日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
133 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集:下部消化管疾患の病態研究とターゲットバリデーション
  • 鎌田 信彦, 日比 紀文
    2009 年 133 巻 4 号 p. 186-189
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    消化管は腸内細菌との共生関係にある特殊な臓器であり,他の組織とは異なり,常に抑制性の免疫が優位になっている.近年,この腸管特異的抑制性免疫システムにおいて,腸管マクロファージ(Mφ)が重要な役割を担っていることが明らかになってきた.一方で,腸管Mφの抑制能の破綻は腸内細菌に対する過剰な免疫応答を惹起し,炎症性腸疾患のような腸管慢性炎症の引き金となる.著者らは,クローン病の腸管粘膜において自然免疫関連受容体であるCD14を高発現した特殊なMφを同定した.本細胞は腸内細菌刺激により過剰なIL-23産生することで,腸管T細胞の過剰な活性化を誘導することが明らかになった.さらにIFN-γは腸管Mφの分化に影響を及ぼし,IFN-γ存在下で分化誘導されたMφはIL-23高産生炎症性Mφとなる.その結果,異常分化を遂げた腸管MφはIL-23を介してさらにIFN-γ産生を亢進さる.このように,クローン病腸管粘膜局所では,腸管Mφを中心とし構築された炎症性フィードバックサイクルが病態形成に深く関与していると考えられる.
  • 堀 正敏, 尾崎 博
    2009 年 133 巻 4 号 p. 190-193
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    消化管の蠕動運動は,カハール介在細胞,壁内神経叢,消化管平滑筋細胞の相互作用により制御されており,様々な原因でひとたび消化管に炎症が生じると,これらの相互作用に異常が生じて消化管の蠕動運動は抑制される.消化管壁には多数のマクロファージが常在しているが,近年,この常在型マクロファージと単球由来の滲出性マクロファージが腸炎時の消化管運動抑制を生じる実行細胞であることがわかってきた.さらに,この筋層部マクロファージの細胞膜上に発現しているα7nicotinic acethylcholin receptorを介したコリン作動性抗炎症応答機構が存在することがわかり注目されている.
  • 土井(大橋) 雅津代, 榑林 陽一
    2009 年 133 巻 4 号 p. 194-198
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は,機能性消化管障害に分類され,便通異常(便秘や下痢)と慢性的な腹痛(内臓知覚過敏)を伴う疾患である.IBSの発症原因を特定することは難しいが,社会ストレスあるいは腸管内の感染・炎症が引き金となり,自律神経系や腸管内神経系に支障を与え発症するのではないかと考えられている.薬物治療は,消化管運動異常を改善する対症療法が主であり,慢性腹痛に対しては未だ治療法は確立されておらず,患者のQOLを低下させる原因となっている.基礎研究においては,IBSに類似した病態モデルの作成が急務であったが,近年になってストレスや炎症を利用した内臓知覚過敏モデルが作成され,内臓知覚過敏改善を目的とした創薬研究に応用されている.本稿では,IBSに伴う内臓痛覚過敏症の特徴につい概説すると共に,IBSの新しい病態モデルについて紹介する.
  • 東 泰孝, 竹内 正吉
    2009 年 133 巻 4 号 p. 199-202
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    クローン病および潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患は,緩解と再燃を繰り返す慢性の疾患である.原因は未だ完全には解明されていないが,免疫異常,特に粘膜免疫系の過剰な反応によって誘発される可能性が示されている.一方,消化管には様々な機能的ペプチドが存在し,消化管における消化,吸収,運動などの生理機能を調節する.これら消化管ペプチドは消化管の粘膜固有層あるいは粘膜下組織に存在する各種免疫担当細胞より産生されることから,近年,消化管ペプチドによる免疫系機能調節についての知見が増加している.今回,炎症大腸炎モデルを用いて消化管ペプチドの役割を検討したところ,PACAP,VIP,CGRPおよびグレリンなどの消化管ペプチドは大腸炎に保護作用を示すことが明らかとなった.一方で,アディポネクチンおよびレプチンなどのペプチドは大腸炎を増悪させることが示され,様々な消化管ペプチドが炎症性腸疾患に関与することが明らかとなってきた.
  • 加藤 伸一, 天ヶ瀬 紀久子, 竹内 孝治
    2009 年 133 巻 4 号 p. 203-205
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal antiinflammatory drug:NSAID)は胃のみならず小腸にも重篤な傷害を惹起することが知られており,臨床において問題になっている.NSAIDによる小腸傷害の病態には,シクロオキシゲナーゼ阻害によるプロスタグランジン(PG)低下を背景に,粘液分泌の低下や小腸運動の亢進,腸内細菌の小腸粘膜への浸潤・接着,誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)発現の増大に伴う一酸化窒素(NO)の過剰産生,ならびに好中球浸潤などの種々の炎症反応が関与していることが明らかになってきた.一方,臨床において関節リウマチ(Rheumatoid arthritis:RA)患者では他のNSAID使用者に比べてNSAIDによる胃傷害の発生頻度が高いことが知られており,この現象はRAの実験動物モデルとして知られているアジュバント関節炎ラットを用いた基礎研究でも再現されている.胃の場合と同様に,NSAIDにより誘起される小腸傷害も関節炎ラットでは著明に増悪した.また,関節炎ラットではNSAIDによる小腸傷害の発生が正常ラットに比べてより早期から認められた.関節炎ラットの小腸粘膜では平常時から明らかなiNOS発現が認められ,Toll-like receptor(TLR)4発現も正常ラットと比較して増大していた.これらの知見から,関節炎ラットではTLR4発現の増大に伴いiNOS発現が平常時から増大しており,その結果小腸傷害の発生が早まり,最終的に増悪に繋がったものと推察される.
実験技術
  • 河合 光久
    2009 年 133 巻 4 号 p. 206-209
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    便通異常と腹痛を主症状とする過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,ストレスによる脳腸相関の異常や消化管の軽度な炎症などが関与しているといわれ,薬剤開発においても,ストレスや軽度な消化管炎症で惹起させた動物モデルが活用されている.ラットを使った身体拘束によるストレス誘発大腸知覚過敏モデルは,拘束下で有意な排便亢進を示し,大腸伸展刺激法により,IBS患者に類似した大腸知覚過敏を示す有用なモデルと考えられる.モデルの作製は,ハンドリングなどの馴化を行ったラットを拘束ケージやテーピングにより一定時間全身あるいは部分的に拘束負荷を与えるだけのシンプルな方法である.また,大腸知覚過敏は,大腸内に留置したバルーンに圧を加えたときの動物の疼痛行動として検出する.この行動は,腹筋収縮を特徴とし,身体拘束ストレスを与えた動物では明らかにこの収縮数が増加した.一般的にバルーンによる大腸伸展刺激の評価法では筋電図を使った腹筋の興奮を測定することが多いが,本稿では,本モデルの作製法と大腸伸展刺激による視覚的な腹筋収縮の検出法を中心に概説する.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験
  • 嶋田 薫
    2009 年 133 巻 4 号 p. 210-213
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    製薬企業における新薬の生産性の低下を招く要因,すなわち開発中止理由に薬物動態の割合が高いことが示されて以来,創薬初期段階での薬物動態研究が積極的に展開され,薬物動態が原因で開発中止となるケースは激減した.開発中止理由の変化を受けて,今,創薬初期段階の薬物動態試験はパラダイムシフトを起こす引金は引かれた.本稿では,「化合物から医薬品にするために必要な薬物動態試験」の序として,薬物動態研究関連のスクリーニングを解説し,実際の使用態様も紹介した.また,今後どのような評価系が望まれ,どのように戦略的に使用すべきかを開発効率の面から記述した.さらに,探索薬物動態部門が抱える問題について実際にプロジェクトを運営する現場から問題を提起・パラダイムを変える必要性について言及した.
新薬紹介総説
  • 田原 誠, 柴田 篤, 山口 志津代, 浜田 悦昌
    2009 年 133 巻 4 号 p. 215-226
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/14
    ジャーナル フリー
    スニチニブリンゴ酸塩(以下スニチニブと記す)は腫瘍の細胞増殖,血管新生および転移の制御に関与する様々な受容体型チロシンキナーゼ(RTK)におけるシグナル伝達を選択的に遮断する,マルチターゲットの経口チロシンキナーゼ阻害薬である.スニチニブおよび主要代謝物(脱エチル体,SU012662)は酵素レベルまたは細胞レベルのin vitroアッセイにおいてVEGFR-1,-2および-3,PDGFR-αおよび-β,KIT,CSF-1R,FLT-3ならびにRETのチロシンキナーゼ活性を強く阻害した.またスニチニブはin vitroで内皮細胞の増殖および発芽を阻害し,その作用機序として血管新生阻害活性が重要であることが示された.さらに,上記の標的RTKを発現するGISTを含む各種腫瘍細胞の増殖を阻害した.スニチニブはin vivo試験においても標的RTKリン酸化,VEGF誘導性の血管透過性亢進および血管新生を阻害し,種々の異種移植腫瘍モデルに対し,抗腫瘍効果(増殖阻害および腫瘍退縮)を示した.これらの試験の用量反応相関およびPK/PD解析の結果から,スニチニブの有効血漿中濃度は50 ng/mLと推定され,この結果は臨床試験における目標血漿中濃度の設定にも用いられた.臨床試験では,イマチニブに治療抵抗性または不忍容の消化管間質腫瘍(GIST)患者および腎細胞癌患者におけるスニチニブの有効性および安全性が国内外で検討され,いずれの疾患においても,日本人患者における治療成績は外国人患者における成績と同様に優れた有効性を示した.また,日本人患者におけるスニチニブによる有害事象発現の頻度は外国第III相試験より高かったが,概して可逆的で,減量や休薬により管理可能であった.これらの非臨床および臨床試験成績よりスニチニブの有用性が明らかとなり,本邦ではイマチニブ抵抗性のGISTおよび根治切除不能または転移性の腎細胞癌の治療薬として2008年4月に承認された.
feedback
Top