腎灌流圧下降時の腎循環に対するレニン・アンギオテンシン(RA)系とトロンボキサンA
2(TXA
2)の作用を犬を用いて検討した.対照群の腎動脈内へ全身血圧に影響をおよぼさない微量(1.5~4.5ng/kg/min)のアンギオテンシンII(AII)を注入すると腎動脈圧(RAP)が正常な場合には腎血流量(RBF),GFR共に減少するが,大動脈クランプを用いてRAPを60mmHgに下降させた場合には,AII注入によりRBFが減少するのに対してGFRはコントロール値の122%に増加した.カプトプリルを前投与した群ではカプトプリルによりRBFは増加するがRAPを下降させるとRBFの減少が著しく,更にAIIの注入によりRBFの減少率は増強された.インドメタシンの前投与では,RAPの下降によるRBFおよびGFRの減少度は増強され,その減少はAIIの注入により一層顕著となった.TXA
2合成阻害薬であるUK38485を前投与した群では,AII投与に伴うRBFおよびGFRの変化は対照群と類似であったが,RAP下降時のAII注入によるGFRの変化は対照群と異なりコントロール値の80%に減少した.腎組織スライスでのTXB
2産生能は,低灌流圧腎皮質で正常圧腎皮質の2.7倍と有意に高値を示した.このTXB
2産生能亢進はカプトプリルを前投与した群では認められなかった.一方6-keto-PGF
1αの産生能にはRAP下降による変化が認められなかった.以上の成績よりRA系とプロスタノイド系,特に血管収縮性の強いTXA
2はAIIの糸球体毛細血管収縮作用を増強して糸球体濾過圧を保ち低灌流圧時の腎のGFR維持に重要な役割を果していることが示唆された.
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