌療法に抵抗性を示したHR+/HER2-の進行乳がん女性患者を対象とし,パルボシクリブ+フルベストラント併用投与の効果をフルベストラント単独投与と比較したPALOMA-3試験では,中間解析において主要評価項目であるPFSに統計学的に有意な延長が認められたため,試験は有効中止となった.また,これらいずれの試験でも,パルボシクリブ投与群において有害事象による減量または休薬の割合は高かったものの,投与中止の割合はプラセボ投与群と大きく変わるものではなかった.

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