日本薬理学雑誌
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122 巻, 2 号
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受賞者講演
  • 高井 真司
    原稿種別: 受賞者講演
    2003 年 122 巻 2 号 p. 111-120
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/07/22
    ジャーナル フリー
    ヒト,サルおよびイヌの血管組織において,アンジオテンシンIIは,アンジオテンシン変換酵素(ACE)に加えてキモスタチンに感受性を持つ酵素(CAGE)により産生されることが知られていた.筆者らは,このCAGEを精製し,酵素学的特徴を明らかにすることにより,CAGEをキマーゼと同定した.正常の血管組織に存在するキマーゼは,肥満細胞顆粒中に酵素活性を持たない状態,つまり,アンジオテンシンII産生能力を持たない状態で貯蔵されている.しかし,バルーンカテーテルによる傷害やグラフトされた血管組織では,肥満細胞からキマーゼが放出され,アンジオテンシンIIを産生する酵素として機能する.臨床試験において,経皮的冠動脈形成術後の再狭窄予防がACE阻害薬では無効であったが,アンジオテンシンIIタイプ1(AT1)受容体拮抗薬では有効であった.イヌのバルーン傷害モデルにおいても臨床試験同様に,傷害後の内膜肥厚予防は,ACE阻害薬では無効で,AT1受容体拮抗薬では有効であった.そして,この内膜肥厚抑制効果は,キマーゼ阻害薬でも確認された.イヌ静脈グラフトモデルにおいては,グラフトした静脈の内膜面積,組織アンジオテンシンII濃度,細胞外マトリックスの遺伝子発現が増加したが,キマーゼ阻害薬は,これらすべてを顕著に抑制した.また,キマーゼ阻害薬によるグラフト血管の狭窄予防効果は,長期間にわたり有効であった.したがって,グラフト血管のキマーゼ活性の抑制は,長期にわたるグラフト狭窄予防に有効であると考える.一方,キマーゼ阻害薬は,ACE阻害薬やAT1受容体拮抗薬とは異なり,傷害された血管局所で活性化されたキマーゼのみを抑制するため,アンジオテンシンII産生を抑制するにも関わらず,降圧などの全身性の作用が少ない.このように,キマーゼ阻害薬は,傷害された血管で亢進する局所アンジオテンシンII産生のみを抑制する新たな血管保護薬として期待されている.
テーシス
  • 野地 徹, 唐沢 啓, 日下 英昭
    原稿種別: テーシス
    2003 年 122 巻 2 号 p. 121-134
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/07/22
    ジャーナル フリー
    アデノシンが抗炎症作用を有するとの知見が集積しつつあるが,全身性副作用のためアデノシン自体の臨床応用は限定されている.アデノシン取り込み阻害薬は全身性副作用を発現することなく炎症局所でアデノシン濃度を上昇させ,抗炎症作用を発現する可能性が考えられる.そこで炎症に対するアデノシン取り込み阻害薬の有効性を検証することを目的として,新規アデノシン取り込み阻害薬KF24345のin vivo活性を検討し,糸球体腎炎および急性膵炎に対するKF24345の作用を解析した.KF24345は,既存のアデノシン取り込み阻害薬と比較して,マウスに経口投与後強力かつ長時間持続するアデノシン取り込み阻害作用を発現した.KF24345はリポポリサッカライドで誘発されるマウスの血清腫瘍壊死因子α濃度上昇および血中白血球減少を抑制し,その作用はアデノシン受容体拮抗薬の併用により消失した.またKF24345は,プレドニゾロンおよびシクロフォスファミドと比較して,重篤な副作用を発現することなくマウス糸球体腎炎の病態を改善した.さらにKF24345は軽症,重症双方のマウス急性膵炎の病態を改善し,特に重症急性膵炎において致死を抑制した.KF24345の抗急性膵炎作用は,アデノシン受容体拮抗薬の併用により消失した.以上,KF24345が炎症性臓器疾患に対して有効である可能性が示された.KF24345の作用はアデノシン拮抗薬の併用により大部分が消失したため,KF24345の作用発現は内因性アデノシンおよびアデノシン受容体を介していると考えられる.以上の研究を通じて,これまで主に虚血性疾患治療薬として使用されてきたアデノシン取り込み阻害薬が,各種炎症性疾患に対しても有効である可能性が初めて明らかとなった.
実験技術
  • 吾郷 由希夫, 松田 敏夫
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 122 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/07/22
    ジャーナル フリー
    神経伝達物質遊離を無麻酔,無拘束下で測定することが可能である脳マイクロダイアリシス法は中枢神経系薬物の作用機構の解析に最も有用な方法論の一つである.本手法は,液体クロマトグラフィーの技術進歩により,現在では同一部位の複数の神経伝達物質を同時に定量することを可能にしている.我々は長期隔離飼育マウスの異常行動の神経科学的基盤について,そして本病態モデル動物に対するセロトニン神経系薬物の作用機構について本手法を用い検討している.本稿では,長期隔離飼育マウスの特徴,本マウスでの脳マイクロダイアリシス法の実際について紹介する.
新薬紹介総説
  • 花田 充治, 野口 俊弘, 村山 隆夫
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/07/22
    ジャーナル フリー
    アムルビシンは住友製薬により全合成された新しいアントラサイクリン系の抗癌薬であり,2002年4月に非小細胞肺癌と小細胞肺癌を適応症として製造承認を得た.ドキソルビシンなど現在市販されているアントラサイクリン系薬剤は全て発酵品あるいは発酵品からの半合成品であるのに対し,アムルビシンは化学的に全合成された化合物である.9位に水酸基の代わりにアミノ基を有し,アミノ糖の代わりにより簡単な糖部分を有するという,発酵品あるいは発酵品からの半合成品にはない化学構造上の特徴を有している.非臨床試験では,アムルビシンはヌードマウス皮下に移植したヒト腫瘍細胞株に対しドキソルビシンより強い抗腫瘍効果を示した.このマウスモデルにて薬剤組織分布を調べたところ,in vitroにてアムルビシンの約5~200倍の細胞増殖抑制活性を示す活性代謝物アムルビシノール(13位ケトン還元体)が正常組織に比べ腫瘍組織に多く分布していた.アムルビシンは組織分布の上でドキソルビシンに比べより腫瘍選択性の高い薬剤であると考えられ,また,既存のアントラサイクリン系薬剤と異なり,その抗腫瘍効果の発現に活性代謝物アムルビシノールが重要な役割を果たすと考えられた.アムルビシンはトポイソメラーゼIIを介したクリーバブルコンプレックスの安定化により抗腫瘍効果を示し,強いインターカレーション作用により抗腫瘍効果を示すドキソルビシンとは作用機序が異なると推察された.臨床試験では,未治療の進展型小細胞肺癌に対し高い奏効率(76%)を示した.未治療の非小細胞肺癌に対する奏効率は23%であった.主な副作用は骨髄機能抑制で,特にグレード3以上の好中球減少の発現率は77%であった.現在,悪性リンパ腫に対する後期第II相試験と未治療の進展型小細胞肺癌に対するシスプラチンとの併用による第II相試験が進行中である.
  • 川ばた 和一十, 萩尾 哲也, 松岡 昌三
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 2 号 p. 151-160
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/07/22
    ジャーナル フリー
    急性肺障害がもたらされる原因の一つとして,肺の炎症局所ではプロテアーゼに対する高分子内因性阻害物質の活性が種々の要因により減弱するため,好中球エラスターゼが肺組織を破壊する可能性が考えられている.急性呼吸促迫症候群を含む急性肺障害患者では,肺胞洗浄液中や血液中の好中球エラスターゼが増加することが知られている.また,急性肺障害惹起後の動物では好中球の活性化に伴い,血漿中や肺胞洗浄液中で好中球エラスターゼ活性が顕著に上昇している.シベレスタットナトリウム(商品名:注射用エラスポール100,以下シベレスタット)は好中球エラスターゼに特異的な合成低分子阻害薬である.シベレスタットはこれらの動物モデルにおいて,上昇した好中球エラスターゼ活性を阻害すると同時に,肺の炎症性·浮腫性変化や呼吸不全死を抑制した.さらに,臨床試験ではシベレスタットが全身性炎症反応症候群に伴う急性肺障害を改善することが明らかにされている.シベレスタットは,体内に存在する高分子内因性阻害物質と異なり,肺炎症局所で活性が減弱せず,好中球エラスターゼがもたらす急性肺障害の特徴的な病態を効果的に改善するものと考えられる.今後,臨床現場において,本剤の急性肺障害に対する有用性がさらに明らかにされることが期待される.
  • 南 新三郎, 服部 力三, 松田 朗
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 2 号 p. 161-178
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/07/22
    ジャーナル フリー
    メシル酸パズフロキサシン(PZFX:パシル点滴静注液,パズクロス注)は富山化学工業株式会社において創製され,三菱ウェルファーマ株式会社と富山化学工業株式会社で共同開発された,1-aminocyclopropyl基を有する新規な注射用ニューキノロン系抗菌薬である.PZFXは静注投与後に高い血中濃度を示しながらも,けいれん誘発作用,局所刺激作用および血圧降下作用などの注射用ニューキノロン系抗菌薬で懸念される作用が弱いことが基礎的検討で認められている.一方,PZFXはセフェム系,カルバペネム系,アミノグリコシド系抗菌薬に耐性を示す細菌に対しても強い抗菌力を示し,その強い殺菌作用により各種耐性菌での動物感染実験モデルにおいて,既存注射用セフェム系抗菌薬より優れた治療効果を示した.更に,臨床試験においても,PZFXは注射用抗菌薬の対象となる中等症以上の感染症にて,注射用セフェム系抗菌薬ceftazidime(CAZ)と同等の臨床効果と安全性を示し,加えて各科領域の前投薬無効例に対しても良好な臨床効果を示した.これらの基礎試験および臨床試験成績から,PZFXは細菌感染症治療の有用な選択肢として期待される.本総説では,PZFXの基礎的·臨床的成績を概説し,注射用抗菌薬の中におけるPZFXの臨床的位置付けについて考察する.
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